竊盜ノ件
平易表示にする
大審院刑事判決録（刑録）5輯5巻39頁
明治三十二年第五三五號
明治三十二年五月十二日宣告
◎判决要旨
鐵道停車塲構内ノ待合所ニ於テ他人ノ所有物ヲ竊取シタル所爲ハ屋外竊盜ニ非ス
第一審 大阪地方裁判所
第二審 大阪控訴院
被告人 長澤熊次郎
右熊次郎ニ對スル竊盜被告事件ニ付明治三十二年四月四日大阪控訴院ニ於テ言渡タル判决ヲ不法トシ被告ヨリ上告ヲ爲シタリ因テ刑事訴訟法第二百八十三條ノ定式ヲ履行シ判决スル事左ノ如シ
上告趣意書ハ原判决ハ法律ニ違背シタル不法ノ裁判ナリ其詳細ノ理由ハ擴張書ヲ以テ辯明スヘシト云ヒ」其停張書第一點ハ被告ハ被害者西村定圓ノ携ヘタル革盤ノ口ヲ開キ其在中セル鰐口錢入ヲ竊取セント企テ之ニ着手スル際覺知セラレ其儘取押ヘラレタルモノナレハ竊盜未遂ノ犯罪ナルニ原院カ之ヲ既遂トナシタルハ不當ニ事實ヲ確定シタル者ナリト云フニアレトモ◎原院ハ判文ニ明示スル各證據ニ依リ被告ノ既ニ竊取シ終リタル事實ヲ認メタルモノナレハ其認定ヲ批難シテ上告ノ理由ト爲ス事ヲ得ス』第二點ハ本件犯罪ノ塲所ハ鐵道停車塲構内待合所ナレハ芝居小屋若クハ寄席等ト同シク多數人民ノ群集スル公然ノ塲處ニシテ大道ト差別アル事ナキヲ以テ之ヲ屋外竊盜トナサヽルヘカラサルニ原院ニ於テ刑法第三百六十六條ヲ以テ處斷シタルハ不法ナリト云フニアレトモ◎本件鐵道停車塲構内ニアル待合所ハ建造物ニシテ明治二十三年法律第九十九號第一條家屋其他ノ建造物外云々トアルニ該當セサル事論ヲ俟タス故ニ原院カ刑法第三百六十六條ヲ適用シテ處斷シタルハ相當ニシテ不法ニアラス
右理由ニヨリ刑事訴訟法第二百八十五條ニ從ヒ本件上告ハ之ヲ棄却ス
明治三十二年五月十二日大審院第二刑事部公廷ニ於テ檢事岩野新平立會宣告ス
