水利妨害ノ件

平易表示にする 原文表示にする

大審院刑事判決録（刑録）5輯11巻31頁

辯護人高木益太郎辯明書ノ第一ハ上告人ノ所爲ハ自己ノ土地ヲ堀鑿シタルニ過キス而シテ其土地所有權ハ當然地上地下ニ及フモノナレハ縱令其地下ニ存スル告訴人ノ水管ヲ破壞シタリトスルモ其水管ハ果シテ如何ナル原因ニ基キ上告人ノ地内ニ存在スルヤ又上告人ハ其水管ヲ通過セシムルノ義務アルヤ否ヤヲ審明セサルヘカラス然ルニ原判决カ此點ノ辯明ヲ欠キタルハ乃チ理由不備ノ裁判ナリト云フニ在リ◎依テ審按スルニ刑法第四百十三條ノ罪ヲ構成スルニハ水ノ使用ニ付他人ノ有スル權利ヲ妨害スルノ事實アルヲ要ス故ニ若シ他人カ其權利ナクシテ擅ニ水ヲ使用スルニ當リ自己ノ權利ヲ行使シタル結果其使用ヲ妨クルコトアルモ固ヨリ同條ノ罪アルモノト云フヘカラス然ルニ原判决ニ於テ本件水ノ使用者タル住友兵藏外數名カ被告富太郎ノ所有地下ニ水管ヲ敷設シテ流水ヲ引用スルハ果シテ其權利ニ基ク所爲ニシテ被告富太郎ハ其所有地ヲ同人等ニ使用セシムル義務アル事實ヲ認メタルコトナキニ拘ハラス被告兩名カ右水管ヲ破壞シテ其水ヲ富太郎ノ井戸ニ注キタル所爲ヲ以テ直チニ同人等ノ水利ヲ妨害シタリト爲シ前掲法條ヲ適用處斷シタルハ論旨ノ如ク理由不備ノ判决ニシテ破毀ヲ兔レサルモノトス既ニ此點ヲ以テ原判决ヲ破毀スヘキモノト認ムル以上ハ他ノ上告論旨ニ對シ一々説明ヲ與フルノ要ナシ

右ノ理由ナルヲ以テ刑事訴訟法第二百八十六條ニ依リ原判决ヲ破毀シ本件ヲ廣島控訴院ニ移ス

明治三十二年十二月十五日大審院第二刑事部公廷ニ於テ檢事岩野新平立會宣告ス