謀殺未遂ノ件
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大審院刑事判決録（刑録）10輯488頁
明治三十七年（れ）第三一八號
明治三十七年三月十七日宣告
◎判决要旨
- 一 甲者カ乙者ヲ殺害シ自己モ直ニ自殺センコトヲ决意シ其携來レル石炭酸ヲ乙者ノ口中ニ注入シタルモ大部分ハ口外ニ流下シタルニ因リ死ニ至ラサル場合ニ於テハ甲者ノ所爲ハ毒殺未遂罪ヲ構成ス
第一審 前橋地方裁判所
第二審 東京控訴院
被告人 熊倉スガ
右謀殺未遂被告事件ニ付明治三十七年二月二日東京控訴院ニ於テ言渡シタル判决ニ對シ被告ヨリ上告ヲ爲シタリ因テ刑事訴訟法第二百八十三條ノ定式ヲ履行シ判决スル左ノ如シ
上告趣意書ハ原院ハ被告熊倉スガカ犯罪ヲ爲サヽル事實ニ對シ有罪ノ判决ヲ與ヘラレタルハ違法ノ判决ナリト云フニ在レトモ◎原判决ニ認ムル所ハ要スルニ被告ハ石炭酸水ヲ携ヘ梅四郎ノ寢所ニ至リ同人ニ自殺ノ决意ヲ告ケ且共ニ情死センコトヲ求メタルニ梅四郎ハ更ニ應答ヲ爲サス甚タ冷淡ニ構ヘタルヨリ被告ハ其無情ヲ怨ミ茲ニ同人ヲ殺シ自己モ直ニ自殺セント决意シ梅四郎カ仰臥シ居ルニ乘シ携ヘ來リタル石炭酸ヲ梅四郎ノ口中ニ注入シタルモ十分同人ノ口中ニ入ラス大部分ハ口下ニ流下シタル爲メ死ニ至ラスト云フニ在ルヲ以テ刑法第二百九十三條ノ毒殺未遂罪ヲ構成スルコト勿論ナルニヨリ本論旨ハ其理由ナシ
右ノ理由ナルヲ以テ刑事訴訟法第二百八十五條ニ依リ本件上告ハ之ヲ棄却ス
明治三十七年三月十七日於大審院第二刑事部公廷檢事小宮三保松立會宣告ス
