◎判決要旨
- 一 數人ノ生命ニ關スル法益カ侵害ノ目的タルトキト雖モ單一意思ノ發動ニ因ル數箇ノ行爲ノ結果ナル以上刑法第五十五條ノ範圍内ニ入ルヘキモノニシテ數罪トシテ處斷スヘキモノニ非ス
(參照)連續シタル數箇ノ行爲ニシテ同一ノ罪名ニ觸ルルトキハ一罪トシテ之ヲ處斷ス(刑法第五$十五條)
右殺人未遂被告事件ニ付大正元年八月十六日長崎控訴院ニ於テ言渡シタル判決ニ對シ原院檢事長山川徳治ハ上告ヲ爲シタリ因テ判決スル左ノ如シ
理由
本件上告ハ之ヲ棄却ス
原院檢事長上告趣意書ハ當院判決ハ被告ハ云云明治四十五年三月九日夜寢ニ就キ熟々ハツ及源吾夫婦ノ亡状ヲ追想シテ憤懣ノ念ニ堪ヘス茲ニ右三名ヲ殺害シテ恨ヲ霽サント決意シ翌十日午前一時頃利太郎方ニ在合タサル斧ヲ携ヘテ源吾方ニ到リ同家四疊ノ間ニ於テ所携ノ斧ヲ以テ先ツハツノ頭部ニ斬リ付ケ三个所ノ重傷ヲ負ハシメ續テ源吾ハルノ頭部ニ斬リ付ケ各二个所ノ重傷ヲ負ハシメ之カ爲メ源吾ハ出血多量腦實質ノ損傷ヲ起シ同日午後二時頃死亡シハツハ腦膜炎ヲ惹起シ同月二十八日致命シタルモハルハ其後ノ經過良好ニシテ死ニ至ラサリシモノナリト事實ヲ認定シ而シテ之カ擬律トシテ被告ノ所爲ハ刑法第百九十九條第五十五條ニ該當スルヲ以テ被告ヲ無期懲役ニ處シ云云ト判示シ其理由トシテ凡ソ單一ナル意思ノ發動ノ下ニ同一罪名ニ觸ルル行爲ヲ反覆シ因テ同種ノ法益ヲ侵害スルニ於テハ其被害法益カ財産ニ關スルト身體若クハ生命ニ關スルトヲ問ハス等シク連續犯ノ一罪ヲ構成スヘキコトハ刑法第五十五條ノ法意ナリト説明セリ然レトモ生命身體自由名譽等ノ如キ人格的法益侵害ノ行爲ハ各其人ニ對スル毎ニ一罪ヲ構成シ假令連續シテ數人ニ對シ殺害行爲ヲ爲シタル時ト雖モ各被害者ニ對シ各別ニ犯罪ヲ構成シ從テ併合罪ノ規定ヲ適用スヘキモノナルコトハ御院從來ノ判例ノ示ス所ナリ
本年二月九日横領其他被告事件ニ付貴院聯合部ノ判決ハ要スルニ財産ニ對スル法益侵害ニ關スルモノニシテ人格的法益侵害ニ迄其趣意ヲ及ホシタルモノト觀ルコトヲ得ス又本年四月二十九日放火未遂竊盜被告事件ニ付貴院ノ判決ハ放火ノ如キ主トシテ公共的法益侵害ヲ以テ本質ト爲ス犯罪ト雖モ尚連續犯ヲ構成スルコトヲ判示シタルモ是亦未タ人格的法益侵害ニ迄其主意ヲ及ホシタルモノト觀ルコトヲ得ス或ハ本年三月二十八日殺人殺人未遂家宅侵入其他被告事件ニ付貴院カ與ヘタル判決ヲ解シテ右ハ人格的法益ニ付テモ連續犯ノ構成ヲ認メタルモノト云フモノナキニ非サルモ右判決ニハ一箇ノ殺人罪及三箇ノ殺人未遂罪ヲ行フ手段トシテ一箇ノ家宅侵入罪ヲ犯シタルトキハ其各行爲ハ刑法第五十四條第一項後段ニ依リ重キ殺人罪ヲ以テ處斷スヘキ一罪ヲ構成スルモノトストアリテ右一箇ノ家宅侵入ト因果ノ關係ヲ有スル一箇ノ殺人及三箇ノ殺人未遂罪カ其レ自ラ連續犯ヲ構成スルヤ又ハ併合罪トナルヤ要スルニ其判斷ノ外ニアリト云ハサルヘカラス結局貴院判例ニ於テモ未タ人格的法益ニ付從來ノ判例ヲ變更セラレタルモノアルヲ聞カス故ニ人格的法益侵害ニ關シテハ本件ノ如ク假令連續シテ數人ニ對シ殺害行爲ヲ爲シタル時ト雖モ尚併合罪ヲ構成スルモノトナスヲ相當ト信ス然ルニ當院カ之ヲ以テ連續犯ヲ構成スルモノト判示シタルハ擬律ノ錯誤アルモノト思考スト云ヒ」當院檢事上告趣意書第一刑法第五十五條ハ連續犯ノ成立スルニハ數箇ノ行爲カ連續スルコトヲ必要ト認メタリ而シテ同條ニ所謂行爲トハ意思ノ實行ニ依リ法益ヲ侵害シ若クハ侵害セントスル状態ヲ發生セシムルコトヲ云フモノナレハ行爲ノ連續スルニハ意思ニ於テ連續シ且意思實行ノ結果ニ於テ連續セサルヘカラス何トナレハ此二者ハ行爲ノ觀念ヲ形成スルモノナレハ行爲連續ト云ヘハ此二者ノ連續ヲ意味スルコト當然ナレハナリ然ルニ原判決カ單ニ意思ノ状態ノミニ依據シテ行爲ノ連續ヲ認メ其結果ノ如何ヲ度外ニ置キタルハ富ヲ得サルモノトス而シテ結果ニ關スル連續ノ成立ハ法益ノ種類ニヨリテ差別アリ蓋シ連續トハ宛モ鎖ノ如ク脈脈其連結シテ一體トシテ觀察シ得ル状態ヲ指稱スルモノニシテ數箇ノ被害法益ハ之ヲ箇箇ニ分離シテ觀察シ得ルト同時ニ又之ヲ續キタル一體トシテ觀察シ理會シ得ル場合ナラサルヘカラス即チ財産ニ關スル法益ノ如キハ法益ノ歸屬者ニ於テ任意ニ之ヲ抛棄スルヲ得ヘク又之ヲ讓渡シテ主格ヲ變更スルヲ得ヘク法益ト法益ノ歸屬者トハ全ク分離シテ觀察スルコトヲ得ルカ故ニ偶侵害シタル財産的法益カ數多ノ異ナリタル主格ニ屬シタル場合ト雖モ之ヲ一體トシテ觀察スルヲ妨ケス又法益カ國家若クハ社會ノ安寧秩序良風等ノ如ク不定多數人ニ對スル包括的利益ニ存スル場合ノ如キハ該法益自體ノ性質上之ニ對スル同種類ノ侵害ハ之ヲ一體トシテ觀察スルヲ得ヘシ然リト雖モ生命身體自由名譽貞操等ノ如キ法益ハ其歸屬スル人格ニ固著シ之ヲ他人ニ讓與シ若クハ他人ノ其ト合シテ一ト爲スコトヲ得サルモノニシテ各人格毎ニ特立スルモノナレハ法律上各人格毎ニ別箇ニ觀察スルノ外ナク之ヲ包括シテ一體トシテ理會スルコトヲ得ス左レハ如此法益ハ其歸屬スル人格ニシテ異ナル以上ハ侵害ノ結果ハ箇箇ニ獨立シ之ヲ連續シタル一體ト認ムルヲ得サルモノニシテ同一人格ニ對スル數箇ノ侵害アル場合ニ於テノミ連續犯ノ觀念ヲ認ムヘキモノトス然ルニ原判決カ數人ニ對スル殺人行爲ニ對シ連續犯ノ成立ヲ認メタルハ不法ナリト云ヒ」第二更ニ法ノ精神ニ覈フルニ抑モ連續犯ヲ認ムルト否トハ一罪數罪ノ分ルル所ニシテ此區別ハ刑罰ニ關シ著大ナル差異ヲ生スルモノトス即チ連續犯成立スルトキハ單ニ其犯罪ノ法定刑ノ範圍内ニ於テ處分スルニ止マルト雖モ然ラサル場合ニ於テハ併合罪トシテ或ハ刑ヲ併科シ或ハ刑ヲ加重スルヲ原則トシ唯併合罪ノ刑中死刑又ハ無期刑ニ該當スルモノアリテ之ニ依リテ處斷スルトキハ他ノ刑ヲ科セサルモノト爲シタリ之レ如此場合ニ於テ刑ヲ併科シ若クハ加重スルハ特ニ其必要ナク又ハ事實上不能ナルカ爲メニ生シタル例外ニ外ナラスシテ主義トシテ連續犯ト同一ノ刑ヲ以テ蒞マントスルニアラサルナリ而シテ連續犯ハ本來箇箇ニ犯罪タルヘキ數箇ノ行爲ノ存スルモノナレハ之ヲ一罪ト認メ單ニ其法定刑ノ範圍内ニ於テ處斷スルモノト爲スニハ數箇ノ行爲アルモ特ニ刑ヲ加重シ若クハ併科スルヲ必要トセス又ハ之ヲ適富ト爲ササル理由アルモノナラサルヘカラス而シテ數箇ノ行爲カ單一ナル意思發動ノ下ニ行ハレタリトノ事實ハ一般的ニ刑罰ヲ其罪ノ法定刑ノ範圍ニ止メ併合罪ト其處分ヲ全然異ニスヘキ充分ノ理由ト爲スニ足ラス從テ若シ單ニ意思ノ状態ノミニヨリテ連續犯ヲ認メンニハ連續犯ニ付テモ單ニ法定刑ノ範圍ニ止メスシテ刑ヲ重加スヘキコトト爲ササレハ立法ノ首尾貫徹セサルニ至ル從テ意思ノ状態ノミニ依リテ一般的ニ連續犯ヲ認メタルモノトナラハ併合罪ニ付特別ノ處斷ヲ定メタル我刑法ノ趣旨ニ反スルモノニシテ不當ノ解釋ナリト斷定セサルヲ得ス而シテ前項ニ述ヘタルカ如ク結果ヲ一體トシテ觀察シ得ル場合ニ於テハ數箇ノ法益侵害アルモハ偶々法益ノ歸屬者ヲ異ニセル偶然ノ事態ニ基ツクモノト認ムヘク或ハ單ニ侵害ノ程度ノ問題ニ歸著スルモノト認メラルルヲ以テ之ヲ一罪トシテ處分スヘキ相當ノ理由アリト雖モ人格的法益ノ侵害ニ付テハ其侵害ハ各人格毎ニ箇箇獨立シ被侵害者ノ複數ナル場合ハ其單數ナル場合ニ比シテ罪性甚タシク異ナルヲ以テ苟モ數箇ノ行爲ニ依リテ之ヲ犯シタル以上ハ之ヲ一罪トシテ其法定刑ノ範圍ニ於テ處分スルヲ相當ト認ムヘキ理由アルコトナシ故ニ前項所論ノ如ク法益ノ種類ニ依リテ分別シ連續犯ノ成否ヲ決スルハ法ノ趣旨ニ適合スルモノト信ス但シ本件ノ行爲ハ刑法第百九十九條ニ該當シ死刑又ハ無期刑ニ處シ得ヘキモノナルヲ以テ同法第四十六條ノ適用ヲ受クヘク從テ之ヲ連續犯ト爲スモ併合罪ト爲スモ結局其結果ヲ異ニセサルカ故ニ此點ニ付テハ何等ノ實益ナキカ如シト雖モ訴訟手續上其他ニ諸多ノ影響アルノミナラス連續犯ノ成立ハ他ノ法益侵害ニ對スル犯罪ト共通ノ問題ニシテ死刑又ハ無期刑ニ科セサル他ノ人格的法益侵害ニ對スル犯罪ニ付テハ其處斷ニ著シキ影響アルモノナレハ立法ノ本旨ニ遡ホリテ其成否ノ分界ヲ明確ニスルノ要アルヤ勿論ナリト云ヒ」第三原判決ノ如ク人格的法益ノ侵害ニ付テモ單一ナル意思發動ノ下ニ行ハレタル以上ハ普ネク連續犯ヲ構成スルモノト解スルトキハ猥褻罪姦淫罪名譽毀損罪ノ如キ親告罪ノ場合ニ於テ甚タシキ不都合ヲ惹起スルヲ免レス設例ハ單一ノ決意ニ基ツキ數人ヲ強姦シタル場合ニ連續ノ一罪ヲ構成スルモノトセハ被害者ノ一人告訴ヲ爲シ他ハ告訴ヲ爲ササル場合ニ於テモ該犯行全部ニ付刑事訴訟手續ヲ開始シ得ルモノト爲ササルヘカラス之レ此ノ如キ行爲ヲ實體上一罪ト認ムル當然ノ結果ナリ此點ハ其他ノ姦淫罪猥褻罪名譽毀損罪ニ付テモ之ト異ナルコトナシ然リト雖モ若シ果シテ然リトセハ如此犯罪ヲ親告罪ト爲シ被害者ノ告訴ヲ訴訟ノ條件ト爲シタル法律ノ趣旨ニ反スルヤ大ナリ何トナレハ如此犯罪ヲ親告罪ト爲シタルハ被害事實ヲ公ニスルニ依リテ被害者カ却テ更ニ名譽ヲ害セラルルニ至ルコトアルヲ慮リ若クハ家庭ノ平安ヲ保維センカ爲メ刑事訴追ニ關スル一條件ヲ被害者ノ意思ニ委ネタルモノナルニ他ノ被害者ノ告訴アリタルカ爲メ自己ノ名譽ヲ思ヒ若クハ家庭ノ平和ヲ顧念シテ被害ヲ忍ハントスル者ノ被害事實殊ニ犯人ニ於テ單一ノ決意ニ出テタリトノ單ナル事實ノ外更ニ何等ノ關係ナキ被害事實ヲ暴露スルニ至ルヲ以テナリ若シ又右ニ反シ全被害者ノ告訴アルニアラサレハ全ク訴追ヲ爲スヲ得サルモノトセンカ現實ニ法益侵害ノ事實存在シ被害者ハ之カ處罰ヲ求メントスルニ拘ハラス他ノ被害者ノ之ヲ忍フモノアルカ爲メ若クハ他ノ理由ニ依リテ告訴ヲ爲ササルモノアルカ爲メ全ク不問ニ付セラルルコトト爲リ法律カ其行爲ヲ犯罪ト認メタル趣旨ニ反スルニ至ル斯ノ如ク何レニスルモ不當ノ結果ヲ生スルモノニシテ之レ畢竟法律ノ趣旨ニ反シテ連續犯ノ範圍ヲ認メタル結果ニ外ナラス以テ原審判斷ノ誤レル一證ト爲スニ足ルヘシト云ヒ」第四當院判例モ數箇ノ生命權侵害ニ付連續犯ヲ認メタルモノナキコトハ長崎控訴院檢事長上告趣意書ニ説述スル所ノ如シ加之本年二月九日ノ聯合判決後即チ同年三月二十八日ニ於テ明治四十五年(れ)二七五號殺人殺人未遂家宅侵入等被告事件ニ付當院ノ下シタル判決ニ依レハ却テ連續犯ヲ認メサルノ趣意明カナリ今該事件ノ内容ヲ按スルニ控訴審ニ於テ確定シタル所ニ依レハ被告ハ數人ヲ殺害セント決意シ被害者宅ニ侵入シテ順次數人ニ斬リ付ケ其一人ヲ殺害シ他ハ殺害ヲ遂ケサリシ事實ニシテ之ニ對スル當院ノ擬律ヲ見ルニ「法律ニ照スニ被告ノ殺人ノ所爲ハ刑法第百九十九條ニ依リ死刑ニ殺人未遂ノ各所爲ハ孰レモ同法第百九十九條第二百三條ニ依リ有期懲役ニ(中畧)該當スル所右家宅侵入ノ所爲ハ殺人罪及ヒ各殺人未遂罪ノ手段ナルニ付同法第五十四條第一項後段第十條ニ依リ重キ殺人罪ノ刑ニ從フヘク云云」トアリ殺人及ヒ殺人未遂ノ點ニ付刑法第五十五條ヲ適用セサリシヲ以テ見レハ此ノ如キ法益ノ侵害ニ付テハ連續犯ノ成立ヲ認メサリシモノト解セサルヘカラス尤モ同判決ハ結局刑法第五十四條ヲ適用シテ一罪ト爲シタルモノナリト雖モ同條ヲ適用スヘキ場合ト雖モ連續犯ト爲ルヘキ事實ヲ包含スルトキハ先ツ刑法第五十五條ヲ適用シ然ル後同第五十四條ヲ適用スヘキモノナルコトハ明治四十三年(れ)五七四號事件ニ付明治四十三年五月六日言渡シタル判決(判示第七點)ニ於テ明白ニ判示セル所ニシテ明治四十四年(れ)二四一八號同年(れ)二四三八號明治四十五年(れ)三二七號等ノ事件ニ付言渡シタル判決ハ何レモ亦是ト同趣旨ノ擬律ニ出テタリ然レハ前掲判決ニ於テ殺人及ヒ殺人未遂ノ各行爲ニ付各法律ヲ適用シテ刑ヲ量定シタルハ全ク連續犯ノ成立ヲ認メサリシニ因ルコト疑ヲ容ルヘカラス從テ上來披陳シタル連續犯ノ成否ニ關スル所見ハ當院從來ノ判例ニ牴觸スルモノニアラサルヲ信スト云フニ在リ◎按スルニ刑法第五十五條ニ連續シタル數箇ノ行爲ニシテ同一ノ罪名ニ觸ルルトキハ一罪トシテ之ヲ處斷ストアルハ行爲多數ナルモ包括的一ノ犯意ニ出テ且ツ被害法益カ同一種類ニ屬シ法律上同一罪名ニ該ルモノナルトキハ一罪トシテ之ヲ處斷スルノ趣旨ニシテ侵サレタル法益ノ單數ナルト複數ナルトハ之ヲ區別セサル法意ナルコト本院カ明治四十五年二月九日同四十四年(れ)第二五九八號事件ノ判決ニ於テ判示セル所ニ徴シ明カナリ而シテ法益カ同性質ナル以上ハ其財産的法益ニ關スルト否トニ從ヒ行爲ノ連續的觀念ヲ左右スヘキ理由アルコトナケレハ本件ノ如ク數人ノ生命ニ關スル法益カ侵害ノ目的タルトキト雖モ單一意思ノ發動ニ因ル數箇ノ行爲ノ結果ナル以上右法條適用ノ範圍内ニ入ルヘキモノニシテ數罪トシテ處斷スヘキモノニ非ス前示當院判決ノ趣旨又之ニ外ナラサルヲ以テ原院カ繼續セル意思ヲ以テ數人ノ生命ニ危害ヲ加ヘタル本件被告ノ行爲ニ對シ刑法第五十五條ヲ適用シ一罪トシテ處斷シタルハ相當ニシテ上告論旨ハ理由ナシト云ハサルヘカラス所論明治四十五年(れ)第一七五號ノ事件ニ付キ當院ノ言渡シタル判決ハ繼續意思ニ出テタル數箇ノ殺人若クハ殺人未遂ノ行爲ニ付テハ刑法第五十五條ヲ適用スヘキモノニ非ストノ趣旨ヲ判示シタルモノニ非サレハ援テ以テ上告所論ノ資料ト爲スニ足ラス多數者カ人格的法益ヲ侵害セラレタル場合ニ就テハ然ラサル場合ニ比シ罪情甚タシク異ナルヲ以テ單ニ意思ノ情態ニノミ固著シ之ヲ連續犯トシテ其處分ヲ法定刑ノ範圍ニ止ムルハ併合罪ノ處分ト權衡ヲ失ストノ所論ノ如キハ事自ラ立法論ニ屬スルノミナラス數箇ノ行爲ニ依リ同一罪名ニ觸ルル數箇ノ侵害結果ヲ來シタルトキト雖モ同一意思ノ發動ニ基因スル以上ハ之ヲ一罪トシテ處分スヘキモノトセル所以ノモノハ此場合ニ就テハ其數箇ノ結果ハ包括的ニ觀察シ得ヘク恰モ單一ナル法益ノ侵害ヲ生シタル一箇ノ行爲ト同視シ得ヘキモノナレハ之ヲ數罪トシテ重ク處斷スルノ妥當ナラス且ツ必要ナキモノト認メタルニ外ナラサレハ侵害カ數人ノ人格的法益ニ對シ行ハレタル場合ト雖モ之ヲ一罪トスル以上ハ其罪ノ法定刑ノ範圍内ニ於テ處分スルハ當然ニシテ之ヲ以テ本件被告ノ行爲ニ刑法第五十五條ヲ適用スヘカラサル理由ト爲スニ足ラス若シ夫レ數人ニ對スル姦淫又ハ名譽毀損等人格的法益ノ侵害ヲ目的トセル犯罪カ繼續意思ノ下ニ行ハレタル場合ニ於テ其一部ニ對スル告訴ハ他ノ告訴ナキ部分ニ付キ公訴ノ提起ヲ妨ケサルカ如キコトトナリ是等犯罪ヲ親告罪ト爲シタル法ノ精神ニ背戻スル不當ノ結果ヲ生スルニ至ルヘキヲ以テ併合罪トシテ處斷セサルヘカラストノ所論ハ同一ノ事相ヲ呈スルコトアルヘク而モ一罪トシテ處斷スヘキ刑法第五十四條牽連犯ノ場合ニ於テモ亦生スル別箇ノ問題ニシテ其解決如何ハ本案ノ連續犯罪ナルコトヲ否定スル根據ト爲スニ足ラス
以上説示ノ如クニシテ上告ハ理由ナシト認メ刑事訴訟法第二百八十五條ニ依リ主文ノ如ク判決セリ
檢事林頼三郎干與大正元年十一月五日大審院第一刑事部
◎判決要旨
- 一 数人の生命に関する法益が侵害の目的たるときと雖も単一意思の発動に因る数箇の行為の結果なる以上刑法第五十五条の範囲内に入るべきものにして数罪として処断すべきものに非ず
(参照)連続したる数箇の行為にして同一の罪名に触るるときは一罪として之を処断す(刑法第五$十五条)
右殺人未遂被告事件に付、大正元年八月十六日長崎控訴院に於て言渡したる判決に対し原院検事長山川徳治は上告を為したり。
因で判決する左の如し
理由
本件上告は之を棄却す
原院検事長上告趣意書は当院判決は被告は云云明治四十五年三月九日夜寝に就き熟熟はつ及源吾夫婦の亡状を追想して憤懣の念に堪へず茲に右三名を殺害して恨を霽さんと決意し翌十日午前一時頃利太郎方に在合たざる斧を携へて源吾方に到り同家四畳の間に於て所携の斧を以て先づはつの頭部に斬り付け三个所の重傷を負はしめ続で源吾はるの頭部に斬り付け各二个所の重傷を負はしめ之が為め源吾は出血多量脳実質の損傷を起し同日午後二時頃死亡しはつは脳膜炎を惹起し同月二十八日致命したるもはるは其後の経過良好にして死に至らざりしものなりと事実を認定し、而して之が擬律として被告の所為は刑法第百九十九条第五十五条に該当するを以て被告を無期懲役に処し云云と判示し其理由として凡そ単一なる意思の発動の下に同一罪名に触るる行為を反覆し因で同種の法益を侵害するに於ては其被害法益が財産に関すると身体若くは生命に関するとを問はず等しく連続犯の一罪を構成すべきことは刑法第五十五条の法意なりと説明せり。
然れども生命身体自由名誉等の如き人格的法益侵害の行為は各其人に対する毎に一罪を構成し仮令連続して数人に対し殺害行為を為したる時と雖も各被害者に対し各別に犯罪を構成し。
従て併合罪の規定を適用すべきものなることは御院従来の判例の示す所なり。
本年二月九日横領其他被告事件に付、貴院連合部の判決は要するに財産に対する法益侵害に関するものにして人格的法益侵害に迄其趣意を及ぼしたるものと観ることを得ず。
又本年四月二十九日放火未遂窃盗被告事件に付、貴院の判決は放火の如き主として公共的法益侵害を以て本質と為す犯罪と雖も尚連続犯を構成することを判示したるも是亦未だ人格的法益侵害に迄其主意を及ぼしたるものと観ることを得ず。
或は本年三月二十八日殺人殺人未遂家宅侵入其他被告事件に付、貴院が与へたる判決を解して右は人格的法益に付ても連続犯の構成を認めたるものと云ふものなきに非ざるも右判決には一箇の殺人罪及三箇の殺人未遂罪を行ふ。
手段として一箇の家宅侵入罪を犯したるときは其各行為は刑法第五十四条第一項後段に依り重き殺人罪を以て処断すべき一罪を構成するものとすとありて右一箇の家宅侵入と因果の関係を有する一箇の殺人及三箇の殺人未遂罪が其れ自ら連続犯を構成するや又は併合罪となるや要するに其判断の外にありと云はざるべからず。
結局貴院判例に於ても未だ人格的法益に付、従来の判例を変更せられたるものあるを聞かず。
故に人格的法益侵害に関しては本件の如く仮令連続して数人に対し殺害行為を為したる時と雖も尚併合罪を構成するものとなすを相当と信ず。
然るに当院が之を以て連続犯を構成するものと判示したるは擬律の錯誤あるものと思考すと云ひ」当院検事上告趣意書第一刑法第五十五条は連続犯の成立するには数箇の行為が連続することを必要と認めたり。
而して同条に所謂行為とは意思の実行に依り法益を侵害し若くは侵害せんとする状態を発生せしむることを云ふものなれば行為の連続するには意思に於て連続し、且、意思実行の結果に於て連続せざるべからず。
何となれば此二者は行為の観念を形成するものなれば行為連続と云へは此二者の連続を意味すること当然なればなり。
然るに原判決が単に意思の状態のみに依拠して行為の連続を認め其結果の如何を度外に置きたるは富を得ざるものとす。
而して結果に関する連続の成立は法益の種類によりて差別あり蓋し連続とは宛も鎖の如く脈脈其連結して一体として観察し得る状態を指称するものにして数箇の被害法益は之を箇箇に分離して観察し得ると同時に又之を続きたる一体として観察し理会し得る場合ならざるべからず。
即ち財産に関する法益の如きは法益の帰属者に於て任意に之を放棄するを得べく又之を譲渡して主格を変更するを得べく法益と法益の帰属者とは全く分離して観察することを得るが故に偶侵害したる財産的法益が数多の異なりたる主格に属したる場合と雖も之を一体として観察するを妨げず。
又法益が国家若くは社会の安寧秩序良風等の如く不定多数人に対する包括的利益に存する場合の如きは該法益自体の性質上之に対する同種類の侵害は之を一体として観察するを得べし然りと雖も生命身体自由名誉貞操等の如き法益は其帰属する人格に固著し之を他人に譲与し若くは他人の其と合して一と為すことを得ざるものにして各人格毎に特立するものなれば法律上各人格毎に別箇に観察するの外なく之を包括して一体として理会することを得ず。
左れば如此法益は其帰属する人格にして異なる以上は侵害の結果は箇箇に独立し之を連続したる一体と認むるを得ざるものにして同一人格に対する数箇の侵害ある場合に於てのみ連続犯の観念を認むべきものとす。
然るに原判決が数人に対する殺人行為に対し連続犯の成立を認めたるは不法なりと云ひ」第二更に法の精神に覈ふるに。
抑も連続犯を認むると否とは一罪数罪の分るる所にして此区別は刑罰に関し著大なる差異を生ずるものとす。
即ち連続犯成立するときは単に其犯罪の法定刑の範囲内に於て処分するに止まると雖も然らざる場合に於ては併合罪として或は刑を併科し或は刑を加重するを原則とし唯併合罪の刑中死刑又は無期刑に該当するものありて之に依りて処断するときは他の刑を科せざるものと為したり。
之れ如此場合に於て刑を併科し若くは加重するは特に其必要なく又は事実上不能なるか為めに生じたる例外に外ならずして主義として連続犯と同一の刑を以て蒞まんとするにあらざるなり。
而して連続犯は本来箇箇に犯罪たるべき数箇の行為の存するものなれば之を一罪と認め単に其法定刑の範囲内に於て処断するものと為すには数箇の行為あるも特に刑を加重し若くは併科するを必要とせず又は之を適富と為さざる理由あるものならざるべからず。
而して数箇の行為が単一なる意思発動の下に行はれたりとの事実は一般的に刑罰を其罪の法定刑の範囲に止め併合罪と其処分を全然異にすべき充分の理由と為すに足らず。
従て若し単に意思の状態のみによりて連続犯を認めんには連続犯に付ても単に法定刑の範囲に止めずして刑を重加すべきことと為さざれば立法の首尾貫徹せざるに至る。
従て意思の状態のみに依りて一般的に連続犯を認めたるものとならば併合罪に付、特別の処断を定めたる我刑法の趣旨に反するものにして不当の解釈なりと断定せざるを得ず。
而して前項に述べたるが如く結果を一体として観察し得る場合に於ては数箇の法益侵害あるもは偶偶法益の帰属者を異にせる偶然の事態に基づくものと認むべく或は単に侵害の程度の問題に帰著するものと認めらるるを以て之を一罪として処分すべき相当の理由ありと雖も人格的法益の侵害に付ては其侵害は各人格毎に箇箇独立し被侵害者の複数なる場合は其単数なる場合に比して罪性甚たしく異なるを以て苟も数箇の行為に依りて之を犯したる以上は之を一罪として其法定刑の範囲に於て処分するを相当と認むべき理由あることなし故に前項所論の如く法益の種類に依りて分別し連続犯の成否を決するは法の趣旨に適合するものと信ず。
但し本件の行為は刑法第百九十九条に該当し死刑又は無期刑に処し得べきものなるを以て同法第四十六条の適用を受くべく。
従て之を連続犯と為すも併合罪と為すも結局其結果を異にせざるが故に此点に付ては何等の実益なきが如しと雖も訴訟手続上其他に諸多の影響あるのみならず連続犯の成立は他の法益侵害に対する犯罪と共通の問題にして死刑又は無期刑に科せざる他の人格的法益侵害に対する犯罪に付ては其処断に著しき影響あるものなれば立法の本旨に遡ほりて其成否の分界を明確にするの要あるや勿論なりと云ひ」第三原判決の如く人格的法益の侵害に付ても単一なる意思発動の下に行はれたる以上は普ねく連続犯を構成するものと解するときは猥褻罪姦淫罪名誉毀損罪の如き親告罪の場合に於て甚たしき不都合を惹起するを免れず設例は単一の決意に基つき数人を強姦したる場合に連続の一罪を構成するものとせば被害者の一人告訴を為し他は告訴を為さざる場合に於ても該犯行全部に付、刑事訴訟手続を開始し得るものと為さざるべからず。
之れ此の如き行為を実体上一罪と認むる当然の結果なり。
此点は其他の姦淫罪猥褻罪名誉毀損罪に付ても之と異なることなし然りと雖も若し果して然りとせば如此犯罪を親告罪と為し被害者の告訴を訴訟の条件と為したる法律の趣旨に反するや大なり。
何となれば如此犯罪を親告罪と為したるは被害事実を公にするに依りて被害者が却て更に名誉を害せらるるに至ることあるを慮り若くは家庭の平安を保維せんか為め刑事訴追に関する一条件を被害者の意思に委ねたるものなるに他の被害者の告訴ありたるか為め自己の名誉を思ひ若くは家庭の平和を顧念して被害を忍はんとする者の被害事実殊に犯人に於て単一の決意に出でたりとの単なる事実の外更に何等の関係なき被害事実を暴露するに至るを以てなり。
若し又右に反し全被害者の告訴あるにあらざれば全く訴追を為すを得ざるものとせんか現実に法益侵害の事実存在し被害者は之が処罰を求めんとするに拘はらず他の被害者の之を忍ふものあるか為め若くは他の理由に依りて告訴を為さざるものあるか為め全く不問に付せらるることと為り法律が其行為を犯罪と認めたる趣旨に反するに至る斯の如く何れにするも不当の結果を生ずるものにして之れ畢竟法律の趣旨に反して連続犯の範囲を認めたる結果に外ならず以て原審判断の誤れる一証と為すに足るべしと云ひ」第四当院判例も数箇の生命権侵害に付、連続犯を認めたるものなきことは長崎控訴院検事長上告趣意書に説述する所の如し加之本年二月九日の連合判決後即ち同年三月二十八日に於て明治四十五年(レ)二七五号殺人殺人未遂家宅侵入等被告事件に付、当院の下したる判決に依れば却て連続犯を認めざるの趣意明かなり。
今該事件の内容を按ずるに控訴審に於て確定したる所に依れば被告は数人を殺害せんと決意し被害者宅に侵入して順次数人に斬り付け其一人を殺害し他は殺害を遂けざりし事実にして之に対する当院の擬律を見るに「法律に照すに被告の殺人の所為は刑法第百九十九条に依り死刑に殺人未遂の各所為は孰れも同法第百九十九条第二百三条に依り有期懲役に(中略)該当する所右家宅侵入の所為は殺人罪及び各殺人未遂罪の手段なるに付、同法第五十四条第一項後段第十条に依り重き殺人罪の刑に従ふべく云云」とあり殺人及び殺人未遂の点に付、刑法第五十五条を適用せざりしを以て見れば此の如き法益の侵害に付ては連続犯の成立を認めざりしものと解せざるべからず。
尤も同判決は結局刑法第五十四条を適用して一罪と為したるものなりと雖も同条を適用すべき場合と雖も連続犯と為るべき事実を包含するときは先づ刑法第五十五条を適用し然る後同第五十四条を適用すべきものなることは明治四十三年(レ)五七四号事件に付、明治四十三年五月六日言渡したる判決(判示第七点)に於て明白に判示せる所にして明治四十四年(レ)二四一八号同年(レ)二四三八号明治四十五年(レ)三二七号等の事件に付、言渡したる判決は何れも亦是と同趣旨の擬律に出でたり。
然れば前掲判決に於て殺人及び殺人未遂の各行為に付、各法律を適用して刑を量定したるは全く連続犯の成立を認めざりしに因ること疑を容るべからず。
従て上来披陳したる連続犯の成否に関する所見は当院従来の判例に牴触するものにあらざるを信ずと云ふに在り◎按ずるに刑法第五十五条に連続したる数箇の行為にして同一の罪名に触るるときは一罪として之を処断すとあるは行為多数なるも包括的一の犯意に出で且つ被害法益が同一種類に属し法律上同一罪名に該るものなるときは一罪として之を処断するの趣旨にして侵されたる法益の単数なると複数なるとは之を区別せざる法意なること本院が明治四十五年二月九日同四十四年(レ)第二五九八号事件の判決に於て判示せる所に徴し明かなり。
而して法益が同性質なる以上は其財産的法益に関すると否とに従ひ行為の連続的観念を左右すべき理由あることなければ本件の如く数人の生命に関する法益が侵害の目的たるときと雖も単一意思の発動に因る数箇の行為の結果なる以上右法条適用の範囲内に入るべきものにして数罪として処断すべきものに非ず前示当院判決の趣旨又之に外ならざるを以て原院が継続せる意思を以て数人の生命に危害を加へたる本件被告の行為に対し刑法第五十五条を適用し一罪として処断したるは相当にして上告論旨は理由なしと云はざるべからず。
所論明治四十五年(レ)第一七五号の事件に付き当院の言渡したる判決は継続意思に出でたる数箇の殺人若くは殺人未遂の行為に付ては刑法第五十五条を適用すべきものに非ずとの趣旨を判示したるものに非ざれば援で以て上告所論の資料と為すに足らず多数者が人格的法益を侵害せられたる場合に就ては然らざる場合に比し罪情甚たしく異なるを以て単に意思の情態にのみ固著し之を連続犯として其処分を法定刑の範囲に止むるは併合罪の処分と権衡を失すとの所論の如きは事自ら立法論に属するのみならず数箇の行為に依り同一罪名に触るる数箇の侵害結果を来したるときと雖も同一意思の発動に基因する以上は之を一罪として処分すべきものとせる所以のものは此場合に就ては其数箇の結果は包括的に観察し得べく恰も単一なる法益の侵害を生じたる一箇の行為と同視し得べきものなれば之を数罪として重く処断するの妥当ならず且つ必要なきものと認めたるに外ならざれば侵害が数人の人格的法益に対し行はれたる場合と雖も之を一罪とする以上は其罪の法定刑の範囲内に於て処分するは当然にして之を以て本件被告の行為に刑法第五十五条を適用すべからざる理由と為すに足らず。
若し夫れ数人に対する姦淫又は名誉毀損等人格的法益の侵害を目的とせる犯罪が継続意思の下に行はれたる場合に於て其一部に対する告訴は他の告訴なき部分に付き公訴の提起を妨げざるが如きこととなり是等犯罪を親告罪と為したる法の精神に背戻する不当の結果を生ずるに至るべきを以て併合罪として処断せざるべからずとの所論は同一の事相を呈することあるべく而も一罪として処断すべき刑法第五十四条牽連犯の場合に於ても亦生する別箇の問題にして其解決如何は本案の連続犯罪なることを否定する根拠と為すに足らず
以上説示の如くにして上告は理由なしと認め刑事訴訟法第二百八十五条に依り主文の如く判決せり
検事林頼三郎干与大正元年十一月五日大審院第一刑事部