放火ノ件
平易表示にする
大審院刑事判決録(刑録)7輯8巻9頁

明治三十四年れ第一〇九六號
明治三十四年十月二十日宣告

◎判决要旨

重懲役十二年ニ處スト言渡シタル第一審判决ヲ取消シ更ニ有期徒刑十二年ニ處スト言渡シタル裁判ハ刑期ニ差異ナシト雖モ一審判决ヲ變更シテ被告ノ不利益ニ歸シタルモノトス

第一審 岐阜地方裁判所
第二審 名古屋控訴院

被告人 永草桑次郎 
辯護人 武藤直中

右放火被告事件ニ付明治三十四年六月二十八日名古屋控訴院ニ於テ言渡シタル判决ニ對シ被告ヨリ上告ヲ爲シタリ因テ刑事訴訟法第二百八十三條ノ式ヲ履行シ判决スルコト左ノ如シ

辯護人武藤直中上告擴張書ノ趣旨ハ原裁判所ハ第一審裁判所ニ於テ認メタル事實ト同一ノ事實ヲ認メ第一審裁判所カ上告人ヲ重懲役ニ處斷シタルハ不當ナルヲ以テ之ヲ取消シ上告人ヲ有期徒刑ニ處斷シタリ而シテ第一審判决ニ誤アルハ明カナルモ如何セン本件控訴ハ被告人ノミカ提起セシ次第ナレハ刑事訴訟法二百六十五條ノ規定ニヨリ假令第一審判决ニ誤アルトスルモ被告ニ不利益ノ宣告ヲ許サヽル所ナリ然ルヲ原裁判ハ第一審ニ於テ重懲役ニ處シタル上告人ヲ第一審宣告ノ刑ヨリ一等重キ有期徒
刑ニ處シタルハ不法ノ裁判ナリト云フニ在リ◎因テ按スルニ第一審判决ニ於テハ被告ヲ重懲役十二年ニ處ストアリテ刑期ニ差異ナシト雖モ監獄則第一條ニ依レハ徒刑ニ處セラレタル者ハ集治監ニ拘禁セラレ懲役ニ處セラレタル者ハ地方監獄ニ拘禁セラルヽノ差異アルノミナラス刑法第五十九條ニ依レハ重懲役ハ十五年ニシテ期滿免除ヲ得スニ係ハサル有期徒刑ハ二十年ヲ經過セサレハ期滿免除ヲ得ルコト能ハス其他減刑ノ場合ニ於テ有期徒刑ヨリ一等ヲ減スレハ重懲役トナリ重懲役ヨリ一等ヲ減スレハ輕懲役トナルカ如ク有期徒刑ハ重懲役ニ比シテ刑ノ重キコトハ論ヲ俟タサル所ナルニ原院カ第一審ニ於テ被告ヲ重懲役ニ處シタルコトヲ判文ニ認メナカラ檢事ノ控訴及ヒ附帶控訴ナキニ係ハラス第一審判决ヲ取消シテ更ニ被告ヲ有期徒刑ニ處シタルハ即チ第一審判决ヲ被告ノ不利益ニ變更シタルモノニシテ上告ハ其理由アルモノトス已ニ此點ニ於テ原判决ノ全部ヲ破毀スル上ハ他ノ論旨ニ對シテハ別ニ説明ヲ爲スノ要ナシ
右ノ理由ナルヲ以テ刑事訴訟法第二百八十六條ニ從ヒ原判决ヲ破毀シ本件ヲ大阪控訴院ニ移ス
明治三十四年九月二十日於大審院第二刑事部公廷檢事奧宮正治立會宣告ス