牛乳營業取締規則違犯ノ件

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大審院刑事判決録（刑録）19輯1137頁

本件上告ハ之ヲ棄却ス

辯護人小木曾庄吉上告趣意書本案記録ニ依レハ牛乳搾取營業名義ハ上告人ナレトモ内容ニ於テハ然ラス却テ長野縣上高井郡日瀧村當時同縣更級郡青木島村中村竹次郎ナリトス

右ノ事實左ニ

「聽取書

中村竹次郎

當四十三年

二、私ハ明治四十四年青木島テ營業ヲ始メル前ニ常吉ニ頼ミマシテ名義丈ケヲ借リテスルコトニ致シテ營業ヲ始メマシタノテアリマスカラ青木島ノ營業ハ事實常吉ノ關係シナイコトテアリマス常吉ハ名ヲ貸ストキ不都合ノナイヨウニシテ呉レト呉呉モ申シマシタ

右録取ス

檢事　和田義武」

トアルニ徴シテ明瞭ナリトス然ルニ第一審ニ於テハ共同營業ト看做シテ竹次郎ヲ罰金十圓ニ上告人

（被告）ヲ罰金五圓ニ處シタリ而シテ中村竹次郎ハ營業者ナルヲ以テ既ニ服罪シタルモ上告人ハ事實營業者ニアラサルヲ以テ乃チ控訴セリ

一、然ルニ原審ニ於テモ尚ホ左ノ如ク事實ヲ認定セラレタリ

主文

本件控訴ハ之ヲ棄却ス

被告常吉ハ中村竹次郎ト共同シテ長野縣更級郡青木島村ニ於テ牛乳搾取販賣業ヲ營ムモノナル所大正二年六月二十四日其雇人宮澤義郎高橋龜太郎ハ右營業場ニ於テ搾取シタル法定ノ比重ヲ有セサル牛乳約５升ヲ配付シ以テ販賣シタルモノナレ」然レトモ上告人ハ共同營業者ニアラスシテ唯タノ名義人タルニ止マルノミ元來牛乳營業取締規則第二十條ニハ

「牛乳營業者カ未成年者ルハ禁治産者ナルトキハ本則ニ依リ之ヲ適用スヘキ罰則ハ之ヲ法定代理人ニ適用ス但シ其營業ニ關シ成年者ト同一ノ能力ヲ有スル未成年者ニ付テハ此限ニ在ラス

牛乳營業者ハ其代理人、戸主、家取、同居者、雇人其他ノ從業者ニシテ其業務ニ關シ本則ニ違背シタルトキハ自己ノ指揮ニ出テサルノ故ヲ以テ罰則ヲ免ルルコトヲ得ス

法人ノ代表者又ハ其雇人其他ノ從業者法人ノ業務ニ關シ本則ニ違背シタル場合ニ於テハ本則ニ規定シタル罰則ヲ法人ニ適用ス

法人ヲ罰スヘキ場合ニ於テハ法人ノ代表者ヲ以テ被告人トス」トアリ故ニ表面ノ名義人ヲ罰スルノ趣旨ニアラスシテ寧ロ事實上ニ於テ牛乳ノ營業ヲ爲ス一人ノミヲ罰スルノ精神ナリト解釋スルヲ相當ナリトス然ラハ則チ既ニ一人ノ中村竹次郎ヲ罰シ其裁判確定シタル以上ハ又更ニ一人タル上告人ヲ罰スヘキモノニアラサルヤ不竢論然ルニ上告人ヲ罰シタルハ所謂擬律錯誤ノ裁判ナリトス若シ夫レ然ラスシテ何人ニテモ罰スル精神ナシトセハ一人ノ營業名義ヲ以テ數百十人乘合ニテ營業シタル場合ニハ悉ク皆之ヲ罰セサルヘカラサル乎豈特別法ノ常トシテ如此理アラシヤト云フニ在レトモ◎被告カ單ニ名義人タルニ止マリ實際ノ營業者ハ中村竹次郎ナルヤ將タ原判示ノ如ク其營業カ右兩名ノ共同事業タルヤハ全ク事實上ノ判斷ニ屬シ事實審タル原審カ職權ヲ以テ斷定ス可キ事項ニ屬スルヲ以テ捉ヘテ上告論旨ト爲スコトヲ得サルモノトス而シテ既ニ原審ノ如ク被告カ右竹次郎ト共同シテ本案ノ違法行爲ニ及ヒタル事ヲ認メタル以上各自ニ其刑ヲ科スヘキハ當然ナルヲ以テ本論旨ハ理由ナシ

右ノ理由ナルヲ以テ刑事訴訟法第二百八十五條ニ依リ主文ノ如ク判決ス

檢事矢追秀作干與大正二年十一月六日大審院第二刑事部