私書僞造行使等ノ件
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大審院刑事判決録（刑録）5輯9巻63頁
明治三十二年第一〇三六號
明治三十二年十月二十日宣告
◎判决要旨
印影ヲ僞造證書ニ押捺シテ行使シタルトキハ其印顆ハ犯罪ノ用ニ供シタル物件ナリ
第一審 安濃津地方裁判所
第二審 名古屋控訴院
被告人 坂杢次郎 福森豊次郎 川崎清太郎
右杢次郎清太郎ニ對スル私書僞造行使詐欺取財被告事件ニ付キ明治三十二年七月三十一日名古屋控訴院ニ於テ第一審判决ヲ取消ス被告杢次郎豊次郎ヲ各重禁錮一年罰金十圓監視六月被告清太郎ヲ重禁錮一年六月罰金十五圓監視六月ニ處ス押收物中僞造ノ地所買受約定證書一通及ヒ犯罪供用捺印一個ハ官ニ沒收シ其他ハ總テ各差出人ニ還付ス公訴ニ關スル訴訟費用金五圓八十錢ハ被告三名ノ連帶負擔トスト言渡シタル判决ヲ不法トシ被告三名ヨリ上告ヲ爲シタリ依テ刑事訴訟法第二百八十三條ノ定式ヲ履行シ審判スル如左
杢次郎清太郎上告趣意ハ原判决ノ理由中ニ（前略）若シ違約ノ節ハ手附金ヲ沒收ス可キ旨ノ契約ヲ爲シ云々トアル契約ハ口約ナルヤ將タ證書ヲ以テ爲シタルヤ之レヲ明示セサルハ理由不備ナリト云ヒ」尚ホ清次郎ノ上告趣意ハ原判决ハ事實ニ相違スルモノナリト云フニ在レトモ◎其契約ノ口約ナルト書面ヲ以テ爲シタルトハ毫モ犯罪成立ニ影響ナキコトナルヲ以テ之ヲ明示スルノ必要ナキモノナリ他ハ事實認定ノ批難ナルヲ以テ共ニ上告理由トナラス
豐次郎ノ上告趣意書ハ縷々陳辯スル所アルモ結局被告カ本件ノ共謀者ニアラサルコトハ記録ニ明カナルニ原院カ果シテ共謀シタリトノ證據ヲ明示セスシテ有罪ノ判决ヲ與ヘラレタルハ不法ナリト云フニアレトモ◎被告カ本件共謀中ノモノナル事實ニ對スル證據ハ判决ニ明示シアルヲ以テ原判决ハ不法ニアラス
被告三名辯護士上告趣意辯明書ハ本件沒收ニ係ル檢印ハ僞造證書ニ押用シタルニ止マリ其行爲ニ直接供用セラレタルモノニアラサレハ原院カ之レヲ刑法第四十三條第二號ニ依リ犯罪供用ノ物件トシテ沒收シタルハ違法ノ裁判ナリト云フニ在レトモ◎印顆ハ印影ノ實體ナルヲ以テ印顆ヲ僞造證書ニ押捺シテ其證書ヲ行使シタル上ハ則チ其印顆モ犯罪供用ノモノナルコト勿論ナルヲ以テ原判决ハ不法ニアラス
右ノ理由ニ依リ刑事訴訟法第二百八十五條ニ從ヒ本件上告ハ之ヲ棄却ス
明治三十二年十月二十日大審院第二刑事部公廷ニ於テ檢事奧宮正治立會宣告ス
