監守盜ノ件
平易表示にする
大審院刑事判決録（刑録）6輯2巻18頁
明治三十三年れ第三八號
明治三十三年二月八日宣告
◎判决要旨
村長ニシテ職務上監守スル金圓ヲ竊取シタルトキハ監守盜罪ヲ構成ス
第一審 水戸地方裁判所
第二審 東京控訴院
被告人 大塚功三
辯護人 馬渡俊猷
右功三ニ對スル監守盜被告事件ニ付明治三十二年十二月二十六日東京控訴院ニ於テ原判决ハ之ヲ取消ス被告大塚功三ヲ輕懲役八年ニ處ス押收書類ハ各差出人ニ還付ス公訴裁判費用ハ全部被告兩名ノ負擔トスル旨ヲ言渡シタル判决ニ對シ被告功三ハ上告ヲ爲シタリ因テ刑事訴訟法第二百八十三條ノ式ヲ履行シ判决スル左ノ如シ
上告趣意書ハ自分カ茨城縣鹿島郡中島村長奉職中自村ニ對スル明治二十九年度水害地々租特別免除金ヲ明治三十二年七月十五日鉾田支金庫ヨリ受取該金圓ヲ同月十九日ヨリ同廿五日迄ノ間ニ於テ費消シタリトノ犯罪ニ對シ原院カ監守盜ヲ以テ罰シタルハ頗ル失當ノ裁判ナリト云ハサルヲ得ス何トナレハ村長ハ普通官吏公吏ト異リ人民直接ノ選擧ニ係ルモノニシテ則チ人民ノ代表者ナリ其代表者タル村長カ國庫ヨリ人民ヘ下戻サレタル免除金ヲ費消シタルモノナレハ决シテ監守盜ヲ以テ罰スヘキモノニ非スト信ス是等ハ委託金費消罪トシテ罰スルヲ相當ナリトスト云フニ在レトモ◎村長ハ公民ヨリ選擧セラレ府縣知事ノ認可ヲ得テ就職シ其村ヲ統轄シ其行政事務ヲ擔任スル者ナレハ其公吏タルコト無論ナリ而シテ被告ハ村長ノ職務上監守スル金額ヲ竊取シタル事實ナレハ原院カ監守盜ヲ以テ處罰シタルハ相當ナリトス
辯護人馬渡俊猷ノ擴張書ハ原判决ヲ按スルニ「同月十六日云々被告兩名ハ斯ニ前記水害免租下戻金ヲ不正ニ領得センコトヲ謀リ之ヲ竊取シ而シテ同日以後同月二十五日頃迄ノ間ニ於テ被告龍ハ該金額ノ内ヨリ金百五十圓ヲ被告功三ヘ貸付ケタル元利金トシテ受取リ金八百圓ハ被告功三名義ニテ東海銀行ニ預ケ入レ之ヲ引出シ悉皆被告兩名ニ於テ之ヲ費消シタルモノト認定ス」トアリ由是觀之本案ノ犯罪ハ一面ハ同月十六日則チ明治三十一年七月十六日ニ於テ成立シタルモノト認定シ一面ハ七月十六日以後同月二十五日頃マテノ間ニ於テ成立シタルモノト認定セリ况ンヤ竊取又ハ費消ノ文字アルニ依レハ本案ノ犯罪ハ監守盜ナルヤ復タ委託金費消ナルヤヲ知ルニ用ナキニ於テヲヤ果シテ然ラハ原判决ハ理由ノ齟齬スルモノト云ハサルヲ得ス右ノ理由ナルヲ以テ原判决ヲ破毀セラレ相當ノ判决アランコトヲ冀望スト云フニ在レトモ◎原判决ニ依レハ被告ハ地租特別免除金ヲ村民ニ配付センカ爲メ村長資格ヲ以テ領收シ明治三十一年七月十六日該金ヲ竊取シタル事實ナレハ其監守盜罪タルヤ固ヨリ明瞭ナリ而シテ同日以後同月二十五日頃マテノ間ニ於テ被告龍ト共ニ之ヲ費消シタリトノ事ハ畢竟犯罪後ノ行爲ヲ詳説シタルニ過キサルヲ以テ原判决ハ毫モ理由ノ齟齬ナキモノトス
右ノ理由ナルヲ以テ刑事訴訟法第二百八十五條ニ依リ本件上告ハ之ヲ棄却ス
明治三十三年二月八日大審院第二刑事部公廷ニ於テ檢事古賀廉造立會宣告ス
