明治三十六年(れ)第一六九〇號
明治三十六年十二月十七日宣告
◎判决要旨
- 一 判决ノ言渡ニ際シ判事ニ更代アルモ審理手續ヲ更新スヘキモノニ非ス(判旨第一點)
- 一 刑事訴訟法第百二十三條ノ規定ハ同法第百二十四條ノ規定ト同シク不可分ノ性質ヲ有スルモノニ非ス故ニ豫審判事ハ唯其知ラント欲スル關係事項ヲ擇ンテ之カ訊問ヲ爲スヲ以テ足レリトス(判旨第七點)
(參照)左ニ記載シタル者ハ證人ト爲ルコトヲ許サス但宣誓ヲ爲サシメスシテ事實參考ノ爲メ其供述ヲ聽クコトヲ得」第一、民事原告人」第二、民事原告人及ヒ被告人ノ親屬但姻族ニ付テハ婚姻ノ解除シタルトキト雖モ亦同シ」第三、民事原告人及ヒ被告人ノ後見人又ハ此等ノ者ノ後見ヲ受クル者」第四、民事原告人及ヒ被告人ノ雇人又ハ同居人(刑事訴訟法第百二十三條)
左ニ記載シタル者亦前條ニ同シ」第一、十六歳未滿ノ幼者」第二、知覺精神ノ不十分ナル者第三、瘖唖者」第四、公權ヲ剥奪セラレ又ハ公權ヲ停止セラレタル者」第五、重罪事件又ハ重禁錮ノ刑ニ該ル可キ輕罪事件ニ付キ公判ニ付セラレタル者」第六、現ニ供述ヲ爲ス可キ事件ニ付キ曾テ訴ヲ受ケ其證憑十分ナラサルニ因リ免訴ノ言渡ヲ受ケタル者(刑事訴訟法第百二十四條)
右公文書僞造行使詐欺取財被告事件ニ付明治三十六年六月二十七日宮城控訴院カ言渡シタル判决ヲ不法トシ被告ヨリ上告ヲ爲シタリ依テ刑事訴訟法第二百八十三條ノ定式ヲ履行シ判决スルコト左ノ如シ
上告趣意ノ第一本件ノ審理ハ判事松浦龜藏同大橋鐵之助前田信兆奈良猶興荻原義三郎ノ五名ヲ以テ組織セラレタル刑事部ノ審問ニ係ル事ハ訴訟記録ノ證スル所ナルニ其判决ノ場合ニ於テ判事鷹野鋭太郎ハ大橋判事ニ更代シタリ其部員ニ更代アレハ其審理ヲ更新スルハ當然ノコトナルニ事實審理ノ更新ヲナサス直ニ判决言渡ヲナシタルハ法律ノ命令ニ背キタル失當ノ裁判ニシテ判决全部ヲ無效ナラシムルモノナリト云フニ在レトモ◎原院ノ公判始末書ヲ調査スルニ本件判决言渡ノ場合ニ於テ判事鷹野鋭太郎カ判事大橋鐵之助ニ代リタル旨ノ記載ナキノミナラス始終同一ノ判事ヲ以テ訟廷ヲ組織シタル旨ノ記載アレハ本論旨ハ謂ハレナキコト多辯ヲ俟タス假リニ判决言渡ノ際判事ニ更代アリタリトスルモ判决ノ言渡ハ辯論ノ場合ニ非サルヲ以テ審理手續キヲ更新スルノ限リニ非ス』第二判决理由ハ判决主文ノ説明ナレハ理由ト主文ノ一致ニ依リ始メテ判决ノ當否ヲ査覈シ得ヘキモノナレハ判决ノ當否ハ暫ク擱キ主文ト理由トハ一致セサル可カラス若シ主文ト理由トノ一致セサルモノアランカ之レヲ是理由齟齬ノ判决ト云フ可シ今本訴判决主文ヲ閲スルニ公訴費用ノ四分ノ一ハ被告兵太夫ニ於テ負擔シ四分ノ一ハ被告兵太夫勇三郎ニ於テ連帶負擔スヘシト判决シ其理由ニ至リテ公訴費用ノ全部ヲ三分シ其一ヲ被告兵太夫勇三郎ノ連帶負擔ト説明セリ之レ法律ニ背キタル理由齟齬ノ判决ナリト云フニ在レトモ◎原判决主文ニ於テモ被告勇三郎ニ對シテハ公訴費用ノ四分ノ一ヲ科シ又其理由ノ説明ニ於テモ同シク四分一ヲ料ストアリテ前後牴觸ノ廉ナキヲ以テ本論旨ハ理由ナシ』第三明治三十四年十二月十五日上告人カ共同被告人畑中兵太夫ト共ニ收入役吉田政之助ヨリ金百圓ヲ請取リタル點ニ對シ原審ハ詐欺取財ノ犯罪ナリト斷シタリ而シテ其理由ヲ見ルニ第一他ノ共同請負人ニ隱祕シテ請取リタリト云フコト第二上告人ハ收入役ヨリ工事費受領ノ權限ナキニ受領ノ權アルモノヽ如ク仕做シタリトノコト第三工事ニ要スル金ナリト詐言シタリトノコト第四他ノ共同請負人ニ隱祕シ竊カニ使用シタリトノコト第五隱祕ハ即チ惡意ナリト云フノ五點ニ在リ以上ノ五點果シテ詐欺取財罪ヲ構成スルノ惡要素ヲ具備シタルモノト云フヲ得ヘキカ第一他ノ共同請負人ニ隱祕シテ請取リタリト云フ行爲カ如何ナレハ犯罪タルカ共同者間ノ會計ハ素ヨリ共同共通ノ財團ナレハ其决算期ニ至リ各自ノ受領金額ヲ合算シ之ヲ村役場ノ支出額ニ照査シ損益决算ノ結了ヲ爲ス次第ナレハ上告人ニ於テ如何ニ隱匿セントスルモ到底隱匿シ得ヘキコトニアラス隱匿ハ結局不能事タリ故ニ一時他ノ共同者ニ議ラス村役場ヨリ受領シタレハトテ之ヲ隱祕シタリトハ眞ニ皮相ノ觀察ニシテ事實關係ノ上ニ於テ隱祕ハ全然不能ノコトナリ第二上告人ハ金額受領ノ權ナキニ受領ノ權アルモノヽ如ク仕做シ收入役ヲ欺キ交付セシメタリト之レ形式ノ末ニ奔リタル觀察ニシテ共同者中鈴木大五郎ニアラサレハ村役場ヨリ金員受領ノ權利ナキモノトノ誤認ヨリ生スル結果ニ外ナラス鈴木大五郎ヲ以テ會計主任ト定メタルハ共同者五名中内部ノ事務分擔ニシテ共同者間ニ在テハ大五郎カ他ノ分擔事務ヲ履行スルモ上告人カ大五郎ノ分擔事務ヲ履行スルモ固ヨリ共同一致ノ行爲ナレハ敢テ越權不法ノ行爲タル嫌ナク相依リ相助ケ以テ工事ヲ完成シ依テ利益ヲ得ントスルニ外ナラス殊ニ金員ノ權利ノ如キハ請負人各自本然ノ性質トシテ平等ノ權利ヲ有スルモノタルコトハ法律ノ明定スル所然ルニ原審ハ上告人ニ金員受領ノ權ナシト斷シタルハ抑如何ナル理由ニ基キタルモノナルヤヲ解スル能ハサルナリ上告人カ法律上當然有スル所ノ權利ヲ無視シタルモノナリ上告人ハ法律上金員(受ノ字ヲ脱スルナラン)領ノ權利ヲ有ス焉ソ權利ヲ有スルモノヽ如ク假裝スルノ要アラン之レ法律ヲ適用セス無據上告人ヲ金員受領ノ權ナシト斷シタル失當アルヲ免レス第三工事ニ要スル金ナリト詐言シタリトノ事村役場ハ工事ニ要スル金ニアラサレハ下附スヘキ義務ナク上告人ハ工事費トシテニアラサレハ要求ノ權利ナシ故ニ工事費トシテ受領ノ後ニ於テ之ヲ如何ナル支途ニ流用スルモ豈敢テ妨ケアランヤ要ハ工事費實支出必要ノ場合ニ於テ支出スルカ支出セスシテ工事完成セハ支出セサルモ可ナリ只此金額ノ上告人手裏ニ存在スルコトヲ共同財團ノ清算勘定ニ編入セハ其間ハ如何ニ融通スルモ敢テ不可ナルコトナシ其何レノ點カ詐欺取財ノ要素タルヲ得ヘキヤ第四他ノ共同請負人ニ隱祕シ使用シタリトノ事第三項ノ理由ニ依リ是亦刑事ノ制裁ヲ受クヘキ事項ニ非ス第五隱祕ハ即チ惡意ナリトノ理由第一點ニ於テ述フルカ如ク到底隱祕シ得ヘカラサル事實關係ナレハ共同請負人ニ謀議セサレハトテ直ニ隱祕ト云フヲ得サルハ勿論未タ共同者ノ清算時期ニ達セスシテ本件公訴ノ起リタル場合ニ於テ輙ク隱祕セリ惡意ナリト斷スルハ其時期ニアラサル不法ノ推定ナリト云フニ在レトモ◎原判决ニ於テハ下請負金受領ノ權ハ會計主任鈴木大五郎ニ在ルニ拘ハラス被告ニ於テモ其下請負金受領ノ權ヲ有スルモノヽ如ク仕做シ收入役吉田政之助ヲ欺キ工事ニ要スル金圓ナリト稱シテ請負金ノ内百圓ヲ騙取シタルモノトノ事實ヲ認定シテ詐欺取財ノ罪ヲ構成スルモノナリト爲シタルモノニシテ固ヨリ原院職權ノ範圍ニ屬スル所ノモノトス而シテ所論ハ盡ク此職權ニ屬スル認定事實ニ對シテ攻撃ヲ試ミルニ過キサルモノナレハ上告ノ理由トナラス(判旨第一點)
辯護人高木益太郎松本豐辯明書ハ原院ハ被告ノ斷罪資料トシテ參考人鈴木大五郎ノ第二囘豫審調書ノ記載ヲ援用セリ而モ該調書ハ之ヲ被告ニ讀聞ケ其辯解ヲ求メタル形跡ナク不法ニシテ破毀ヲ免レスト信スト云フニ在レトモ◎原院公判始末書ヲ見ルニ云々此時本件告發状被告人證人ノ各豫審調書ヲ讀聞ケ辯解ヲ求メタル旨ノ記載アリ而シテ鈴木大五郎ハ本件ノ共同被告人ニシテ豫審免訴ノ决定ヲ受ケタル者ナレハ豫審中參考人トシテ取調ヲ受ケタル事蹟アルヘキ筈ナシ故ニ原院ニ於テ援用セシ同人第二囘豫審調書ハ同人ヲ被告トシテ訊問シタル調書ヲ指シタルコト疑ヒナキヲ以テ本論旨ハ理由ナシ』辯護人高木益太郎第二辯明書ハ第一請負工事ハ營利的事業ナルヲ以テ市町村ノ如キ公法人ハ法律上特ニ認容シタル場合ノ外其市町村ノ事業ト爲スヲ得サルコトハ行政法上ノ原理ニシテ現ニ我行政裁判所判例ノ認ムル所ナリ故ニ本件ノ場合ニ於テモ敷玉村ナル公法人ハ固ヨリ請負工事ヲ爲シ得ヘキ權限ヲ有セス又上告人等カ同村ヨリ下請負ヲ爲シタリトノコトナレトモ請負契約ニシテ不成立ナル以上ハ其下請負契約モ亦タ不成立ナルコトハ自明ノ理ナルノミナラス宮城縣訓令ニ依ルモ請負人ヨリ更ニ他人ニ下請負ヲ爲サシムルヲ禁止シ居ルコトハ既ニ原判决ノ認ムル所ナリ故ニ原判决カ本件ニ付村請負及下請負ノ成立ヲ認メ之ヲ基本トシテ本件ノ判斷ヲ下シタルハ不法ノ裁判ナリト云フニ在レトモ◎本件ニ付原院ノ認定スル所ノ事實ハ被告ニ於テ收入役吉田政之助ヲ欺キ金百圓ヲ騙取シタリト云フニ在レハ上告所論ノ如ク被告居村ノ敷玉村ハ縣廳ノ請負工事ヲ爲スノ權限ヲ有セス從テ被告等ノ下請負契約ハ不成立ノモノナリト假定スルモ被告ノ犯罪成立ニ關シテハ何等ノ影響ヲ及ホスヘキモノニアラサルヲ以テ本論旨ハ理由ナシ』二原判决理由ニ「其下請負金受領ノ權ハ會計主任ナル鈴木大五郎ニ委任シアルニ不拘云々」トアレトモ下請負人タル被告ト他ノ下請負人トノ間ノ權利干係如何ヲ説示セサルヲ以テ被告カ下請負金ノ内百圓ノ下付ヲ請求シタルハ果シテ詐欺取財罪ヲ構成スヘキモノナルヤ否ヤ明瞭ナラス即チ原裁判ハ事實理由不備アル不法ノ裁判ナリト云フニ在レトモ◎原院ニ於テ其下請負金受領ノ權ハ會計主任ナル鈴木大五郎ニ委任シアルノ事實ヲ認定スル以上ハ被告ニ於テ其下請負金ヲ受領スルノ權利ヲ有スル者ニ非サルノ事實ヲ知ルニ難カラサルヲ以テ別ニ原判决ニ於テ被告ト他ノ下請負人トノ間ニ於ケル權利關係如何ヲ説示セサルモ理由ノ不備ナリト謂フ可ラス本論旨ハ不相立』三證人吉田政之助第五囘訊問調書證人資格審査ノ部分ヲ見ルニ(記録五百四十一枚目)「問今野酉治トハ親族關係ナキヤ答アリマセン」トノミアリテ刑事訴訟法第百二十三條ニ規定セル親族以外ノ關係ニ付キ訊問シタル事跡ナシ故ニ同人ノ豫審調書ハ適法ノ證人調書ニ非ス然ルニ原判决カ之ヲ適法ノ證人調書トシテ本件斷罪ノ資料ニ供シタルハ不法ノ裁判ナリト云フニ在レトモ◎證人吉田政之助ハ豫審中前後五囘ノ訊問ヲ受ケタル者ニシテ其最初ノ訊問ニ際シテ豫審判事ハ刑事訴訟法第百二十三條ノ關係如何ヲ訊問シ其牴觸ナキヲ認メ爾來豫審ヲ續行シテ第五囘ニ及ヘリ第五囘訊問ノ際ニ檢事ハ別ニ今野酉治ニ對シテ公訴ヲ提起シタルヲ以テ豫審判事ハ特ニ證人ト被告人今野酉治トノ親族關係如何ヲ訊問スルノ必要ヲ認メ之レカ訊問ヲ爲シタルモノナリ其他ノ關係如何ヲ訊問セサルハ豫審判事ニ於テ本件記録上又ハ訊問上已ニ其牴觸ノ廉ナキヲ認識シタルニ由ル即チ豫審判事ハ被告今野酉治及證人吉田政之助ノ住所年齡ヲ訊問シ證人ト被告人ノ間同居竝ニ後見被後見人ノ關係アラサルコトヲ知リ又豫審中民事原告人タルノ申立ヲ爲シタル者ナキヲ以テ其關係ナキコトヲ知リタルニ依ル刑事訴訟法第百二十三條ノ規定ハ猶ホ同第百二十四條ノ規定ノ如ク不可分ノ性質アルモノニ非サレハ豫審判事ニ於テ只其知ラント欲スル關係事項ヲ擇ンテ之レカ訊問ヲ爲スヲ以テ足レリトス左レハ本件ニ付豫審判事カ證人吉田政之助ニ對シ被告人今野酉治トノ關係上刑事訴訟法第百二十三條ノ各項中單ニ親族關係ノ一項ヲ擇ンテ訊問ヲ爲シタルハ不法ノ證人訊問ト云フ可ラス原院此訊問調書ヲ採テ斷罪ノ資料ニ供スルモ固ヨリ當然ノミ本論旨ハ理由ナシ』四原判决ハ宮城縣工事町村請負規定ヲ判斷ノ資料ニ採用シタリ然ルニ右規定書ハ原院公判廷ニ顯出セサル證據ナルニ之ヲ引用シタルハ不法ナリト云フニ在レトモ◎原院公判始末書ヲ閲ミスルニ云々差押ノ書類ヲ讀聞ケ云々ノ記載アレハ所論ノ訓令モ之ヲ被告人ニ示シタルヤ疑ヒナシ本論旨ハ理由ナシ』五本件第一審判决主文ヲ視ルニ「公訴裁判費用中第一ノ所爲ニ關スル部分ハ勇三郎酉治ノ連帶負擔トシ(中畧)第五第六ニ關スル部分ハ被告兵太夫ノ負擔トス」ト掲ケアリシニ第二審判决主文ニハ「全公訴費用ノ四分ノ一ハ被告兵太夫ニ於テ負擔シ四分ノ一ハ被告兵太夫、勇三郎ニ於テ連帶負擔スヘシ」ト掲載アリ然ルニ上告人勇三郎ニ對スル公訴ハ原判决第一ノ事實ニ止マリ同人カ第二第三ノ犯罪事實ニ干係ナカリシコトハ原判决原本ニ徴シ明白ナリ從テ第一ノ事件ノ公訴費用ト第二第三事件ノ公訴費用トヲ併合シテ其一部分ノ負擔ヲ命スルカ如キハ不法ノ裁判タルヲ免レス而シテ第一審判决ニ於テハ第一ノ所爲ニ關スル部分ノ裁判費用ヲ勇三郎ノ負擔ト判斷シタルニ原判决ハ上告人ノ無關係ニシテ且ツ兵太夫單獨ノ犯罪事實タル第二第三ノ所爲(第一審判决第五第六ノ事實ニ該當ス)ニ就キ生シタル裁判費用ヲモ混同シテ其四分ノ一ヲ上告人ニ負擔セシメタルハ刑事訴訟法第二百六十五條ノ違反ト公訴裁判費用負擔ノ通則ニ背馳セシ不法ノ裁判ナリト云フニ在レトモ◎原判决ニ於テ全公訴費用ヲ四分シ其一ヲ以テ被告外一名ノ連帶負擔ト爲シタルハ全公訴費用ノ四分ノ一ハ即チ本件第一事實ノ費用ハ本件公訴費用全部ノ四分ノ一ヲ要スルモノトシテ共犯者兵太夫及ヒ勇三郎ニ連帶負擔ヲ命シタルモノニ外ナラサレハ所論ノ如ク原判决ニ於テ被告ノ關係セサルモノト認定シタル第二及第三事實ノ公訴裁判費用ノ一部迄モ包含スト謂フ可ラス從テ本論旨ハ理由ナシ(判旨第七點)
右ノ理由ニ依リ刑事訴訟法第二百八十五條ノ規定ニ從ヒ本件上告ハ之ヲ棄却ス
明治三十六年十二月十七日於大審院第一刑事部公廷檢事小宮三保松立會宣告ス
明治三十六年(レ)第一六九〇号
明治三十六年十二月十七日宣告
◎判決要旨
- 一 判決の言渡に際し判事に更代あるも審理手続を更新すべきものに非ず(判旨第一点)
- 一 刑事訴訟法第百二十三条の規定は同法第百二十四条の規定と同じく不可分の性質を有するものに非ず。
故に予審判事は唯其知らんと欲する関係事項を択んで之が訊問を為すを以て足れりとす。
(判旨第七点)
(参照)左に記載したる者は証人と為ることを許さず。
但宣誓を為さしめずして事実参考の為め其供述を聴くことを得。」第一、民事原告人」第二、民事原告人及び被告人の親属。
但姻族に付ては婚姻の解除したるときと雖も亦同じ。」第三、民事原告人及び被告人の後見人又は此等の者の後見を受くる者」第四、民事原告人及び被告人の雇人又は同居人(刑事訴訟法第百二十三条)
左に記載したる者亦前条に同じ。」第一、十六歳未満の幼者」第二、知覚精神の不十分なる者第三、瘖唖者」第四、公権を剥奪せられ又は公権を停止せられたる者」第五、重罪事件又は重禁錮の刑に該る可き軽罪事件に付き公判に付せられたる者」第六、現に供述を為す可き事件に付き曽て訴を受け其証憑十分ならざるに因り免訴の言渡を受けたる者(刑事訴訟法第百二十四条)
右公文書偽造行使詐欺取財被告事件に付、明治三十六年六月二十七日宮城控訴院が言渡したる判決を不法とし被告より上告を為したり。
依て刑事訴訟法第二百八十三条の定式を履行し判決すること左の如し
上告趣意の第一本件の審理は判事松浦亀蔵同大橋鉄之助前田信兆奈良猶興荻原義三郎の五名を以て組織せられたる刑事部の審問に係る事は訴訟記録の証する所なるに其判決の場合に於て判事鷹野鋭太郎は大橋判事に更代したり。
其部員に更代あれば其審理を更新するは当然のことなるに事実審理の更新をなさず直に判決言渡をなしたるは法律の命令に背きたる失当の裁判にして判決全部を無効ならしむるものなりと云ふに在れども◎原院の公判始末書を調査するに本件判決言渡の場合に於て判事鷹野鋭太郎が判事大橋鉄之助に代りたる旨の記載なきのみならず始終同一の判事を以て訟廷を組織したる旨の記載あれば本論旨は謂はれなきこと多弁を俟たず。
仮りに判決言渡の際判事に更代ありたりとするも判決の言渡は弁論の場合に非ざるを以て審理手続きを更新するの限りに非ず』第二判決理由は判決主文の説明なれば理由と主文の一致に依り始めて判決の当否を査覈し得べきものなれば判決の当否は暫く擱き主文と理由とは一致せざる可からず。
若し主文と理由との一致せざるものあらんか之れを是理由齟齬の判決と云ふ可し今本訴判決主文を閲するに公訴費用の四分の一は被告兵太夫に於て負担し四分の一は被告兵太夫勇三郎に於て連帯負担すべしと判決し其理由に至りて公訴費用の全部を三分し其一を被告兵太夫勇三郎の連帯負担と説明せり之れ法律に背きたる理由齟齬の判決なりと云ふに在れども◎原判決主文に於ても被告勇三郎に対しては公訴費用の四分の一を科し又其理由の説明に於ても同じく四分一を料すとありて前後牴触の廉なきを以て本論旨は理由なし。』第三明治三十四年十二月十五日上告人が共同被告人畑中兵太夫と共に収入役吉田政之助より金百円を請取りたる点に対し原審は詐欺取財の犯罪なりと断したり。
而して其理由を見るに第一他の共同請負人に隠秘して請取りたりと云ふこと第二上告人は収入役より工事費受領の権限なきに受領の権あるものの如く仕做したりとのこと第三工事に要する金なりと詐言したりとのこと第四他の共同請負人に隠秘し窃かに使用したりとのこと第五隠秘は。
即ち悪意なりと云ふの五点に在り以上の五点果して詐欺取財罪を構成するの悪要素を具備したるものと云ふを得べきか第一他の共同請負人に隠秘して請取りたりと云ふ行為が如何なれば犯罪たるか共同者間の会計は素より共同共通の財団なれば其決算期に至り各自の受領金額を合算し之を村役場の支出額に照査し損益決算の結了を為す次第なれば上告人に於て如何に隠匿せんとするも到底隠匿し得べきことにあらず。
隠匿は結局不能事たり。
故に一時他の共同者に議らず村役場より受領したればとて之を隠秘したりとは真に皮相の観察にして事実関係の上に於て隠秘は全然不能のことなり第二上告人は金額受領の権なきに受領の権あるものの如く仕做し収入役を欺き交付せしめたりと之れ形式の末に奔りたる観察にして共同者中鈴木大五郎にあらざれば村役場より金員受領の権利なきものとの誤認より生ずる結果に外ならず鈴木大五郎を以て会計主任と定めたるは共同者五名中内部の事務分担にして共同者間に在ては大五郎が他の分担事務を履行するも上告人が大五郎の分担事務を履行するも固より共同一致の行為なれば敢て越権不法の行為たる嫌なく相依り相助け以て工事を完成し依て利益を得んとするに外ならず殊に金員の権利の如きは請負人各自本然の性質として平等の権利を有するものたることは法律の明定する所然るに原審は上告人に金員受領の権なしと断したるは抑如何なる理由に基きたるものなるやを解する能はざるなり。
上告人が法律上当然有する所の権利を無視したるものなり。
上告人は法律上金員(受の字を脱するならん)領の権利を有す。
焉そ権利を有するものの如く仮装するの要あらん之れ法律を適用せず。
無拠上告人を金員受領の権なしと断したる失当あるを免れず第三工事に要する金なりと詐言したりとの事村役場は工事に要する金にあらざれば下附すべき義務なく上告人は工事費としてにあらざれば要求の権利なし。
故に工事費として受領の後に於て之を如何なる支途に流用するも豈敢て妨げあらんや要は工事費実支出必要の場合に於て支出するか支出せずして工事完成せば支出せざるも可なり。
只此金額の上告人手裏に存在することを共同財団の清算勘定に編入せば其間は如何に融通するも敢て不可なることなし其何れの点が詐欺取財の要素たるを得べきや第四他の共同請負人に隠秘し使用したりとの事第三項の理由に依り是亦刑事の制裁を受くべき事項に非ず第五隠秘は。
即ち悪意なりとの理由第一点に於て述ぶるが如く到底隠秘し得べからざる事実関係なれば共同請負人に謀議せざればとて直に隠秘と云ふを得ざるは勿論未だ共同者の清算時期に達せずして本件公訴の起りたる場合に於て輙く隠秘せり悪意なりと断するは其時期にあらざる不法の推定なりと云ふに在れども◎原判決に於ては下請負金受領の権は会計主任鈴木大五郎に在るに拘はらず被告に於ても其下請負金受領の権を有するものの如く仕做し収入役吉田政之助を欺き工事に要する金円なりと称して請負金の内百円を騙取したるものとの事実を認定して詐欺取財の罪を構成するものなりと為したるものにして固より原院職権の範囲に属する所のものとす。
而して所論は尽く此職権に属する認定事実に対して攻撃を試みるに過ぎざるものなれば上告の理由とならず(判旨第一点)
弁護人高木益太郎松本豊弁明書は原院は被告の断罪資料として参考人鈴木大五郎の第二回予審調書の記載を援用せり而も該調書は之を被告に読聞け其弁解を求めたる形跡なく不法にして破毀を免れずと信ずと云ふに在れども◎原院公判始末書を見るに云云此時本件告発状被告人証人の各予審調書を読聞け弁解を求めたる旨の記載あり。
而して鈴木大五郎は本件の共同被告人にして予審免訴の決定を受けたる者なれば予審中参考人として取調を受けたる事蹟あるべき筈なし。
故に原院に於て援用せし同人第二回予審調書は同人を被告として訊問したる調書を指したること疑ひなきを以て本論旨は理由なし。』弁護人高木益太郎第二弁明書は第一請負工事は営利的事業なるを以て市町村の如き公法人は法律上特に認容したる場合の外其市町村の事業と為すを得ざることは行政法上の原理にして現に我行政裁判所判例の認むる所なり。
故に本件の場合に於ても敷玉村なる公法人は固より請負工事を為し得べき権限を有せず。
又上告人等が同村より下請負を為したりとのことなれども請負契約にして不成立なる以上は其下請負契約も亦た不成立なることは自明の理なるのみならず宮城県訓令に依るも請負人より更に他人に下請負を為さしむるを禁止し居ることは既に原判決の認むる所なり。
故に原判決が本件に付、村請負及下請負の成立を認め之を基本として本件の判断を下したるは不法の裁判なりと云ふに在れども◎本件に付、原院の認定する所の事実は被告に於て収入役吉田政之助を欺き金百円を騙取したりと云ふに在れば上告所論の如く被告居村の敷玉村は県庁の請負工事を為すの権限を有せず。
従て被告等の下請負契約は不成立のものなりと仮定するも被告の犯罪成立に関しては何等の影響を及ぼすべきものにあらざるを以て本論旨は理由なし。』二原判決理由に「其下請負金受領の権は会計主任なる鈴木大五郎に委任しあるに不拘云云」とあれども下請負人たる被告と他の下請負人との間の権利干係如何を説示せざるを以て被告が下請負金の内百円の下付を請求したるは果して詐欺取財罪を構成すべきものなるや否や明瞭ならず。
即ち原裁判は事実理由不備ある不法の裁判なりと云ふに在れども◎原院に於て其下請負金受領の権は会計主任なる鈴木大五郎に委任しあるの事実を認定する以上は被告に於て其下請負金を受領するの権利を有する者に非ざるの事実を知るに難からざるを以て別に原判決に於て被告と他の下請負人との間に於ける権利関係如何を説示せざるも理由の不備なりと謂ふ可らず本論旨は不相立』三証人吉田政之助第五回訊問調書証人資格審査の部分を見るに(記録五百四十一枚目)「問今野酉治とは親族関係なきや答ありません」とのみありて刑事訴訟法第百二十三条に規定せる親族以外の関係に付き訊問したる事跡なし。
故に同人の予審調書は適法の証人調書に非ず。
然るに原判決が之を適法の証人調書として本件断罪の資料に供したるは不法の裁判なりと云ふに在れども◎証人吉田政之助は予審中前後五回の訊問を受けたる者にして其最初の訊問に際して予審判事は刑事訴訟法第百二十三条の関係如何を訊問し其牴触なきを認め爾来予審を続行して第五回に及へり第五回訊問の際に検事は別に今野酉治に対して公訴を提起したるを以て予審判事は特に証人と被告人今野酉治との親族関係如何を訊問するの必要を認め之れが訊問を為したるものなり。
其他の関係如何を訊問せざるは予審判事に於て本件記録上又は訊問上己に其牴触の廉なきを認識したるに由る。
即ち予審判事は被告今野酉治及証人吉田政之助の住所年齢を訊問し証人と被告人の間同居並に後見被後見人の関係あらざることを知り又予審中民事原告人たるの申立を為したる者なきを以て其関係なきことを知りたるに依る刑事訴訟法第百二十三条の規定は猶ほ同第百二十四条の規定の如く不可分の性質あるものに非ざれば予審判事に於て只其知らんと欲する関係事項を択んで之れが訊問を為すを以て足れりとす。
左れば本件に付、予審判事が証人吉田政之助に対し被告人今野酉治との関係上刑事訴訟法第百二十三条の各項中単に親族関係の一項を択んで訊問を為したるは不法の証人訊問と云ふ可らず原院此訊問調書を採で断罪の資料に供するも固より当然のみ本論旨は理由なし。』四原判決は宮城県工事町村請負規定を判断の資料に採用したり。
然るに右規定書は原院公判廷に顕出せざる証拠なるに之を引用したるは不法なりと云ふに在れども◎原院公判始末書を閲みずるに云云差押の書類を読聞け云云の記載あれば所論の訓令も之を被告人に示したるや疑ひなし本論旨は理由なし。』五本件第一審判決主文を視るに「公訴裁判費用中第一の所為に関する部分は勇三郎酉治の連帯負担とし(中略)第五第六に関する部分は被告兵太夫の負担とす。」と掲げありしに第二審判決主文には「全公訴費用の四分の一は被告兵太夫に於て負担し四分の一は被告兵太夫、勇三郎に於て連帯負担すべし。」と掲載あり。
然るに上告人勇三郎に対する公訴は原判決第一の事実に止まり同人が第二第三の犯罪事実に干係なかりしことは原判決原本に徴し明白なり。
従て第一の事件の公訴費用と第二第三事件の公訴費用とを併合して其一部分の負担を命ずるが如きは不法の裁判たるを免れず。
而して第一審判決に於ては第一の所為に関する部分の裁判費用を勇三郎の負担と判断したるに原判決は上告人の無関係にして且つ兵太夫単独の犯罪事実たる第二第三の所為(第一審判決第五第六の事実に該当す)に就き生じたる裁判費用をも混同して其四分の一を上告人に負担せしめたるは刑事訴訟法第二百六十五条の違反と公訴裁判費用負担の通則に背馳せし不法の裁判なりと云ふに在れども◎原判決に於て全公訴費用を四分し其一を以て被告外一名の連帯負担と為したるは全公訴費用の四分の一は。
即ち本件第一事実の費用は本件公訴費用全部の四分の一を要するものとして共犯者兵太夫及び勇三郎に連帯負担を命じたるものに外ならざれば所論の如く原判決に於て被告の関係せざるものと認定したる第二及第三事実の公訴裁判費用の一部迄も包含すと謂ふ可らず。
従て本論旨は理由なし。
(判旨第七点)
右の理由に依り刑事訴訟法第二百八十五条の規定に従ひ本件上告は之を棄却す
明治三十六年十二月十七日於大審院第一刑事部公廷検事小宮三保松立会宣告す