明治三十四年れ第七六三號
明治三十四年五月三十一日宣告
◎判决要旨
裁判長差支アリテ署名捺印スル能ハサル場合ニ於テ其審判ニ干與シタル上席ノ判事代テ署名捺印シタル公判始末書ハ有效ナリ
（參照）公判始末書ハ判决言渡ヨリ三日内ニ之ヲ整頓シ裁判長及ヒ裁判所書記署名捺印ス可シ（刑事訴訟法第二＄百十條第一項）
右詐欺取財未遂被告事件ニ付明治三十四年四月二十四日長崎控訴院ニ於テ控訴棄却ヲ言渡シタル判决ニ對シ被告ヨリ上告ヲ爲シタリ因テ刑事訴訟法第二百八十三條ノ式ヲ履行シ判决スル左ノ如シ
被告ノ上告趣意書ハ第一本件被告事件ニ付第一審裁判所ヲ構成シタルハ裁判長判事北里貞之判事宮崎徳太郎及判事井上甚三郎ナルコトハ判决原本ニ依リ明カナリ然ルニ其公判始末書ニハ裁判長不在ニ付陪席判事宮崎徳太郎ト署名シ捺印シアリ是レ刑事訴訟法第二百十條ニ違反シタル不法ノ始末書ニシテ公判始末書ナキニ等シ何トナレハ同條ニ依リ公判始末書ハ裁判長ノ署名捺印ヲ必要トシ其二項ニ裁判長ハ署名捺印セサル以前ニ公判始末書ヲ檢閲シ若シ意見アルトキハ其紙尾ニ記載スヘシトアリ之レ公判ノ手續カ適法ニ實行セラレタルヤヲ確保スル爲メニ設ケラレタル規定ニシテ裁判長ノ職權ニ屬シ陪席判事ハ曾テ之等ノ權能ヲ與ヘラレタルコトナシ加之裁判長不在トアルモ同日作成シタル判决原本ニハ裁判長署名捺印シ居レハ此點ヨリ見レハ不當ナリ去レハ第二審判决ハ公判カ適法ニ行ハレタルコトヲ知ルヲ得サル不法ノ判决ナリ然ルニ原裁判ハ此不法ノ判决ヲ是認シ控訴ヲ棄却シタルモノナレハ刑事訴訟法第二百六十一條ノ適用ヲ誤リタル不法ノ判决ニシテ破毀セラルヘキモノナリト云フニ在レトモ◎其前段ニ付テハ刑事訴訟法第二百十條ハ裁判長差支アル場合ヲ豫想シタル規定ニ非サルヲ以テ本件ノ如ク裁判長差支アリテ署名捺印スル能ハサルトキハ其審判ニ干與シタル判事席次ノ順序ニ依リ上席ノ判事之ニ代リ署名捺印スルニ於テハ其公判始末書ノ正確ナルコトヲ認ムルニ十分ナルヲ以テ裁判長ノ署名捺印ナキモ敢テ不法トセス又其後段ニ付テハ判决原本ト公判始末書トハ同日附ナルモ苟同時刻ニ成立シタルニ非サル以上ハ判决原本ノ署名捺印ニ差支ナクシテ公判始末書ニ署名捺印スル場合ニ當リ差支ヲ生スルコトナシトセサレハ之亦以テ公判始末書ヲ不法ナリト云フヲ得ス故ニ原院カ控訴ヲ棄却シタルハ不法ニ非ス
第二原判决ハ大岡嘉一郎ノ證言ヲ斷罪ノ資料ニ供シタルモ同人ハ本件ノ詐欺取財ノ目的物ト稱セラルル玄米ニ付現ニ繋屬スル民事訴訟ノ當事者ナリ其訴ハ占有囘收ノ訴ナレハ第一審ニ於テ被告人ハ原告トナリ證人ハ被告ナレトモ被告人ノ勝訴トナリ證人ヨリ控訴中ナリ左レハ刑事訴訟法第百二十三條ニ所謂民事原告人ナリ只訴訟ノ形式ニ於テ占有囘收ノ訴ナルヲ以テ被告トナリタルモ同一ノ目的物ニ付爭ヒ居ル同一ノ當事者ナレハ之ヲ以テ同時ニ證人トナスコトハ法律ノ精神ニ於テ許サヽル所ナリ元來民事原告人ヲ證人ト爲スコトヲ許サヽルハ同時ニ同一ノ事柄ニ付一方ニ於テハ當事者タリ一方ニ於テハ證人タルコトハ危險ナルノミナラス正義ノ觀念ヨリ相容レサルヲ以テナリ左レハ宣誓セシメタル證人大岡嘉一郎ノ證言ヲ斷罪ノ證據ニ採用シタル原判决竝ニ第一審判决ハ共ニ不法ニシテ破毀ノ理由アルモノナリト云フニ在レトモ◎已ニ論旨ニ云ヘル如ク大岡嘉一郎ハ民事訴訟ノ被告人ニシテ原告人ニ非ス而シテ同人ヨリ控訴シタルカ爲メ原告人ト變スヘキモノニ非サルヲ以テ法律上證人タルノ資格ニ欠クル所ナケレハ原院カ同人ノ證言ヲ採用シタルハ不法ニアラス
第三ハ原裁判所カ認メタル事實ハ「云々手附金ト唱ヘ金五十圓ヲ嘉一郎ニ交付シ其他ノ代金ハ米穀ト引替ヘ交付スヘシト詐リ云々末郎ハ彌三郎ニ於テ代金ヲ受取リ來ルニ相違ナク且日沒ニモ近ツキタレハ米ヲ舟ニ積ミ込ミ居ルヘシト申向ケ嘉一郎ヲシテ右玄米ヲ船ニ積ミ込マシメ云々トアリ」其舟ニ米ヲ積込マシメタルハ任意ニ引渡ヲ爲シ即チ其時ニ詐欺取財罪カ成立シタルカ如キモ其後段ニハ「慰勞ト稱シ渡場附近ノ飮食店ニテ酒肴ヲ供シ置キ其隙ニ乘シ末郎ハ小蒸氣船大辻丸ヲ傭來リ米船ノ先輓ヲ爲サシメ繋船場ヨリ輓出シ右玄米百五十五俵ヲ一旦騙取シ了リタルモ間モナク嘉一郎等ニ覺知セラレ之ヲ取戻サレタリ」トアリ嘉一郎ノ隙ニ乘シ米舟ヲ輓キ出シタル時ニ騙取シタルカ如ク認メアルニモ拘ハラス隙ニ乘シテ嘉一郎等ノ意思ニ反シテ占有ヲ奪ヒタルカ如クアリ要スルニ原裁判ハ何時騙取罪ヲ終了セシヤ又ハ欺罔シテ騙取セシヤ又ハ其意ニ反シテ奪取セシヤヲ知ルヲ得サル理由ノ齟齬アル不法ノ裁判トスト云フニ在レトモ◎原判决ニ依レハ「被告彌三郎末郎ハ名ヲ賣買ニ假リ米穀ヲ騙取セント共謀シ云々大岡嘉一郎安田彌右衛門安田彌左衛門方ニ差越シ嘉一郎等ヨリ信用ヲ得ル爲メ末郎ハ小倉市醤油商丸柳支店ノ番頭ナリト詐ハリ彌三郎等ニ於テ嘉一郎等ニ對シ米穀買入レ度旨申欺キタル處同人カ承諾セシヲ以テ一俵代金四圓トシ嘉一郎ヨリハ玄米百俵彌右衛門ヨリハ同二十五俵彌左衛門ヨリハ同三十俵ヲ買受クルト詐ハリ手附金ト唱ヘ金五十圓ヲ嘉一郎ニ交付シ其他ノ代金ハ米穀ト引替ヘニ交付スヘシト詐ハリ翌十七日玄米百五十五俵ヲ同町大字同渡場ニ運搬セシメタリ而シテ彌三郎ハ代金ハ若松町住友銀行支店ヨリ約束手形ニ依リ之ヲ受取リ支拂フヘシト詐ハリ嘉一郎ノ倅壽吉ヲ同行シ若松町ニ立越タル後末郎ハ彌三郎ニ於テ代金ヲ受取リ來ルニ相違ナク且日沒ニ近ツキタレハ米ヲ舟ニ積ミ込ミ待チ居ルヘシト申向ケ嘉一郎ヲシテ右玄米ヲ船ニ積込マシメ嘉一郎等ニハ慰勞ト稱シ渡場附近ノ飮食店ニテ酒肴ヲ供シ置キ其隙ニ乘シ末郎ハ小蒸氣船大辻丸ヲ傭來リ米船ノ先輓ヲナサシメ繋舟場ヨリ輓キ出シ右玄米百五十五俵ヲ一旦騙取シ了リタルモ間モナク嘉一郎等ニ覺知セラレ之ヲ取戻サレタリ」トアリテ則チ被告ハ嘉一郎等ヲ欺キ米ヲ舟ニ積込マシメ之ヲ持去ラントシタル時犯罪ハ終了シタルモノニシテ又被告ハ嘉一郎等ノ意ニ反シ米ヲ奪取シタルニ非スシテ同人等ヲ欺キ之ヲ騙取シタルモノナルコト明カナレハ原判决ハ理由齟齬ノ不法ナシ
第四ハ證據説明ノ部ヘ大岡嘉一郎ノ證言ヲ引用シアリ其證言ニハ「云々米船ヲ繋キ引出サントスルヨリ末郎ハ代金ヲ支拂ハスシテ米ヲ渡スコトハ出來ヌト云ヒシニ云々」其他安田彌左衛門安田力松及關福松ノ證言ヲ引用シタルモ皆代金引換ニ米ヲ渡ス筈ナルニ引出シタリトアリ其記載ヲ綜合スルモ欺罔セラレ騙取セラレタリト何故ニ認メラルヽヤ證人全部ハ引渡ナシト云フニ之ヲ持行キタル所爲カ何故ニ詐欺取財ナルヤ他ノ犯罪ヲ構成スルコトハ格別詐欺取財ヲ構成スト云フハ理由不備ノ裁判ナリト云フニ在レトモ◎證據ノ判斷ハ原院ノ職權ニ屬ス而シテ本論旨ハ即チ原院ノ爲シタル證據ノ判斷ヲ非難スルニ外ナラサルヲ以テ上告ノ理由トナラス
第五ハ原裁判ハ裁判費用金九十錢ヲ被告兩名連帶負擔トスト言渡シタルハ不當ナリ何トナレハ被告ハ一罪ナルニ全部ヲ負擔セシメタルモノナレハ破毀セラルヘキモノト云フニ在レトモ◎第一審判决ニ明示シタル如ク本件ノ公訴裁判費用金九十錢ハ被告カ彌三郎ト共ニ犯シタル第二ノ罪ニ關スルモノナルヲ以テ原院カ被告及ヒ彌三郎ニ右費用ノ連帶負擔ヲ言渡シタル第一審判决ヲ是認シ被告ノ控訴ヲ棄却シタルハ不當ニアラス
右ノ理由ナルヲ以テ刑事訴訟法第二百八十五條ニ依リ本件上告ハ之ヲ棄却ス
明治三十四年五月三十一日大審院第二刑事部公廷ニ於テ檢事奧宮正治立會宣告ス
明治三十四年れ第七六三号
明治三十四年五月三十一日宣告
◎判決要旨
裁判長差支ありて署名捺印する能はざる場合に於て其審判に干与したる上席の判事代で署名捺印したる公判始末書は有効なり。
（参照）公判始末書は判決言渡より三日内に之を整頓し裁判長及び裁判所書記署名捺印す可し（刑事訴訟法第二＄百十条第一項）
右詐欺取財未遂被告事件に付、明治三十四年四月二十四日長崎控訴院に於て控訴棄却を言渡したる判決に対し被告より上告を為したり。
因で刑事訴訟法第二百八十三条の式を履行し判決する左の如し
被告の上告趣意書は第一本件被告事件に付、第一審裁判所を構成したるは裁判長判事北里貞之判事宮崎徳太郎及判事井上甚三郎なることは判決原本に依り明かなり。
然るに其公判始末書には裁判長不在に付、陪席判事宮崎徳太郎と署名し捺印しあり是れ刑事訴訟法第二百十条に違反したる不法の始末書にして公判始末書なきに等し何となれば同条に依り公判始末書は裁判長の署名捺印を必要とし其二項に裁判長は署名捺印せざる以前に公判始末書を検閲し若し意見あるときは其紙尾に記載すべしとあり之れ公判の手続が適法に実行せられたるやを確保する為めに設けられたる規定にして裁判長の職権に属し陪席判事は曽て之等の権能を与へられたることなし加之裁判長不在とあるも同日作成したる判決原本には裁判長署名捺印し居れば此点より見れば不当なり。
去れば第二審判決は公判が適法に行はれたることを知るを得ざる不法の判決なり。
然るに原裁判は此不法の判決を是認し控訴を棄却したるものなれば刑事訴訟法第二百六十一条の適用を誤りたる不法の判決にして破毀せらるべきものなりと云ふに在れども◎其前段に付ては刑事訴訟法第二百十条は裁判長差支ある場合を予想したる規定に非ざるを以て本件の如く裁判長差支ありて署名捺印する能はざるときは其審判に干与したる判事席次の順序に依り上席の判事之に代り署名捺印するに於ては其公判始末書の正確なることを認むるに十分なるを以て裁判長の署名捺印なきも敢て不法とせず又其後段に付ては判決原本と公判始末書とは同日附なるも苟同時刻に成立したるに非ざる以上は判決原本の署名捺印に差支なくして公判始末書に署名捺印する場合に当り差支を生ずることなしとせざれば之亦以て公判始末書を不法なりと云ふを得ず。
故に原院が控訴を棄却したるは不法に非ず
第二原判決は大岡嘉一郎の証言を断罪の資料に供したるも同人は本件の詐欺取財の目的物と称せらるる玄米に付、現に繋属する民事訴訟の当事者なり。
其訴は占有回収の訴なれば第一審に於て被告人は原告となり証人は被告なれども被告人の勝訴となり証人より控訴中なり。
左れば刑事訴訟法第百二十三条に所謂民事原告人なり。
只訴訟の形式に於て占有回収の訴なるを以て被告となりたるも同一の目的物に付、争ひ居る同一の当事者なれば之を以て同時に証人となすことは法律の精神に於て許さざる所なり。
元来民事原告人を証人と為すことを許さざるは同時に同一の事柄に付、一方に於ては当事者たり一方に於ては証人たることは危険なるのみならず正義の観念より相容れざるを以てなり。
左れば宣誓せしめたる証人大岡嘉一郎の証言を断罪の証拠に採用したる原判決並に第一審判決は共に不法にして破毀の理由あるものなりと云ふに在れども◎己に論旨に云へる如く大岡嘉一郎は民事訴訟の被告人にして原告人に非ず。
而して同人より控訴したるか為め原告人と変すべきものに非ざるを以て法律上証人たるの資格に欠くる所なければ原院が同人の証言を採用したるは不法にあらず。
第三は原裁判所が認めたる事実は「云云手附金と唱へ金五十円を嘉一郎に交付し其他の代金は米穀と引替へ交付すべしと詐り云云末郎は弥三郎に於て代金を受取り来るに相違なく、且、日没にも近つきたれば米を舟に積み込み居るべしと申向け嘉一郎をして右玄米を船に積み込ましめ云云とあり」其舟に米を積込ましめたるは任意に引渡を為し。
即ち其時に詐欺取財罪が成立したるが如きも其後段には「慰労と称し渡場附近の飲食店にて酒肴を供し置き其隙に乗し末郎は小蒸気船大辻丸を傭来り米船の先輓を為さしめ繋船場より輓出し右玄米百五十五俵を一旦騙取し了りたるも間もなく嘉一郎等に覚知せられ之を取戻されたり」とあり嘉一郎の隙に乗し米舟を輓き出したる時に騙取したるが如く認めあるにも拘はらず隙に乗して嘉一郎等の意思に反して占有を奪ひたるが如くあり要するに原裁判は何時騙取罪を終了せしや又は欺罔して騙取せしや又は其意に反して奪取せしやを知るを得ざる理由の齟齬ある不法の裁判とすと云ふに在れども◎原判決に依れば「被告弥三郎末郎は名を売買に仮り米穀を騙取せんと共謀し云云大岡嘉一郎安田弥右衛門安田弥左衛門方に差越し嘉一郎等より信用を得る為め末郎は小倉市醤油商丸柳支店の番頭なりと詐はり弥三郎等に於て嘉一郎等に対し米穀買入れ度旨申欺きたる処同人が承諾せしを以て一俵代金四円とし嘉一郎よりは玄米百俵弥右衛門よりは同二十五俵弥左衛門よりは同三十俵を買受くると詐はり手附金と唱へ金五十円を嘉一郎に交付し其他の代金は米穀と引替へに交付すべしと詐はり翌十七日玄米百五十五俵を同町大字同渡場に運搬せしめたり。
而して弥三郎は代金は若松町住友銀行支店より約束手形に依り之を受取り支払ふべしと詐はり嘉一郎の倅寿吉を同行し若松町に立越たる後末郎は弥三郎に於て代金を受取り来るに相違なく、且、日没に近つきたれば米を舟に積み込み待ち居るべしと申向け嘉一郎をして右玄米を船に積込ましめ嘉一郎等には慰労と称し渡場附近の飲食店にて酒肴を供し置き其隙に乗し末郎は小蒸気船大辻丸を傭来り米船の先輓をなさしめ繋舟場より輓き出し右玄米百五十五俵を一旦騙取し了りたるも間もなく嘉一郎等に覚知せられ之を取戻されたり」とありて則ち被告は嘉一郎等を欺き米を舟に積込ましめ之を持去らんとしたる時犯罪は終了したるものにして又被告は嘉一郎等の意に反し米を奪取したるに非ずして同人等を欺き之を騙取したるものなること明かなれば原判決は理由齟齬の不法なし。
第四は証拠説明の部へ大岡嘉一郎の証言を引用しあり其証言には「云云米船を繋き引出さんとするより末郎は代金を支払はずして米を渡すことは出来ぬと云ひしに云云」其他安田弥左衛門安田力松及関福松の証言を引用したるも皆代金引換に米を渡す筈なるに引出したりとあり其記載を綜合するも欺罔せられ騙取せられたりと何故に認めらるるや証人全部は引渡なしと云ふに之を持行きたる所為が何故に詐欺取財なるや他の犯罪を構成することは格別詐欺取財を構成すと云ふは理由不備の裁判なりと云ふに在れども◎証拠の判断は原院の職権に属す。
而して本論旨は。
即ち原院の為したる証拠の判断を非難するに外ならざるを以て上告の理由とならず
第五は原裁判は裁判費用金九十銭を被告両名連帯負担とすと言渡したるは不当なり。
何となれば被告は一罪なるに全部を負担せしめたるものなれば破毀せらるべきものと云ふに在れども◎第一審判決に明示したる如く本件の公訴裁判費用金九十銭は被告が弥三郎と共に犯したる第二の罪に関するものなるを以て原院が被告及び弥三郎に右費用の連帯負担を言渡したる第一審判決を是認し被告の控訴を棄却したるは不当にあらず。
右の理由なるを以て刑事訴訟法第二百八十五条に依り本件上告は之を棄却す
明治三十四年五月三十一日大審院第二刑事部公廷に於て検事奥宮正治立会宣告す
