誹毀ノ件
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大審院刑事判決録（刑録）7輯3巻34頁
明治三十四年れ第二四七號
明治三十四年三月十九日宣告
◎判决要旨
控訴裁判所ニ於テ控訴申立人出頭セサルトキハ直ニ闕席判决ヲ以テ控訴ヲ棄却スヘキモノトス而シテ事實ノ審理ハ勿論公訴消滅ノ關係ノ如キモ一切之ヲ審理スヘキモノニ非ス
（參照）控訴申立人出頭セサルトキハ闕席判决ヲ以テ控訴ヲ棄却シ相手方出頭セサルトキハ申立人ノ意見ヲ聽キ闕席判决ヲ爲ス可シ（刑事訴訟法第＄二百六十六條）誹毀罪ニ付キ判决確定前告訴ヲ取下ケタル事實明カナル以上ハ審級ノ如何ニ拘ハラス公訴權ハ當然消滅シタルモノトス
第一審 名古屋地方裁判所
第二審 名古屋控訴院
被告人 榎本熊次郎 外二名
右誹毀被告事件ニ付明治三十四年一月二十五日名古屋控訴院ニ於テ本件控訴ハ之ヲ棄却スト言渡シタル判决ニ對シ被告人ヨリ各上告ヲ爲シタリ因テ刑事訴訟法第二百八十三條ノ定式ヲ履行シ審理スル處上告趣意書ハ第二審判决ノ要旨ハ被告ハ公判開廷期日ニ出頭セサルニヨリ刑事訴訟法第二百六十六條ノ規定ニ基キ控訴棄却ノ判决ヲ與ヘラレタルニ外ナラスト信ス蓋シ該誹毀罪ノ如キハ被害者ノ告訴ヲ待テ起ルモノナレハ告訴人カ告訴ノ抛棄ヲ爲ストキハ公訴ノ消滅スルハ刑事訴訟法第六條第一項第二號ニ規定スル所ナリトス然レハ即曩キニ公訴審理中告訴人被告人間ニ於テ私和相調ヒ其結果告訴人平松儀左衛門ヨリ告訴ノ取下ヲ名古屋控訴院ニ爲シ同院之ヲ受理セラレタル以上ハ公訴ハ既ニ消滅シタルヤ明カナリトス然則當事者間私和後ナル一月二十五日ニ於テ公判ヲ開カルヽトキハ被告人對席タルト闕席タルヲ問ハス免訴ノ言渡アルヘキモノナルニ原裁判茲ニ出テスシテ控訴棄却ヲ言渡タルハ到底違法タルヲ免カレサルモノト考量スト云フニ在レトモ◎控訴申立人出頭セサルトキハ闕席判决ヲ以テ控訴ヲ棄却スヘシトハ刑事訴訟法第二百六十六條ノ規定スル所ニシテ他ニ例外ノ規定ナキヲ以テ苟モ控訴申立人出頭セサルトキハ控訴裁判所ニ於テハ控訴ノ理由アリヤ否ヲ審理スルヲ須スシテ常ニ控訴ヲ棄却スヘキモノナレハ本案事實ノ審理ヲ爲スヘカラサルハ勿論公訴ノ消滅シタルヤ否ニ付テモ亦之レカ審理ヲ爲スヘキモノニアラサルナリ故ニ本件控訴申立人タル被告等カ出頭セサリシテ以テ原院カ同條ニ依リ本件控訴ヲ棄却シタルハ相當ノ判决ニシテ不法ナリト云フ可カラス然レトモ本院ニ於テ訴訟記録ヲ査閲スルニ本件ハ被告等カ平林儀左衛門ヲ誹毀シタルカ爲メ同人ヨリ告訴ヲ爲シタル被告事件ナルニ右被害者タル儀左衛門ニ於テ判决確定前告訴ヲ取下ケ爲メニ公訴權消滅シタルコト明カナルヲ以テ原判决ハ之ヲ破毀セサルヲ得ス
右ノ理由ナルヲ以テ刑事訴訟法第二百八十七條ニ依リ原判决ヲ破毀シ本院ニ於テ直ニ判决スルコト左ノ如シ
右
榎本熊次郎
眞鍋槇太郎
有本久悌
刑事訴訟法第二百二十四條ニ依リ被告熊次郎槇太郎久悌ヲ免訴ス
明治三十四年三月十九日大審院第二刑事部公廷ニ於テ檢事奧宮正治立會宣告ス
