詐欺及文書僞造行使ノ件
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大審院刑事判決録（刑録）15輯1373頁
明治四十二年（れ）第一一七八號
明治四十二年十月十四日宣告
◎判決要旨
- 一 同一ノ物件ニ付キ沒收ノ理由二箇存スル場合ニ在テハ其中一箇ノ理由ヲ説示スレハ足リ必スシモ二箇ノ理由ヲ説示スルコトヲ要セス
第一審 岡山地方裁判所
第二審 廣島控訴院
被告人 里見源三郎
辯護人 渡邊澄也
右詐欺及文書僞造行使被告事件ニ付明治四十二年六月十九日廣島控訴院ニ於テ言渡シタル判決ヲ不法トシ被告ヨリ上告ヲ爲シタリ因テ判決スル左ノ如シ
理由
本件上告ハ之ヲ棄却ス
辯護人渡邊澄也上告趣意書第一點原判決ハ第三事實トシテ被告ハ里見喜作名義ノ手紙ヲ僞造シ之ヲ石川松次郎ニ提出行使シ松次郎ヨリ金圓ヲ騙取セントシテ其目的ヲ達セサルモノト認定シ文書僞造行使ノ點ハ刑法第百五十九條第一項第百六十一條第一項ニ問擬セリ左レハ被告ノ僞造シタル里見喜作名義ノ手紙ハ文書僞造行使罪ヲ構成スルト共ニ詐欺取財ノ犯罪行爲ニ供シタルモノナルコト明白ナレハ刑法第十九條第一項第一號第二號ニ依リ處分スヘキ筈ナルニ拘ハラス同條第一項第一號ヲ適用セサル原判決ハ擬律錯誤ノ不法アルモノト信スト云フニ在レトモ◎同一ノ物件ニ付キ沒收ノ理由二箇存スル場合ニ在テハ其中一箇ノ理由ヲ説示スルヲ以テ足リ必スシモ二箇ノ理由ヲ説示スルコトヲ要スルモノニアラサレハ本論旨ハ理由ナシ
第二點本件ノ非現行犯ナルコト事件送致書ニ徴シテ明白ナリトス而シテ警部常國義孫ノ里見義作ニ對スル聽取書ハ其名ハ聽取書ナルモ其實訊問調書ナルコト書類ノ内容ニ照シテ疑ナキ所ナリトス左レハ非現行犯事件ニ付關係人ヲ訊問スル職權ヲ有セサル司法警察官ノ作成シタル該聽取書ハ無效ナルニ拘ハラス之ヲ罪證ニ供シタル原判決ハ法則ニ背反スル不法アルモノト信スト云フニ在レトモ◎所論ノ聽取書ヲ査スルニ任意ノ答述ヲ録取シタルモノニシテ毫モ司法警察官ノ強制ニ出テタルモノト認ムヘキ形迹ノ存スルコトナケレハ本論旨ハ謂レナシ
第三點懲役ニ處セラレタルモノ其執行ヲ終リ又ハ執行ノ免除アリタル日ヨリ五年内ニ更ニ罪ヲ犯シ有期懲役ニ處スヘキ場合ニ非サレハ累犯ニ關スル規定ヲ適用スルコトヲ得ス原判決ハ「被告ハ云云何レモ其判決確定ノ上本件犯罪ヨリ五年以内ニ其刑ノ執行ヲ終ヘタリ」ト判示セルニ止マルカ故ニ本案犯罪ハ前ニ懲役ニ處セラレ其執行ヲ終リタルヨリ五年内ニ犯シタルモノナルヤ否ヤヲ知ルニ由ナキモノトス從テ原判決ハ被告ハ舊刑法ニ依リ刑法ノ懲役ニ相當スル刑ニ處セラレ其執行ヲ終リタル後五年内ニ本案犯罪ヲ爲シタルモノナル事實ヲ明カニセスシテ累犯ニ關スル規定ヲ適用シタルモノニシテ理由不備ノ不法アルモノト信スト云フニ在レトモ◎論旨所載ノ原判文ニ依リ前科ノ執行ヲ終リタル後五年内ニ本件犯罪ヲ爲シタルモノナルコト自ラ明カナルヲ以テ本論旨モ亦理由ナシ
右ノ理由ナルヲ以テ刑事訴訟法第二百八十五條ニ依リ主文ノ如ク判決ス
檢事矢野茂干與明治四十二年十月十四日大審院第二刑事部
