明治三十六年（れ）第一〇三九號
明治三十六年六月五日宣告
◎判决要旨
- 一 謀殺故殺若クハ誹毀ノ如キ犯罪ハ自他互ニ集合シ難キ人ノ生命若クハ名譽ヲ侵害スルモノニシテ被害者毎ニ異別ノ效果ヲ生ス從テ縱令同一ノ决意ヲ以テ同時同一ノ場所ニ於テ數人ヲ謀殺若クハ誹毀スルモ之ヲ一括シテ一ノ謀殺一ノ誹毀ナリト云フヲ得ス（判旨第二點）
- 一 檢事ノ謀殺未遂トシテ起訴シタル事件ヲ後ニ被害者カ死亡シタルカ爲メ謀殺既遂トシテ裁判所カ審理判决シタル場合ニ於テハ其事件ハ同一ニシテ異別ノモノニ非サルヲ以テ謀殺既遂ノ點ニ付キ起訴ナキモノト云フヲ得ス（判旨第四點）
右謀故殺等事件ニ付明治三十六年四月七日大阪控訴院カ言渡シタル判决ニ對シ被告ハ上告ヲ爲シタリ因テ刑事訴訟法第二百八十三條ノ式ヲ履行シ判决スルコト左ノ如シ
上告趣意書ノ要旨第一ハ原判决證據説明ノ部ヲ通讀スルニ單ニ豫審調書其他ノ一部ヲ摘載列擧シタルニ止リ復次郎ニ對スル謀殺ノ决意アリシコトノ證據説明ハ稍々完全ナリト見ルヲ得ヘキモミネヲリ香菊ヲ殺害シ依テ鬱憤ヲ散セント决意シ深思熟慮ノ末兇行ヲ遂ケタリトノコトニ付テノ證據説明ヲ缺如セリ只列擧摘示ノ中被告惣平ノ第一囘豫審調書ニ「廣島地方ヘ移轉スルコトヲ聞キ憤怒ニ堪ヘス復次郎ヲ殺サントノ念ヲ起シ刀劔ヲ用意シ復次郎方ニ立越シタリ然ルニ匹田家財産整理ノコトニ付テハ叔母ミネ及ヒ其妹兩名ノ者モ豫テヨリ協議シ自分ニ對シ侮辱ヲ加ヘ居タル爲メ豫テ恨ミ居タル結果事ノ序ニ殺サント考ヘ斯ル兇行ニ及ヒタル次第ニテ」トアリテ深思熟慮ノ結果謀殺シタルニアラスシテ復次郎ニ對スル兇行ノ際序テニ斯ル兇行即チ故殺ヲ行ヒタルコトヲ見ルニ足ル記載ノミナリ尤モ前述調書ノ續キニ「匹田ノ叔母ハ復次郎ト一緒ニ殺害スル腹ナリシトノ趣旨記載」トアルヲ以テミネニ對スル謀殺ノ證據説明ハアリト云フヲ得ヘキモヲリ香菊ノ二人ニ對シテハ其證據説明ヲ缺ケリ故ニ原判决ハ此點ニ於テ理由ノ不備アル不法ノ判决ナリト云ヒ」第二ハヲリ香菊ニ對スル所爲カ豫謀ニ出テタル證據ナク復次郎ミネニ對スル餘憤ノ迸出シタル結果偶然加害行爲アリタルコトハ原院モ亦認ムルモノノ如シ故ニ右所爲ハ刑法第二百九十四條ニ該當スルモノナルニ原院カ同第二百九十二條ヲ適用シタルハ擬律ノ錯誤ナリト云フニアレトモ◎諸般ノ證憑ヲ綜合シテ事實ヲ認定スルハ原院ノ職權ニ屬スルヲ以テ原院ハ其判文ニ列記セル諸般ノ證憑ヲ綜合シテ被告カ復次郎ミネヲリ香菊等ヲ殺害シ鬱憤ヲ散セント决意シ深思熟慮ノ末殺害行爲ヲ實行シタルモ復次郎ニ對シテハ負傷セシメタルノミニシテ同人逃走ノ爲メ其目的ヲ達セス他三名ニ對シテハ殺害ノ目的ヲ達シタル事實ヲ認定シタルモノニシテ其證據ノ説明ニ於テ亳モ缺クル所ナシ畢竟第一ノ論旨ハ原院ト證據ノ判斷ヲ異ニシ原判决ヲ攻撃スルニ過キサルヲ以テ上告ノ理由トナラサルノミナラス原判决ニ依レハヲリ香菊ニ對スル被告ノ所爲ハ前示ノ如ク謀殺ノ事實ニシテ故殺ニアラサルヲ以テ原院カ刑法第二百九十二條ヲ適用シタルハ擬律ノ錯誤ニアラス
第三ハ原判决ニ認メタル如ク被告ノ所爲カ謀殺ナリトスルモ復次郎等四人ニ對スル兇行ハ各別ニ犯罪ヲ構成スヘキモノニアラスシテ一所爲ナリトス然ルニ原院カ數罪倶發トシテ處分シタルハ不法ナリト云フニ在リ◎因テ按スルニ同一ノ决意ヲ以テ同時同一ノ場所ニ於テ數人ニ屬スル財物ヲ竊取シタル場合ノ如キハ其行爲ニ因リ害ヲ被ムル者ハ數人アリト雖モ其行爲ハ要スルニ人ノ財物ヲ竊取シタルモノニシテ一ノ犯法行爲タルニ止リ被害者毎ニ各異別ノ犯罪ヲ構成スヘキモノニアラス然レトモ謀殺故殺若クハ誹毀ノ如キ犯罪ニ至テハ各人ニ附着シ自他互ニ集合シ難キ人ノ生命若クハ名譽ヲ侵害スルモノニシテ被害者毎ニ異別ノ效果ヲ生スヘキモノナレハ縱令同一ノ决意ヲ以テ同時同一ノ場所ニ於テ數人ヲ謀殺若クハ誹毀シタリトスルモ之ヲ一括シテ一ノ謀殺若クハ一ノ誹毀ナリト看ルヲ得ス即チ此ノ如キ場合ニ於テハ被害者毎ニ各異別ノ犯罪ヲ構成スヘキモノナリトス故ニ原院カ本件復次郎外三名ニ對スル被告ノ謀殺及ヒ謀殺未遂ノ所爲ヲ四罪ト認メ刑法第百條ヲ適用處分シタルハ不法ニアラス（判旨第二點）
第四ハ電信法違反ノ點ニ付テハ被告ノ第一審公判始末書ニ於ケル供述ヲ援用シアルノミニシテ他ニ何等ノ説明ナシ即チ原判决ハ被告ノ自白ノミニ依リ他ニ何等ノ證據調ヲ爲サヽルモノニシテ公判手續ニ違背シタル不法ノ裁判ナリト云フニ在レトモ◎證據ノ判斷ハ原院ノ職權ニ屬スルヲ以テ被告ノ自白ノミナリト雖モ之レニ據テ罪トナルヘキ事實ヲ認定スルニ足ルヘキ證據ナリト判斷シタル以上ハ其自白ノミニ據リ事實ヲ認定スルモ違法ニアラサルヲ以テ原院カ第一審ニ於テ爲シタル被告ノ自白ノミヲ以テ電信法違反ノ事實ヲ認定シタルハ違法ニアラサルノミナラス原院カ電信法違反ノ點ニ付テハ第一審公判始末書ノ外被告ノ豫審調書豫審判事ノ檢證調書等ヲ朗讀シテ其證據調ヲ爲シタルコトハ原院公判始末書ニ徴シ明カナルヲ以テ本論旨ハ上告ノ理由ナシ
辯護人兒玉松之助上告趣意辯明書ノ第一ハ檢事ノ起訴状ヲ閲スルニ「被告ハ疋田復次郎同ミネ佐藤ラク樋土井カキクノ四名ヲ殺害センコトヲ謀リ本年六月三日午後十一時過キ東區南本町三町目疋田復次郎方ニ至リ二尺餘ノ刀ヲ以テ右四名ニ斬付ケタルニミネハ即死他ノ三名ハ重傷ヲ負ヒタルモ未タ死ニ至ラサル事實」トアリ即チ被害者ミネニ對スル所爲ハ謀殺既遂犯トシテ起訴シ他ノ復次郎コキクヲクノ三名ニ對スル所爲ハ謀殺未遂犯トシテ起訴シタルモノナルコト明カナリ故ニ本件ノ如ク起訴後ニ至リ被害者死亡シタル事實ナリトセハ更ニ既遂トシテ訴追セサルヘカラサルニ事茲ニ出テスシテコキクヲリニ對スル所爲ヲ謀殺既遂犯トシテ直ニ審理判决シタルハ明ニ起訴セサル事實ニ對シ審理シタル不法アリト云フニ在レトモ◎檢事カ本件公訴ヲ提起スル當時ニ在テハ香菊ヲリハ未タ死亡セサリシヲ以テ檢事ハ謀殺未遂トシテ之ヲ起訴シタリト雖モ右ハ香菊ヲリニ對シテ被告カ行ヒタル謀殺事件ノ起訴ヲ爲シタルモノナルコトハ疑ヲ容ルヘカラス而シテ起訴後ニ於テ香菊ヲリカ死亡シ從テ被告ノ所爲ハ謀殺既遂トナリタリトスルモ其事件ハ即チ檢事カ謀殺未遂トシテ起訴シタルト同一事件ニシテ異別ノ事件ニアラサルヲ以テ原院カ香菊ヲリニ對スル所爲ヲ謀殺巳遂トシテ審判シタルハ起訴ナキ事實ニ對シ審判シタル不法アルモノニアラス（判旨第四點）
其第二ハ本件ニ付キ檢事カ電話ノ報告書ヲ受ケタルハ六月四日午前一時ナリ而シテ檢證シタルモ亦午前一時ナリ（檢證調書參照）然ラハ此ノ間ニ空間ナキヲ以テ檢事ノ起訴ハ六月四日トアルモ必スヤ午前一時ノ後ナルコト論ヲ俟タス果シテ然ラハ未タ適式ノ起訴ナキニ鑑定人ヲシテ鑑定セシメ因テ以テ不適法ニ作成セラレタル鑑定書ヲ罪證ニ供セシメタルハ不法ナリト云フニ在レトモ◎本件檢事ノ起訴ハ明治三十五年六月四日午前一時後ナリトスルモ豫審判事カ檢事ノ起訴ヲ受ケタル後檢證ヲ爲シタルコトハ起訴状ニ「直ニ現場ヘ臨檢ヲ求ム」トノ記載アルニ徴シテ明瞭ニシテ而シテ豫審判事カ鑑定人ヲシテ鑑定ヲ爲サシメタルハ檢證ノ際之ヲ爲サシメタルモノナルコトハ其檢證調書ニ「別紙鑑定人調書ノ如ク大谷幾三郎ニ鑑定ヲ命シタル旨」ノ記載アルニ徴シテ明瞭ナレハ豫審判事カ鑑定人ヲシテ鑑定ヲ爲サシメタルコトハ即チ檢事ノ起訴後ナルコト自カラ明カナルヲ以テ本論旨ハ上告ノ理由ナシトス
右ノ理由ナルヲ以テ刑事訴訟法第二百八十五條ニ依リ本件上告ハ之ヲ棄却ス
明治三十六年六月五日於大審院第二刑事部公廷檢事小宮三保松立會宣告ス
明治三十六年（レ）第一〇三九号
明治三十六年六月五日宣告
◎判決要旨
- 一 謀殺故殺若くは誹毀の如き犯罪は自他互に集合し難き人の生命若くは名誉を侵害するものにして被害者毎に異別の効果を生ず。
従て縦令同一の決意を以て同時同一の場所に於て数人を謀殺若くは誹毀するも之を一括して一の謀殺一の誹毀なりと云ふを得ず。
（判旨第二点）
- 一 検事の謀殺未遂として起訴したる事件を後に被害者が死亡したるか為め謀殺既遂として裁判所が審理判決したる場合に於ては其事件は同一にして異別のものに非ざるを以て謀殺既遂の点に付き起訴なきものと云ふを得ず。
（判旨第四点）
右謀故殺等事件に付、明治三十六年四月七日大坂控訴院が言渡したる判決に対し被告は上告を為したり。
因で刑事訴訟法第二百八十三条の式を履行し判決すること左の如し
上告趣意書の要旨第一は原判決証拠説明の部を通読するに単に予審調書其他の一部を摘載列挙したるに止り復次郎に対する謀殺の決意ありしことの証拠説明は稍稍完全なりと見るを得べきもみねをり香菊を殺害し依て鬱憤を散せんと決意し深思熟慮の末兇行を遂けたりとのことに付ての証拠説明を欠如せり只列挙摘示の中被告惣平の第一回予審調書に「広島地方へ移転することを聞き憤怒に堪へず復次郎を殺さんとの念を起し刀劔を用意し復次郎方に立越したり。
然るに匹田家財産整理のことに付ては叔母みね及び其妹両名の者も予てより協議し自分に対し侮辱を加へ居たる為め予で恨み居たる結果事の序に殺さんと考へ斯る兇行に及びたる次第にて」とありて深思熟慮の結果謀殺したるにあらずして復次郎に対する兇行の際序てに斯る兇行即ち故殺を行ひたることを見るに足る記載のみなり。
尤も前述調書の続きに「匹田の叔母は復次郎と一緒に殺害する腹なりしとの趣旨記載」とあるを以てみねに対する謀殺の証拠説明はありと云ふを得べきもをり香菊の二人に対しては其証拠説明を欠けり故に原判決は此点に於て理由の不備ある不法の判決なりと云ひ」第二はをり香菊に対する所為が予謀に出でたる証拠なく復次郎みねに対する余憤の迸出したる結果偶然加害行為ありたることは原院も亦認むるものの如し故に右所為は刑法第二百九十四条に該当するものなるに原院が同第二百九十二条を適用したるは擬律の錯誤なりと云ふにあれども◎諸般の証憑を綜合して事実を認定するは原院の職権に属するを以て原院は其判文に列記せる諸般の証憑を綜合して被告が復次郎みねをり香菊等を殺害し鬱憤を散せんと決意し深思熟慮の末殺害行為を実行したるも復次郎に対しては負傷せしめたるのみにして同人逃走の為め其目的を達せず他三名に対しては殺害の目的を達したる事実を認定したるものにして其証拠の説明に於て亳も欠くる所なし。
畢竟第一の論旨は原院と証拠の判断を異にし原判決を攻撃するに過ぎざるを以て上告の理由とならざるのみならず原判決に依ればをり香菊に対する被告の所為は前示の如く謀殺の事実にして故殺にあらざるを以て原院が刑法第二百九十二条を適用したるは擬律の錯誤にあらず。
第三は原判決に認めたる如く被告の所為が謀殺なりとするも復次郎等四人に対する兇行は各別に犯罪を構成すべきものにあらずして一所為なりとす。
然るに原院が数罪倶発として処分したるは不法なりと云ふに在り◎因で按ずるに同一の決意を以て同時同一の場所に於て数人に属する財物を窃取したる場合の如きは其行為に因り害を被むる者は数人ありと雖も其行為は要するに人の財物を窃取したるものにして一の犯法行為たるに止り被害者毎に各異別の犯罪を構成すべきものにあらず。
然れども謀殺故殺若くは誹毀の如き犯罪に至ては各人に附着し自他互に集合し難き人の生命若くは名誉を侵害するものにして被害者毎に異別の効果を生ずべきものなれば縦令同一の決意を以て同時同一の場所に於て数人を謀殺若くは誹毀したりとするも之を一括して一の謀殺若くは一の誹毀なりと看るを得ず。
即ち此の如き場合に於ては被害者毎に各異別の犯罪を構成すべきものなりとす。
故に原院が本件復次郎外三名に対する被告の謀殺及び謀殺未遂の所為を四罪と認め刑法第百条を適用処分したるは不法にあらず。
（判旨第二点）
第四は電信法違反の点に付ては被告の第一審公判始末書に於ける供述を援用しあるのみにして他に何等の説明なし。
即ち原判決は被告の自白のみに依り他に何等の証拠調を為さざるものにして公判手続に違背したる不法の裁判なりと云ふに在れども◎証拠の判断は原院の職権に属するを以て被告の自白のみなりと雖も之れに拠で罪となるべき事実を認定するに足るべき証拠なりと判断したる以上は其自白のみに拠り事実を認定するも違法にあらざるを以て原院が第一審に於て為したる被告の自白のみを以て電信法違反の事実を認定したるは違法にあらざるのみならず原院が電信法違反の点に付ては第一審公判始末書の外被告の予審調書予審判事の検証調書等を朗読して其証拠調を為したることは原院公判始末書に徴し明かなるを以て本論旨は上告の理由なし。
弁護人児玉松之助上告趣意弁明書の第一は検事の起訴状を閲するに「被告は疋田復次郎同みね佐藤らく樋土井かきくの四名を殺害せんことを謀り本年六月三日午後十一時過き東区南本町三町目疋田復次郎方に至り二尺余の刀を以て右四名に斬付けたるにみねは即死他の三名は重傷を負ひたるも未だ死に至らざる事実」とあり。
即ち被害者みねに対する所為は謀殺既遂犯として起訴し他の復次郎こきくをくの三名に対する所為は謀殺未遂犯として起訴したるものなること明かなり。
故に本件の如く起訴後に至り被害者死亡したる事実なりとせば更に既遂として訴追せざるべからざるに事茲に出でずしてこきくをりに対する所為を謀殺既遂犯として直に審理判決したるは明に起訴せざる事実に対し審理したる不法ありと云ふに在れども◎検事が本件公訴を提起する当時に在ては香菊をりは未だ死亡せざりしを以て検事は謀殺未遂として之を起訴したりと雖も右は香菊をりに対して被告が行ひたる謀殺事件の起訴を為したるものなることは疑を容るべからず。
而して起訴後に於て香菊をりか死亡し。
従て被告の所為は謀殺既遂となりたりとするも其事件は。
即ち検事が謀殺未遂として起訴したると同一事件にして異別の事件にあらざるを以て原院が香菊をりに対する所為を謀殺己遂として審判したるは起訴なき事実に対し審判したる不法あるものにあらず。
（判旨第四点）
其第二は本件に付き検事が電話の報告書を受けたるは六月四日午前一時なり。
而して検証したるも亦午前一時なり。
（検証調書参照）然らば此の間に空間なきを以て検事の起訴は六月四日とあるも必ずや午前一時の後なること論を俟たず。
果して然らば未だ適式の起訴なきに鑑定人をして鑑定せしめ因で以て不適法に作成せられたる鑑定書を罪証に供せしめたるは不法なりと云ふに在れども◎本件検事の起訴は明治三十五年六月四日午前一時後なりとするも予審判事が検事の起訴を受けたる後検証を為したることは起訴状に「直に現場へ臨検を求む」との記載あるに徴して明瞭にして、而して予審判事が鑑定人をして鑑定を為さしめたるは検証の際之を為さしめたるものなることは其検証調書に「別紙鑑定人調書の如く大谷幾三郎に鑑定を命じたる旨」の記載あるに徴して明瞭なれば予審判事が鑑定人をして鑑定を為さしめたることは。
即ち検事の起訴後なること自から明かなるを以て本論旨は上告の理由なしとす
右の理由なるを以て刑事訴訟法第二百八十五条に依り本件上告は之を棄却す
明治三十六年六月五日於大審院第二刑事部公廷検事小宮三保松立会宣告す
