官吏侮辱ノ件
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大審院刑事判決録（刑録）7輯9巻30頁
明治三十四年れ第一一六二號
明治三十四年十月七日宣告
◎判决要旨
營林主事補ハ刑事訴訟法第四十七條ニ所謂林務官ナリ故ニ其森林ノ保護上司法警察官トシテ常ニ犯罪搜索ノ職權ヲ有ス
（參照）左ニ記載シタル官吏、公吏ハ檢事ノ補佐トシテ其指揮ヲ受ケ司法警察官トシテ犯罪ヲ搜索ス可シ」第五林務官（刑事訴訟法第四十＄七條第二項、第五號）
第一審 福島地方裁判所平支部
第二審 宮城控訴院
被告人 矢内猛夫 外一名
右官吏侮辱被告事件ニ付明治三十四年七月十三日宮城控訴院ニ於テ言渡シタル判决ニ對シ被告ハ上告ヲ爲シタリ大審院ニ於テ刑事訴訟法第二百八十三條ノ式ヲ履行シ判决スルコト左ノ如シ
上告趣意書ハ原判决ニ「千葉政右衛門ノ營林主事補タル職務ニ對シ云々侮辱シタルモノトス」云々トアリ其職務ニ對スル侮辱ノ事實トシテ列擧セラレタル个條ヲ視ルニ一モ營林主事補タル職務ニ對スルトスヘキモノナシ林區署官制第八條ニ「營林主事補ハ云々上官ノ指揮ヲ受ケ森林ノ保護ニ從事シ營林事務及森林調査ヲ分擔ス」トアリ而シテ被告等カ侮辱シタリトスル个條ハ一モ此職務ニ對スルモノニアラスシテ其職務外ナル犯罪搜査ニ關スル事柄ナリトス即チ被告袈裟造ハ森林竊盜ノ嫌疑ニ因リ營林主事補千葉政右衛門ノ取調ヲ受ケ云々トアレトモ營林主事補ハ犯罪搜査ノ職務ナキカ故ニ被告ヲ訊問スルハ已ニ違法ナルノミナラス縱令林務官ト雖モ檢事ノ指揮ナクシテ犯罪ヲ搜査スルノ權ナシ况ンヤ營林主事補ヲヤ今被告ノ發シタル侮辱ノ言語ナリトシテ原院ノ擧示シタルモノニ就テ之ヲ檢スルニ「七八圓ノ木葉官吏ニ愚圖々々云ハルヽコトハナイ云々」「我々ハ青天白日ノ身テアル處分ヲ着セルナラ着セテ見ロ云々」等都テ政右衛門カ被告ヲ森林竊盜被告人トシテ取調タル其所爲ニ對シテ發シタル言語擧動ニシテ營林主事補タル職務ニ對シタルモノニアラス然ルニ官吏侮辱ノ罪トシテ刑ノ言渡ヲ爲シタルハ全ク營林主事補タル職務ヲ誤解シタル不法ノ裁判ナリト信スト云フニ在レトモ◎營林主事補ノ刑事訴訟法第四十七條ノ所謂林務官ナルヲ以テ司法警察官トシテ其從事スル森林ノ保護上常ニ犯罪搜索ノ職權ヲ有ス而シテ原判决ノ認定スル所ニ依レハ被告等ハ富岡小林區署ニ於テ營林主事補千葉政右衛門ノ取調ヲ受ケ同列車ノ一室ニ同乘シ千葉君今日ハ御苦勞七八圓ノ木葉官吏ニ愚圖々々言ハルヽコトハナイ我々ハ青天白日ノ身テアル處分ヲ着セルナラ着セテ見ロアノ野郎毆殺セト云ヒ千葉政右衛門ノ營林主事補タル職務ニ關シ各目前ニ於テ侮辱シタルモノナレハ即チ原判决カ此事實ニ對シ營林主事補タル官吏ノ職務ニ對シ侮辱シタルモノトシテ處斷シタルハ相當ニシテ毫モ所論ノ如キ不法ナシ
右ノ理由ナルヲ以テ刑事訴訟法第二百八十五條ニ從ヒ本件上告ハ之ヲ棄却ス
明治三十四年十月七日大審院第一刑事部公廷ニ於テ檢事古賀廉造立會宣告ス
