故殺未遂ノ件

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大審院刑事判決録（刑録）6輯6巻29頁

上告趣意ハ第一被告ハ精神錯亂ノ結果本件ノ所爲ヲ爲シタルモノナレハ法律上毫モ其責任ナキモノナリ故ニ原院ニ於テ辯護人ヨリ此事實ヲ證セン爲メ醫師ノ鑑定ヲ請求シタルニ謂ハレナク之ヲ排斥シ有罪ノ判决ヲ與ヘラレタルハ不法ナリ第二假リニ被告ニ其罪アリトスルモ殺意ヲ以テ爲シタルモノニアラス然ルニ何等ノ確證ナキニモ拘ハラス殺意アリタルモノト認定シ故殺未遂ヲ以テ論セラレタルハ不當ナリト云フニ在レトモ◎鑑定人ノ必要ト否ヲ甄別シテ其喚問申請ヲ許否スルハ原院ノ職權ニ屬シ他ヨリ批難スルヲ得ス又原院カ認メタル事實ニ對スル證據ハ判文ニ明示シアレハ本論旨ハ畢竟原院ノ職權ニ屬スル事實ノ認定採證ノ當否ヲ批難スルニ過キサルヲ以テ上告ノ理由トナラス

辯護士擴張書第一點ハ酌量減刑ナルモノハ各本條ニ定ムル所ノ刑ヨリ從犯未遂其他法律上ノ減等ヲナスモ尚其刑重キ場合ニ於テハ減刑ヲナスモノナレハ本件テツニ對スル刑ヲ酌量減刑ヲナスニハ須ラク法律上ノ最下限即チ未遂ニヨリ二等ヲ減シ而シテ後減刑スヘキ筈ナルニ單ニ一等ノミ減シタル刑ヨリ酌量減刑セラレタルハ法律ヲ不當ニ適用シタル違法ノ裁判ナリト云フニ在レトモ◎未遂ニ付一等若クハ二等ヲ減刑スルハ其未遂ノ程度如何ニ依ルヘキモノニシテ犯情ノ輕重ヲ以テ之カ標準ト爲スヘキニアラス故ニ原院カ未遂減刑ハ之レヲ一等ニ止メ更ニ犯情ヲ酌量シテ尚ホ一等ヲ減シタルモ不法ニアラス』第二點ハ本件第一審判决ハ公廷ニ於テ被告ニ示シ辯解セシメタルコトナキ木槌ヲ證據トナシタル違法ノ點アルニ原院ニ於テコレヲ取消サス第一審判决ヲ認可シ控訴ヲ棄却セラレタルハ亦違法ノ裁判ナリト云フニ在レトモ◎原院ニ於テ完全ノ手續ヲ盡シ審判シタル上ハ第一審審理手續ノ當否ヲ論爭シテ上告ノ理由ト爲スヲ得サルモノナルヲ以テ本論旨ハ不相立

右ノ理由ニ依リ刑事訴訟法第二百八十五條ニ從ヒ本件上告ハ之ヲ棄却ス

明治三十三年六月二十五日大審院第二刑事部公廷ニ於テ檢事小宮三保松立會宣告ス