明治三十八年(れ)第四四六號
明治三十八年四月二十一日宣告
◎判决要旨
- 一 甲者カ乙者ニ賣却シタル土地ヲ冐認シテ更ニ之ヲ丙者ニ販賣シ丙者ハ其所有權ノ登記ヲ爲シタル場合ニ於テ乙者ヨリ甲者及ヒ丙者ヲ共同被告ト爲シ此事實ヲ請求ノ原因トシテ登記ノ抹消ヲ要ムル事件ハ民事訴訟法第五十條ニ所謂必要的共同訴訟ノ性質ヲ有スルモノトス
- 一 私訴ニ關シテハ刑事訴訟法中民事訴訟法第五十條ノ如キ明文ナシト雖モ必要的共同訴訟人ニ對シ各牴觸スル判决ヲ下スカ又ハ其一人ニ對シ判决ヲ與ヘサル場合ニ於テハ權利ノ執行ヲ爲シ得サルカ故ニ同條ノ規定ニ存スル法理ハ私訴ニ付テモ亦之ヲ適用セサルヘカラス
(參照)然レトモ總テノ共同訴訟人ニ對シ訴訟ニ係ル權利關係カ合一二ノミ確定ス可キトキニ限リ左ノ規定ヲ適用ス」共同訴訟人中ノ或ル人ノ攻撃及ヒ防禦ノ方法(證據方法ヲ包含ス)ハ他ノ共同訴訟人ノ利益ニ於テ效ヲ生ス」共同訴訟人中ノ或ル人カ爭ヒ又ハ認諾セサルトキト雖モ總テノ共同訴訟人カ悉ク爭ヒ又ハ認諾セサルモノト看做ス
共同訴訟人中ノ或ル人ノミカ期日又ハ期間ヲ懈怠シタルトキハ其懈怠シタル者ハ懈怠セサル者ニ代理ヲ任シタルモノト看做ス」然レトモ懈怠シタル共同訴訟人ニハ其懈怠セサリシ場合ニ於テ爲ス可キ總テノ送達及ヒ呼出ヲ爲スコトヲ要ス其懈怠シタル共同訴訟人ハ何時タリトモ其後ノ訴訟手續ニ再ヒ加ハルコトヲ得 (民事訴訟法$第五十條)
公訴上告人 川澄力
私訴上告人 米川龜之介
私訴被上告人 青山儀八
右力ニ對スル詐欺取財被告事件及之レニ附帶スル龜之介儀八間ノ私訴事件ニ付明治三十八年三月十三日東京控訴院ニ於テ言渡シタル判决ニ對シ被告川澄力及民事被告人米川龜之介ヨリ各上告ヲ爲シタリ依テ刑事訴訟法第二百八十三條ノ式ヲ履行シ判决スル左ノ如シ
被告力ハ明治三十八年三月十六日上告申立書ヲ原院ニ差出シタルモ其後期間内ニ上告趣意書ヲ提出セサルヲ以テ本件上告ハ適法ニ成立セサルモノトス
私訴上告代理人天野敬一ノ擴張書ハ原判决ハ訴訟手續ニ違背アル不法ノ判决ナリ何トナレハ本件被上告人ノ一定ノ申立ハ「前畧――被告川澄力及米川龜之介ハ茨城縣東茨城郡上野合村大字小幡字鏡田
二千四百三十四番田二反三畝二十四歩ニ對シ明治三十七年九月二十七日水戸區裁判所堅倉出張所ニ於テナシタル同日附賣買ニ因ル所有權移轉ノ登記抹消ノ手續ヲナス可シ――後畧」ト云フニアリ而シテ登記抹消ノ手續ハ登記法上登記權利者登記義務者ノ連署ニヨリテ之ヲナス可キモノナルカ故ニ本訴被上告人ノ請求ハ其性質ニ於テ所謂合一ニ確定スルコトヲ要スル事項ニ屬スルモノナリ故ニ縱令相手方(即賣買登記ニ於ケル登記權利者竝ニ登記義務者)ノ一人カ上訴ヲナシタル場合ニ於テモ尚民事訴訟法第五十條ニ規定セル夫レノ如ク他ノ相手方ノ一人ヲモ呼出シ其他總テノ訴訟手續ニ加ハラシメサル可カラス是レ必スシモ法文ヲ俟テ然ル可キ事ニアラスシテ其請求ノ性質上ヨリシテ當然生スルノ結果ナリトス若シ然ラスシテ別々ニ審理シ得可キモノトセンカ原告者ハ相手方一人ノミニ對シテ訴フルコトヲモ許サヽル可カラス或ハ又別々ニ訴フルコトヲモ許サヽル可カラス從テ箇々別々ニ反對ノ判决アル可キ場合ヲモ想像シ得可ク更ニ又本訴ノ如キ相手方ノ一人ハ一審判决ニ服シ他ノ一人上訴シタル場合ニ於テ上訴裁判所ニ於テ一審判决ヲ廢棄スル場合アリ得ル事ヲ看過スル克ハス然レトモ此ノ如キハ共ニ登記法上全然許容セラレサルモノナリ即チ知ル本訴被上告人ノ請求ハ法ノ規定ノ有無ニ干ハラス其性質上當然合一ニ審理判决セラレサル可カラサルコトヲ今右ノ前提ノ下ニ本件原院ノ審理手續ヲ調査スルニ原裁判所ハ相手方ノ一人川澄力(即賣買ノ登記義務者)ヲ呼出サス參加セシメス又判决ノ客體トナサヽルモノナルコトハ公判始末書判决原本等ニ依ツテ明了ナリ然ラハ即原判决ハ前述所論ノ如ク訴訟手續ニ違背シテナシタル不法ノ判决タルノ非難ハ到底免ル可カラサルモノト信スト云フニ
在リ
依テ一件記録ヲ調査スルニ本件ノ私訴ハ被上告人青山儀八ヨリ川澄力及ヒ上告人米川龜之介ヲ共同被告トシ川澄力カ青山儀八ニ賣却シタル茨城縣東茨城郡上野合村大字小幡字鏡田二千四百三十四番田二反三畝二十四歩ヲ冐認シテ上告人米川龜之介ニ販賣シ龜之介ハ其所有權ノ登記ヲ爲シタルヲ請求ノ原因トシテ右賣買ニ基ケル所有權移轉登記ノ抹消ヲ請求ノ目的トスルモノニシテ第一審ニ於テハ力龜之介ハ被上告人ノ請求ニ應スヘキ旨ノ判决ヲ受ケ力ハ控訴セスシテ龜之介ノミ控訴シタル事實ニシテ右請求ノ原因ニ依レハ本件ハ民事訴訟法第五十條ニ所謂必要的共同訴訟ノ性質ヲ有スル事件ナリトス何トナレハ該登記ノ抹消ハ被上告人カ力龜之介ト共ニ申請スルカ否サレハ右兩名ニ對シ登記抹消ノ手續ヲ爲スヘキコトヲ命スル判决ヲ提出スルニアラサレハ之ヲ爲スヲ得サルモノニシテ力龜之介ノ中一名ニ對シテ右ノ判决アルモ他ノ一名ニ對スル登記抹消手續請求棄却ノ判决アリシ場合ニ於テハ登記抹消ヲ命スル判决ハ之ヲ執行スルニ由ナケレハナリ而シテ私訴ニ關シテハ刑事訴訟法中民事訴訟法第五十條ノ如キ明文ナシト雖モ必要的共同訴訟人ニ對シ各牴觸スル判决ヲ下スカ或ハ其一人ニ對シテ判决ヲ與ヘサル場合ニ於テハ權利ノ執行ヲ爲スヲ得サルカ故ニ同條ノ規定ニ存スル理論ハ私訴ニモ適用スヘキコトハ必要的共同訴訟ノ性質上當然ナルモノトス故ニ上告人龜之介ノ提起セル控訴ハ力ノ爲メニモ控訴ノ效力アルヲ以テ原院ハ力ニ對シテモ審判ヲ爲スヘキモノナルニ龜之介ノミヲ控訴人トシテ審判シタルカ故ニ一面ニ於テハ力ニ對スル訴訟ハ控訴審ニ繋屬シタルノミニシテ同人ニ對スル一審判决ハ確定スル時機ナク又一面ニ於テハ龜之介ニ對シ執行不能ノ判决ヲ下スニ至レルモノニシテ原院ノ審判ハ重要ナル手續ニ違背シタルモノナルヲ以テ上告論旨ハ其理由アルモノトス
右ノ理由ニ基キ原判决ハ破毀スヘキモノナルヲ以テ他ノ上告論旨ニ對シテハ説明ヲ與ヘス
以上ノ理由ナルヲ以テ刑事訴訟法第二百八十五條及第二百八十六條ニ依リ判决スル左ノ如シ
公訴上告ヲ棄却ス
私訴ノ原判决ヲ破毀シ本件ヲ宮城控訴院民事部ニ移送ス
檢事末弘嚴石干與明治三十八年四月二十一日大審院第二刑事部
明治三十八年(レ)第四四六号
明治三十八年四月二十一日宣告
◎判決要旨
- 一 甲者が乙者に売却したる土地を冒認して更に之を丙者に販売し丙者は其所有権の登記を為したる場合に於て乙者より甲者及び丙者を共同被告と為し此事実を請求の原因として登記の抹消を要むる事件は民事訴訟法第五十条に所謂必要的共同訴訟の性質を有するものとす。
- 一 私訴に関しては刑事訴訟法中民事訴訟法第五十条の如き明文なしと雖も必要的共同訴訟人に対し各牴触する判決を下すか又は其一人に対し判決を与へざる場合に於ては権利の執行を為し得ざるが故に同条の規定に存する法理は私訴に付ても亦之を適用せざるべからず。
(参照)。
然れども総ての共同訴訟人に対し訴訟に係る権利関係が合一二のみ確定す可きときに限り左の規定を適用す」共同訴訟人中の或る人の攻撃及び防禦の方法(証拠方法を包含す)は他の共同訴訟人の利益に於て効を生ず。」共同訴訟人中の或る人が争ひ又は認諾せざるときと雖も総ての共同訴訟人が悉く争ひ又は認諾せざるものと看做す。
共同訴訟人中の或る人のみか期日又は期間を懈怠したるときは其懈怠したる者は懈怠せざる者に代理を任じたるものと看做す。」。
然れども懈怠したる共同訴訟人には其懈怠せざりし場合に於て為す可き総ての送達及び呼出を為すことを要す。
其懈怠したる共同訴訟人は何時たりとも其後の訴訟手続に再ひ加はることを得。
(民事訴訟法$第五十条)
公訴上告人 川澄力
私訴上告人 米川亀之介
私訴被上告人 青山儀八
右力に対する詐欺取財被告事件及之れに附帯する亀之介儀八間の私訴事件に付、明治三十八年三月十三日東京控訴院に於て言渡したる判決に対し被告川澄力及民事被告人米川亀之介より各上告を為したり。
依て刑事訴訟法第二百八十三条の式を履行し判決する左の如し
被告力は明治三十八年三月十六日上告申立書を原院に差出したるも其後期間内に上告趣意書を提出せざるを以て本件上告は適法に成立せざるものとす。
私訴上告代理人天野敬一の拡張書は原判決は訴訟手続に違背ある不法の判決なり。
何となれば本件被上告人の一定の申立は「前略――被告川澄力及米川亀之介は茨城県東茨城郡上野合村大字小幡字鏡田
二千四百三十四番田二反三畝二十四歩に対し明治三十七年九月二十七日水戸区裁判所堅倉出張所に於てなしたる同日附売買に因る所有権移転の登記抹消の手続をなす可し――後略」と云ふにあり。
而して登記抹消の手続は登記法上登記権利者登記義務者の連署によりて之をなす可きものなるが故に本訴被上告人の請求は其性質に於て所謂合一に確定することを要する事項に属するものなり。
故に縦令相手方(即売買登記に於ける登記権利者並に登記義務者)の一人が上訴をなしたる場合に於ても尚民事訴訟法第五十条に規定せる夫れの如く他の相手方の一人をも呼出し其他総ての訴訟手続に加はらしめざる可からず。
是れ必ずしも法文を俟て然る可き事にあらずして其請求の性質上よりして当然生するの結果なりとす。
若し然らずして別別に審理し得可きものとせんか原告者は相手方一人のみに対して訴ふることをも許さざる可からず。
或は又別別に訴ふることをも許さざる可からず。
従て箇箇別別に反対の判決ある可き場合をも想像し得可く更に又本訴の如き相手方の一人は一審判決に服し他の一人上訴したる場合に於て上訴裁判所に於て一審判決を廃棄する場合あり得る事を看過する克はず。
然れども此の如きは共に登記法上全然許容せられざるものなり。
即ち知る本訴被上告人の請求は法の規定の有無に干はらず其性質上当然合一に審理判決せられざる可からざることを今右の前提の下に本件原院の審理手続を調査するに原裁判所は相手方の一人川澄力(即売買の登記義務者)を呼出さず参加せしめず又判決の客体となさざるものなることは公判始末書判決原本等に依って明了なり。
然らば即原判決は前述所論の如く訴訟手続に違背してなしたる不法の判決たるの非難は到底免る可からざるものと信ずと云ふに
在り
依て一件記録を調査するに本件の私訴は被上告人青山儀八より川澄力及び上告人米川亀之介を共同被告とし川澄力が青山儀八に売却したる茨城県東茨城郡上野合村大字小幡字鏡田二千四百三十四番田二反三畝二十四歩を冒認して上告人米川亀之介に販売し亀之介は其所有権の登記を為したるを請求の原因として右売買に基ける所有権移転登記の抹消を請求の目的とするものにして第一審に於ては力亀之介は被上告人の請求に応すべき旨の判決を受け力は控訴せずして亀之介のみ控訴したる事実にして右請求の原因に依れば本件は民事訴訟法第五十条に所謂必要的共同訴訟の性質を有する事件なりとす。
何となれば該登記の抹消は被上告人が力亀之介と共に申請するか否されば右両名に対し登記抹消の手続を為すべきことを命ずる判決を提出するにあらざれば之を為すを得ざるものにして力亀之介の中一名に対して右の判決あるも他の一名に対する登記抹消手続請求棄却の判決ありし場合に於ては登記抹消を命ずる判決は之を執行するに由なければなり。
而して私訴に関しては刑事訴訟法中民事訴訟法第五十条の如き明文なしと雖も必要的共同訴訟人に対し各牴触する判決を下すか或は其一人に対して判決を与へざる場合に於ては権利の執行を為すを得ざるが故に同条の規定に存する理論は私訴にも適用すべきことは必要的共同訴訟の性質上当然なるものとす。
故に上告人亀之介の提起せる控訴は力の為めにも控訴の効力あるを以て原院は力に対しても審判を為すべきものなるに亀之介のみを控訴人として審判したるが故に一面に於ては力に対する訴訟は控訴審に繋属したるのみにして同人に対する一審判決は確定する時機なく又一面に於ては亀之介に対し執行不能の判決を下すに至れるものにして原院の審判は重要なる手続に違背したるものなるを以て上告論旨は其理由あるものとす。
右の理由に基き原判決は破毀すべきものなるを以て他の上告論旨に対しては説明を与へず
以上の理由なるを以て刑事訴訟法第二百八十五条及第二百八十六条に依り判決する左の如し
公訴上告を棄却す
私訴の原判決を破毀し本件を宮城控訴院民事部に移送す
検事末弘厳石干与明治三十八年四月二十一日大審院第二刑事部