明治三十九年（れ）第六二四號
明治三十九年七月五日宣告
◎判决要旨
- 一 死者ノ遺骨ハ交換價格ヲ有セスト雖モ人ノ所有ノ目的ト爲リ得ヘキ物件ナルカ故ニ詐欺ノ手段ヲ以テ之ヲ騙取シタル所爲ハ詐欺取財罪ヲ構成スルモノトス
右私書僞造行使詐欺取財被告事件ニ付明治三十九年五月二十五日東京控訴院ニ於テ言渡シタル判决ヲ不法トシ被告ヨリ上告ヲ爲シタリ依テ刑事訴訟法第二百八十三條ノ定式ヲ履行シ判决スルコト左ノ如シ
上告趣意書ハ原院判决ハ遺骨及所持金受領證埋葬料受領證僞造行使ノ所爲ニ對シ刑法第二百十條第一項ヲ適用セラレタリト雖元來受領證ハ權利義務ノ存在ヲ證スヘキ證書ニアラサルヲ以テ同條第一項ノ適用ヲ受クヘキモノニアラスト信ス然レハ原判决ハ此點ニ於テ擬律錯誤ノ違法ヲ免カレサルヘシト云フニ在レトモ◎當事者間ニ所論ノ金品ヲ授受スルハ當事者間ノ權利義務實行ノ行爲ナルヲ以テ其授受ヲ證スヘキ文書ハ則チ權利義務ニ關スル證書ナルコト勿論ナルカ故ニ苟クモ之ヲ僞造行使スルニ於テハ刑法第二百十條第一項第二百十二條ニ該當スル犯罪ヲ構成スルコト亦言ヲ俟タサレハ原院カ所論ノ各受領證ヲ僞造行使シタル被告ノ所爲ニ對シ右等各法條ヲ適用處斷シタルハ相當ニシテ擬律錯誤ノ違法アルコトナシ
辯護人鳩山和夫村松藤太上告趣意擴張書第一點ハ原判决ハ被告カ東京市麻布歩兵第一聯隊補充大隊ノ遺骨下付係官ヨリ道太郎ノ遺骨ヲ騙取シタリトノ事實ヲ以テ直チニ詐欺取財罪ニ問擬セラレタリト雖元來我刑法ニ於ケル詐欺取財ノ目的タル財物トハ財産上ノ價値ヲ有スル有體物ナラサルヘカラス何トナレハ若シ反對ニ之ヲ解シテ財産上全ク價値ナキ有體物モ尚且詐欺取財ノ目的トナリ得ルモノト假定セハ被害者ニ對シテ何等ノ實害ナキ場合ニ於テ詐欺取財ノ犯罪ヲ構成スルモノト云ハサルヘカラサルノミナラス刑法カ財産ヲ侵害スルモノトシテ本罪ヲ規定シタル趣意ヲ全ク滅却スルニ至ルヘシト信ス果シテ然ラハ遺骨カ模型トシテ存在スル場合ノ如ク財産上ノ價値ヲ有スル場合ハ格別ナルモ本件ノ如ク葬送ノ目的ヲ以テシ何等財産上ノ價値ヲ有セサル場合ハ詐欺取財ノ目的トナリ得ヘカラサルヤ明ナリ然レハ原院判决ハ此點ニ於テ違法アリト信スト云フニ在レトモ◎詐欺取財罪ノ成立ニハ人ノ所有ノ目的トナリ得ヘキ物件ニ對シテ之ヲ行ヘハ即チ足レリトシ必スシモ財産上ノ價値ヲ有スル物體ニ對シテ行フコトヲ要セス而シテ死者ノ遺骨ハ交換價格ヲ有セスト雖人ノ所有ノ目的トナリ得ルモノナルコト論ナキ所ナレハ若シ夫レ詐欺ノ手段ヲ以テ之ヲ騙取センカ詐欺取財ノ罪ヲ構成スルヤ明カナルカ故ニ原院カ本件遺骨ヲ騙取シタル被告ノ所爲ニ擬スルニ詐欺取財罪ヲ以テシタルハ相當ニシテ本論旨ハ其理由ナシ
第二點ハ原院判决ノ判示事實中印鑑證明願僞造行使ノ事實遺骨竝所持金受領證書僞造行使ノ事實及ヒ埋葬料受領證書僞造行使ノ事實ニ對シテハ未タ公訴ノ提起セラレタルモノニアラサルニ斯ル事實ニ付判斷ヲ與ヘラレタルハ不告不理ノ原則ニ違反スルモノナリト信ス蓋シ本件ノ起訴状タル明治三十八年十月十三日附津久井檢事ヨリ東京地方裁判所豫審判事ヘ宛タル豫審請求書ニハ犯罪事實トシテハ司法警察官意見書ノ通リト記載アリ而シテ明治三十八年十月十三日附司法警察官警部林傳治ノ意見書ヲ閲スルニ原院ニ繋屬シタル公訴事實ハ專ラ其第二トシテ記載セラレタル部分ニ關スルモノニシテ單ニ
「剛藏ハ明治三十七年十二月二十七日中村ハツノ印章及ヒ印鑑届書委任状等ヲ僞造シ印鑑届書ハ之ヲ深川區役所ニ差出シ委任状ハ之ヲ麻布聯隊葬儀掛ヘ差出シ」云々トアルノミニシテ前記三通ノ證書僞造行使ノ事實ニ關シテハ何等云フ所アラサレハナリ或ハ以上ノ三通ノ證書僞造行使ハ何レモ詐欺取財ノ手段トシテ爲サレタルモノナレハ一旦詐欺取財罪ニシテ起訴セラレタル以上ハ當然其内ニ包含ストノ議論アルヘシト雖モ此ノ如キ事實ノ存スル以上ハ刑法第二百二條乃至第二百十二條ノ各本條ノ適用ヲ見ルヘキモノニシテ元來法律上ノ存在ヲ別ニスルモノナレハ當然詐欺取財ノ事實中ニ包含セラルヘキ筋合ノモノニアラスト信スト云フニ在レトモ◎原判决ニ依レハ被告カ所論ノ印鑑證明願書遺骨竝ニ所持金受領證書及ヒ埋葬料受領證書等ヲ僞造行使シタルハ本件詐欺取財ヲ爲サンカ爲メニシテ即チ右等文書ノ僞造ト詐欺取財トノ間ニ因果ノ關係ヲ存シ結局一罪ヲ成スモノナレハ既ニ詐欺取財ノ事實ニ付起訴アリタル以上ハ右等文書僞造行使ノ事實ニ對スル起訴モ自ラ右起訴ノ中ニ包含スルコト論ヲ俟タサルヲ以テ原院カ是等文書僞造行使ノ事實ニ對シ審判シタリトテ不告不理ノ原則ニ違背シタルモノト云フヲ得ス
第三點ハ原院判决ノ判示事實中遺骨騙取ノ點ハ未タ豫審終結决定ヲ經サルモノトス何トナレハ本件ノ豫審終結决定ニハ「同證書ヲ行使シタル上陸軍一等主計長谷川尚一ヨリ埋葬料二十三圓陸軍歩兵軍曹秋山直一ヨリ所持金十八圓十四錢ヲ孰レモ騙取シタリ」ト記載アリテ遺骨騙取ニ關シ何等ノ記載ヲ見ス又一審公判廷ニ於テ立會檢事ハ右豫審終結决定ニ基キテ犯罪事實ノ陳述ヲナシタルモノニシテ原院ニハ如何ナル理由ニ依リテ遺骨騙取ノ犯罪事實カ繋屬シテ其判斷ヲ受ケタルモノナリヤ知ルコト能ハサレハナリ然レハ原院判决ハ此點ニ於テ未タ裁判所ニ繋屬セサル事實ニ對シ自ラ判斷シタル違法ヲ免レスト信スト云フニ在レトモ◎原判决ニ依レハ本件被告カ文書僞造行使ノ所爲ト遺骨及ヒ金員騙取ノ所爲トハ因果ノ關係アリテ實質上ノ一罪ヲ構成スルモノナレハ右一罪ヲ構成スル各所爲中豫審終結决定ニ於テ認メサリシ所論遺骨騙取ノ所爲ヲ原判决ニ於テ之ヲ認メタルハ是レ畢竟一ノ犯罪行爲ノ範圍ニ付豫審終結决定ト其所見ヲ異ニスルモノナルニ過キスシテ未タ裁判所ニ繋屬セサル事實ニ對シ裁判シタルモノト云フヲ得サレハ原院カ豫審終結决定ノ認メサル右騙取ノ點ヲ認定シタリトテ所論ノ如キ違法アリト云フヲ得ス
第四點ハ原院判决ハ被告カ係官ヲシテ一定ノ形式ナル遺骨及ヒ所持金受領證書ニ中村ハツナル氏名ヲ記入セシメ被告ハ前記有合印ヲ差出シ其名下ニ押捺セシメタル事實及ヒ被告カ係官ヲシテ一定ノ形式ナル埋葬料受領證書ニ中村ハツナル氏名ヲ記入セシメ前記有合印ヲ差出シ其名下ニ押捺セシメタル事實ヲ以テ何レモ私書僞造行使ノ犯罪ニ問擬セラレタリ然リト雖モ係官ハ係官トシテノ當然ノ職務ヲ執行シタルモノニシテ决シテ器械トシテ被告ノ用ニ供セラレタルモノニアラス又假リニ一歩ヲ讓リテ係官カ被告ノ用ニ供セラレタリトスルモ中村ハツハ女子ノ姓名ニシテ被告ハ男子ナレハ係官カ器械的動作ヲナシタルモノニアラス然レハ原判决ハ此點ニ於テ擬律錯誤ノ違法カ若クハ何カ故ニ被告カ係官ノ動作ニ付キ當然責任ヲ負フヘキカノ理由ヲ備ヘサル違法ヲ免カレスト云フニ在レトモ◎證書類差出人ノ記名調印ハ其差出人ニ於テ之ヲ爲スヲ通例トシ若シ偶マ其受取人ニ於テ之ヲ爲ス等ノ場合ハ便宜其差出人ノ爲メニ代リテ之ヲ爲スニ外ナラスシテ自己ノ當然爲スヘキ行爲ニアラサルコト勿論ナリ今原判决ニ就テ按スルニ本件ノ各受領證書モ亦右説示ノ趣旨ヨリ除外スヘキモノト認ムヘキ廉毫モ之アルヲ見サルノミナラス本件遺骨又ハ金員下付ノ係官ニ於テ右等證書ニ其差出人ノ記名調印ヲ爲シタルハ所論ノ如ク該官當然ノ職務ヲ執行シタルモノニハアラスシテ全ク被告ニ使用セラレテ器械的行動ヲ爲シタルニ過キサルモノト見ルヘキ事實關係ヲ示シ從テ被告ハ右等證書僞造行使罪ノ責任ヲ負フヘキモノト認ムヘキ事實上ノ理由ハ原判文ノ趣旨ニ徴シテ之ヲ知ルニ足ルヘク左スレハ原院カ右ノ所爲ニ對シ刑法第二百十條第一項第二百十二條ヲ適用處斷シタルハ相當ニシテ結局原判决ニ所論ノ如キ違法アルコトナシ
右ノ理由ナルヲ以テ刑事訴訟法第二百八十五條ニ依リ本件上告ハ之ヲ棄却ス
檢事田部芳干與明治三十九年七月五日大審院第二刑事部
明治三十九年（レ）第六二四号
明治三十九年七月五日宣告
◎判決要旨
- 一 死者の遺骨は交換価格を有せずと雖も人の所有の目的と為り得べき物件なるが故に詐欺の手段を以て之を騙取したる所為は詐欺取財罪を構成するものとす。
右私書偽造行使詐欺取財被告事件に付、明治三十九年五月二十五日東京控訴院に於て言渡したる判決を不法とし被告より上告を為したり。
依て刑事訴訟法第二百八十三条の定式を履行し判決すること左の如し
上告趣意書は原院判決は遺骨及所持金受領証埋葬料受領証偽造行使の所為に対し刑法第二百十条第一項を適用せられたりと雖元来受領証は権利義務の存在を証すべき証書にあらざるを以て同条第一項の適用を受くべきものにあらずと信ず。
然れば原判決は此点に於て擬律錯誤の違法を免がれざるべしと云ふに在れども◎当事者間に所論の金品を授受するは当事者間の権利義務実行の行為なるを以て其授受を証すべき文書は則ち権利義務に関する証書なること勿論なるが故に苟くも之を偽造行使するに於ては刑法第二百十条第一項第二百十二条に該当する犯罪を構成すること亦言を俟たざれば原院が所論の各受領証を偽造行使したる被告の所為に対し右等各法条を適用処断したるは相当にして擬律錯誤の違法あることなし
弁護人鳩山和夫村松藤太上告趣意拡張書第一点は原判決は被告が東京市麻布歩兵第一連隊補充大隊の遺骨下付係官より道太郎の遺骨を騙取したりとの事実を以て直ちに詐欺取財罪に問擬せられたりと雖元来我刑法に於ける詐欺取財の目的たる財物とは財産上の価値を有する有体物ならざるべからず。
何となれば若し反対に之を解して財産上全く価値なき有体物も尚、且、詐欺取財の目的となり得るものと仮定せば被害者に対して何等の実害なき場合に於て詐欺取財の犯罪を構成するものと云はざるべからざるのみならず刑法が財産を侵害するものとして本罪を規定したる趣意を全く滅却するに至るべしと信ず。
果して然らば遺骨が模型として存在する場合の如く財産上の価値を有する場合は格別なるも本件の如く葬送の目的を以てし何等財産上の価値を有せざる場合は詐欺取財の目的となり得べからざるや明なり。
然れば原院判決は此点に於て違法ありと信ずと云ふに在れども◎詐欺取財罪の成立には人の所有の目的となり得べき物件に対して之を行へは。
即ち足れりとし必ずしも財産上の価値を有する物体に対して行ふことを要せず。
而して死者の遺骨は交換価格を有せずと雖人の所有の目的となり得るものなること論なき所なれば若し夫れ詐欺の手段を以て之を騙取せんか詐欺取財の罪を構成するや明かなるが故に原院が本件遺骨を騙取したる被告の所為に擬するに詐欺取財罪を以てしたるは相当にして本論旨は其理由なし。
第二点は原院判決の判示事実中印鑑証明願偽造行使の事実遺骨並所持金受領証書偽造行使の事実及び埋葬料受領証書偽造行使の事実に対しては未だ公訴の提起せられたるものにあらざるに斯る事実に付、判断を与へられたるは不告不理の原則に違反するものなりと信ず。
蓋し本件の起訴状たる明治三十八年十月十三日附津久井検事より東京地方裁判所予審判事へ宛たる予審請求書には犯罪事実としては司法警察官意見書の通りと記載あり。
而して明治三十八年十月十三日附司法警察官警部林伝治の意見書を閲するに原院に繋属したる公訴事実は専ら其第二として記載せられたる部分に関するものにして単に
「剛蔵は明治三十七年十二月二十七日中村はつの印章及び印鑑届書委任状等を偽造し印鑑届書は之を深川区役所に差出し委任状は之を麻布連隊葬儀掛へ差出し」云云とあるのみにして前記三通の証書偽造行使の事実に関しては何等云ふ所あらざればなり。
或は以上の三通の証書偽造行使は何れも詐欺取財の手段として為されたるものなれば一旦詐欺取財罪にして起訴せられたる以上は当然其内に包含すとの議論あるべしと雖も此の如き事実の存する以上は刑法第二百二条乃至第二百十二条の各本条の適用を見るべきものにして元来法律上の存在を別にするものなれば当然詐欺取財の事実中に包含せらるべき筋合のものにあらずと信ずと云ふに在れども◎原判決に依れば被告が所論の印鑑証明願書遺骨並に所持金受領証書及び埋葬料受領証書等を偽造行使したるは本件詐欺取財を為さんか為めにして、即ち右等文書の偽造と詐欺取財との間に因果の関係を存し結局一罪を成すものなれば既に詐欺取財の事実に付、起訴ありたる以上は右等文書偽造行使の事実に対する起訴も自ら右起訴の中に包含すること論を俟たざるを以て原院が是等文書偽造行使の事実に対し審判したりとて不告不理の原則に違背したるものと云ふを得ず。
第三点は原院判決の判示事実中遺骨騙取の点は未だ予審終結決定を経さるものとす。
何となれば本件の予審終結決定には「同証書を行使したる上陸軍一等主計長谷川尚一より埋葬料二十三円陸軍歩兵軍曹秋山直一より所持金十八円十四銭を孰れも騙取したり。」と記載ありて遺骨騙取に関し何等の記載を見す又一審公判廷に於て立会検事は右予審終結決定に基きて犯罪事実の陳述をなしたるものにして原院には如何なる理由に依りて遺骨騙取の犯罪事実が繋属して其判断を受けたるものなりや知ること能はざればなり。
然れば原院判決は此点に於て未だ裁判所に繋属せざる事実に対し自ら判断したる違法を免れずと信ずと云ふに在れども◎原判決に依れば本件被告が文書偽造行使の所為と遺骨及び金員騙取の所為とは因果の関係ありて実質上の一罪を構成するものなれば右一罪を構成する各所為中予審終結決定に於て認めざりし所論遺骨騙取の所為を原判決に於て之を認めたるは是れ畢竟一の犯罪行為の範囲に付、予審終結決定と其所見を異にするものなるに過ぎずして未だ裁判所に繋属せざる事実に対し裁判したるものと云ふを得ざれば原院が予審終結決定の認めざる右騙取の点を認定したりとて所論の如き違法ありと云ふを得ず。
第四点は原院判決は被告が係官をして一定の形式なる遺骨及び所持金受領証書に中村はつなる氏名を記入せしめ被告は前記有合印を差出し其名下に押捺せしめたる事実及び被告が係官をして一定の形式なる埋葬料受領証書に中村はつなる氏名を記入せしめ前記有合印を差出し其名下に押捺せしめたる事実を以て何れも私書偽造行使の犯罪に問擬せられたり然りと雖も係官は係官としての当然の職務を執行したるものにして決して器械として被告の用に供せられたるものにあらず。
又仮りに一歩を譲りて係官が被告の用に供せられたりとするも中村はつは女子の姓名にして被告は男子なれば係官が器械的動作をなしたるものにあらず。
然れば原判決は此点に於て擬律錯誤の違法が若くは何が故に被告が係官の動作に付き当然責任を負ふべきかの理由を備へざる違法を免がれずと云ふに在れども◎証書類差出人の記名調印は其差出人に於て之を為すを通例とし若し偶ま其受取人に於て之を為す等の場合は便宜其差出人の為めに代りて之を為すに外ならずして自己の当然為すべき行為にあらざること勿論なり。
今原判決に就て按ずるに本件の各受領証書も亦右説示の趣旨より除外すべきものと認むべき廉毫も之あるを見さるのみならず本件遺骨又は金員下付の係官に於て右等証書に其差出人の記名調印を為したるは所論の如く該官当然の職務を執行したるものにはあらずして全く被告に使用せられて器械的行動を為したるに過ぎざるものと見るべき事実関係を示し。
従て被告は右等証書偽造行使罪の責任を負ふべきものと認むべき事実上の理由は原判文の趣旨に徴して之を知るに足るべく左すれば原院が右の所為に対し刑法第二百十条第一項第二百十二条を適用処断したるは相当にして結局原判決に所論の如き違法あることなし
右の理由なるを以て刑事訴訟法第二百八十五条に依り本件上告は之を棄却す
検事田部芳干与明治三十九年七月五日大審院第二刑事部
