移民保護法違犯ノ件
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大審院刑事判決録（刑録）8輯10巻162頁
明治三十五年（れ）第二〇五八號
明治三十五年十一月二十八日宣告
◎判决要旨
- 一 移民保護法ニ所謂渡航ノ周旋トハ他人ノ渡航ニ關シ必要ノ手續ヲ爲ス行爲ヲ指稱シタルモノトス從テ苟クモ渡航手續ノ幾部ヲ行ヒタルトキハ其手續ノ如何ヲ問ハス同法第二十三條ノ犯罪ヲ構成ス
（參照）行政聽ノ許可ヲ受ケスシテ移民取扱人ノ行爲ヲ爲シタル者又ハ營業停止中ニ移民ヲ募集シ又ハ其ノ渡航ノ周旋ヲ爲シタル移民取扱人及代理人ハ二百圓以上千圓以下ノ罰金ニ處ス（移民保護法＄第二十三條）
第一審 山口地方裁判所岩國支部
第二審 廣島控訴院
被告人 相繁壽
右移民保護法違犯事件ニ付明治三十五年十月二十日廣島控訴院ニ於テ言渡シタル判决ヲ不法トシ被告ヨリ上告ヲ爲シタリ因テ刑事訴訟法第二百八十三條ノ式ヲ履行シ判决スルコト左ノ如シ
上告趣意書ノ第一點ハ原判决ヲ閲スルニ被告人ニ於テ無免許海外渡航ノ募集及周旋ヲ爲シタルコトヲ認メラレタリ而シテ募集ノ點ニ付テハ其行爲ノ場所ヲ示サレタレ共周旋ノ點ニ付テハ場所ニ付何等ノ明示ナシ即チ原判决ハ此點ニ於テ不法ナリト云フニ在レトモ◎原判文ニハ募集周旋ノ場所共ニ江岸末太郎宅ト認メアルヲ以テ本論旨ハ原判旨ニ副ハス』其第二點ハ一審判决ヲ閲スルニ被告人ニ於テ無免許海外渡航ノ募集ト周旋トヲ爲シタルコトヲ其判文上ニ掲載セラレタレトモ單ニ渡航ノ周旋ヲ爲シタリト記載シアルノミニシテ果シテ周旋行爲トハ如何ナルモノヲ指稱セラレタルヤ不明ナリ然ルニ原院ニ於テ其不法ナル一審判决ヲ看過セラレタルハ違法ナリト云フニ在レトモ◎移民保護法ニ所謂渡航ノ周旋トハ他人ノ渡航ニ關シ必要ノ手續ヲ爲ス行爲ヲ指稱シタルモノニシテ其手續ニハ種々アルヘシト雖モ苟クモ渡航手續ノ幾部ヲ行フニ於テハ其行ヒタル手續ノ如何ヲ問ハス同法第二十三條ノ罪ハ完成スルモノナルヲ以テ第一審判文上渡航ノ周旋ヲ爲シタル旨ヲ判示シアルニ於テハ特ニ如何ナル周旋行爲ヲ爲シタルカヲ判示セスト雖モ敢テ犯罪ノ成立ヲ妨クルモノニアラス故ニ原院ハ其周旋行爲ヲ詳示シタルニ拘ラス第一審判决ヲ取消サヽリシハ相當ノ措置ニシテ本論旨ハ理由ナシ』其第三點ハ原判决ヲ閲スルニ被告人ニ於テ所謂應募者ニ對シ布哇國ニ差遣スヘキ事ヲ請負ヒタル行爲即チ周旋行爲ナリト認メラレタリ然レトモ右ハ自己ノ常業ナル（但代理人トシテ）囘漕業ノ一部ニシテ决シテ移民保護法ノ無免許海外渡航ノ周旋ナリト云フヲ得ス然ルニ其正當ニ業務ヲ爲シタル被告人ニ對シ同法第二十三條ヲ適用セラレタルハ不法ナリト云フニ在レトモ◎原判决ニ依レハ被告ハ渡航者ヲ募集シ其應募者ニ對シ布哇國ニ差遣ハス可キコトヲ請負ヒ且ツ渡航ニ要スル出願等ノ手續ヲ引受ケ應募者ヨリ契約保證金ヲ徴集シタル事實ヲ認メ之ヲ以テ海外渡航ノ周旋行爲ナリト認メタルモノナリ本論旨ハ要スルニ原院カ認メタル事實ノ一部ヲ捕ヘ來テ渡航周旋ノ行爲ニアラスト論スルモノニシテ甚タ謂ハレナシ
右ノ理由ナルヲ以テ刑事訴訟法第二百八十五條ノ規定ニ從ヒ本件上告ハ之ヲ棄却ス
明治三十五年十一月二十八日大審院第一刑事部公廷ニ於テ檢事岩野新平立會宣告ス
