文書僞造變造行使詐欺ノ件

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大審院刑事判決録（刑録）18輯631頁

本件上告は之を棄却す

弁護人井本常治同小島重太郎上告趣意書第一点原裁判は刑事訴訟法に違背したる不法あり。 共同被告人は互に関係を有するを以て共同被告人中一人に付き弁論未済にて弁論を継続せしむるときは他の共同被告人をも出廷せしめざるべからず。 （刑事訴訟法第百八十二条末項）然るに本件に於ては第三回の公判明治四十五年三月十一日の公判には他の被告人を出廷せしむることなく木村松次郎のみを出廷せしめたるは不法なりと思料すと云ひ」第二点被告人をして最終の供述を為さしむるには共同被告人の各弁論を終りたる後にて公判の最終に[ついに]至り供述を為さしむべきものなり。 然るに木村松次郎以外の被告人たる上告人守田又五郎には原院第二回の公判に於て最終の供述を為さしめ第三回の公判には列席せしめざるなり。 故に本件に於ける弁論終了後に於ける最終の供述を為さしめざりしものと云はざるべからず。 故に刑事訴訟法に違背する不法ありと思料すと云ふ[いう]に在れども◎数多の共同被告人ある場合に於て便宜上各被告人の審理を分離すると否とは元来裁判所の職権に属するものと謂ふべく原審公判始末書に依れば被告守田又五郎に関する弁論は第二回公判に於て終結し其際同人をして最終の陳述を為さしめたること明白にして第三回公判に未だ弁論を終結せざる被告木村松次郎のみを出廷せしめ被告守田又五郎を列席せしめざりしは右職権の行使に外ならざれば原院の公判手続は所論の如き不法あるものと謂ふを得ず。

第三点原院第三回の公判に於て木村松次郎の弁護人福原義三太其他の弁護人を呼出さざるは不法なり。 第二回の公判は節次の公判期日を「来る八日午前九時に続行」する旨を定めたるを以て八日に公判を開く場合には呼出す要なくして各弁護人は公判に列し得べき機会を有せしと雖[いえども]も次回の期日を何等の手続なく之を変更して十一日に第三回の公判を開き之を他の弁護人に通知せざるは不法なりと思料す弁護人は判決確定に至るまでは被告人の為めに弁護するの権利を有するを以て公判の期日は之を通知せざるべからず。 尤も[もっとも]福原弁護人等は次回の公判に出廷せざる旨を陳へたりと雖[いえども]も次回の公判期日と定めたる八日の期日を変更して之を十一日と為したる以上は此事実は之を弁護人に通知せざるべからず。

若し十一日に公判開廷すべきことを知らば当日には出廷弁護すべきや否やを考慮する機会あるものなるを以て之が通知を為さざるは不法なりと云ふ[いう]に在れども◎原審公判始末書に依れば弁護人福田義三太外二名は第二回公判に於て既に弁論を終了し且つ次回の公判には出頭せざるに付き呼出状の送達に及ばさる旨陳述したる事実明かなれば縦令[たとい]第三回の公判期日を変更したるも右弁護人等を呼出すの必要なきを以て本論旨は上告の理由なし。

右の理由なるを以て刑事訴訟法第二百八十五条に依り主文の如く判決す

検事鈴木宗言干与明治四十五年五月二十一日大審院第一刑事部