砂糖消費税法違反ノ件
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大審院刑事判決録（刑録）16輯914頁
明治四十三年（れ）第八二九號
明治四十三年五月二十三日宣告
◎判決要旨
- 一 數種ノ砂糖ヲ使用シ之ヲ混和シテ他ノ種類ニ屬スル砂糖ヲ得ルトキハ其砂糖ハ之ヲ製造シタルモノトス
第一審 大阪地方裁判所
第二審 大阪控訴院
被告人 大西富三郎
右砂糖消費税法違反被告事件ニ付明治四十三年二月二十三日大阪控訴院ニ於テ言渡シタル判決ニ對シ被告ハ上告ヲ爲シタリ因テ判決スルコト左ノ如シ
理由
本件上告ハ之ヲ棄却ス
被告富三郎上告趣意書第一點原院判決中被告ハ第一内地消費ノ目的ヲ以テ政府ニ申告セスシテ明治四十二年六月二十八日云云第三種ニ屬スル砂糖臺灣黄雙ＴＡＢ印百斤ニ對シ第二種ニ屬スル砂糖臺灣黄雙ＴＯＫ二百斤ノ割合ヲ以テ混和シタルモノニ水約七升ヲ加ヘ云云木製煉臺ノ上ニテ摺潰シＹ印ト稱スル第三種ニ屬スル砂糖三千斤ヲ製造シ尚同一意思ヲ繼續シテ同年七月二十九日同所ニ於テ第三種ニ屬スル砂糖臺灣黄雙ＭＩＩＩ印二十四俵ニ第二種ニ屬スル砂糖同黄雙ＭＩＩＩＩ印一俵ヲ混和シ前記同一方法ニ依リ第三種ニ屬スル◇Ｋ印砂糖百斤入二十五俵ト五十九斤トヲ製造シト判決セラレタルモ第二種ト稱シ第三種ト稱スルモ均シク是レ砂糖ニシテ砂糖ノ原料ニアラス故ニ砂糖其物ヲ製造シタルニアラス又原素性質ヲ變シタルニアラス唯或方法ヲ以テ糖種ニ變更ヲ來シタリト云フニ過キサルハ原院モ亦之ヲ認メラルル所ナリ然リ即チ本件ハ砂糖製造ニアラサルモ混和方法ニ依テ糖種ノ異ナルモノカ出來上リタルトキハ之ヲ製造ナリト見做スヤ否ニアリ然ルニ我税法ハ如斯モノニ對シテハ何等規定アルコトナシ抑モ法律上或ル行爲ヲ以テ或ル行爲ト見做スト云フカ如キハ法律ノ主體ニシテ枝葉ニアラス即チ一ノ基礎ヲ設クルモノナレハ之ヲ製造ナリト見做スノ必要アラハ必ス一ノ條項ヲ規定セサルヘカラサルモノニシテ單ニ釋法上ノ範圍ニアラス然ルニ原院ニアリテハ法律上認メサル本件ニ對シテ砂糖消費税法ヲ適用處斷シタルハ法律ヲ不法ニ適用シタル判決ナリト思料スト云フニ在リ◎依テ原判決カ適用シタル砂糖消費税法ヲ査閲スルニ同法第二條ニ製品ノ原料トシテ砂糖糖蜜又ハ糖水ヲ使用スルハ其消費ト看做ストアルニ依レハ砂糖ヲ原料トシテ砂糖ヲ製造シ得ルコト明ナレハ數種ノ砂糖ヲ使用シ之ヲ混和シテ他ノ種類ニ屬スル砂糖ヲ得ルニ於テハ同法第三條所定ノ消費税ノ割合ヲ異ニスル結果ヲ來スニ依リ其砂糖ハ之ヲ製造シタルモノトス故ニ原判決ニ判示セル被告ノ所爲ヲ以テ砂糖消費税法第十三條ニ問擬シタル原判決ハ相當ニシテ本論旨ハ理由ナシ
第二點原院ニ於テハ前第一點ニ掲ケシ第三種ニ屬スル臺灣黄雙ＴＡＢ印百斤ニ對シ第二種ニ屬スル臺灣黄雙ＴＯＫ二百斤ノ割合ヲ以テ云云第三種ニ屬スル臺灣黄雙ＭＩＩＩ印二十四俵ニ第二種ニ屬スル同黄雙ＭＩＩＩＩ印一俵ヲ混和シ云云ト判示セラレタルモ抑モ臺灣ニ於テハ第一第二ノ二種糖ノ外無之事ハ證人井上主計モ明カニ陳述シ居ル所ナルニ何ニ依テ臺灣ニ三種糖アルコトヲ認メラレタルカ蓋シ井上主計ノ證言ヲ採用セラレタルモノナルヘシト雖モ該證言ハ唯從來取扱上ノ經驗ニ依リ之ヲ識別シ得タリト云フニ在リテ其識別ハ果シテ正鵠ヲ得タルモノナルヤ否モ判明セサル所ニシテ素ヨリ正確ノ證據トスヘキモノニアラス且ツ砂糖ノ種類ヲ定ムルハ專ラ色相ニ依リ之ヲ和蘭標本ニ照シテ決定スルモノナレトモ其色相中ニハ色ト光澤ヲ具備セサルヘカラス之ヲ鑑別スルハ實ニ容易ノ業ニアラス科學的作用ニ依ルモ尚ホ且ツ明カニ認識スル能ハスト云ヘル程ノモノナルニ一税吏ノ之ヲ識別シタリトハ之ヲ信セント欲スルモ能ハサル所ナリ殊ニ本件ノ砂糖ハ何レモ臺灣製造場ニ於テ現ニ査定ヲ經テ種別シ相當ノ課税ヲ爲シタルモノナルニ税務吏ハ何等ノ權能ヲ以テ之ヲ變更シ得ヘキカ若夫臺灣製造場ニ與ヘラレタル決定ニ不當アリトセハ宜ク正當ニ其決定ヲ正スヘキノミ何ソ恣ニ之ヲ變更スルヲ得ヘケンヤ又天野重吉ノ鑑定ハ既ニ二種三種ノ區別判然タル場合ニ於テノ想像鑑定ニシテ本件ノ如キ二種三種ノ區別サヘ判明セサルモノニ適用スヘキモノニアラス況ンヤ二種三種ノ區別判然タルモノニモセヨ既ニ第一點ニ於テ述ヘタルカ如ク法律ノ禁制シタル所ニアラサレハ該鑑定ハ本件ニ對シ何等ノ效力アルコトナシ然ルニ原院ニ於テハ是等無效ノ證言若クハ鑑定ヲ採テ既定動スヘカラサル糖種ヲ變更シ臺灣糖ニ第三種糖アリト認メラレタルハ採ルヘカラサル證據ヲ採用シ事件ヲ誤認セラレタル不法ノ判決ナリト思料スト云フニ在レトモ◎原判決ニハ臺灣ニ三種糖アル事實ヲ認メアルコトナシ他ハ原院カ職權ヲ以テ爲シタル事實ノ認定ヲ非難シ又ハ證據ノ趣旨ニ付原院ト見解ヲ異ニシ其證據ノ取捨判斷ヲ非難スルニ過キサレハ上告ノ理由トナラス
第三點原院ハ消費税納付前他ニ販賣シタル行爲ヲ税法違反ナリト認メラレタルモ之レハ第一第二點陳述セシ製造行爲ニアラサルモノヲ認メ製造行爲ナリト認メラレタル結果ナレハ既ニ第一第二ノ如ク製造行爲ニアラストセハ是亦不法ノ判決タルヲ免レスト思料スト云フニ在レトモ◎本論旨ノ理由ナキコトハ第一點ニ對スル説明ニ依リ自ラ明ナリ
右ノ理由ニ依リ刑事訴訟法第二百八十五條ニ從ヒ主文ノ如ク判決ス
檢事矢野茂干與明治四十三年五月二十三日大審院第二刑事部
