公吏侮辱ノ件
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大審院刑事判決録（刑録）5輯3巻108頁
明治三十二年第二五八號
明治三十二年三月二十日宣告
◎判决要旨
町村助役ニシテ町村制第三十九條ノ規定ニ基キ村會議長ノ職務執行中之ヲ侮辱シタル所爲ハ公吏侮辱罪ヲ構成ス
（參照）町村會ハ町村長ヲ以テ其議長トス若シ町村長故障アルトキハ其代理タル町村助役ヲ以テ之ニ充ツ（町村制第＄三十九條）
第一審 長崎地方裁判所
第二審 長崎控訴院
被告人 南部茂助
右公吏侮辱被告事件ニ付長崎控訴院ニ於テ言渡シタル判决ニ對シ同院檢事長松室致ヨリ上告ヲ爲シタルニ依リ刑事訴訟法第二百八十三條ノ式ヲ履行シ審判スルコト左ノ如シ
上告趣意ノ第一ハ町村制ニ依レハ町村會ノ議長ハ町村長ノ職務ニシテ若シ町村長差支アルトキハ其助役ヲ以テ之ニ充ルヲ通則トシ議長代理者共ニ故障アルトキ年長ノ議員ヲ以テ議長ト爲スヲ除外例トス故ニ名ハ同ク村會議長ナルモ町村長又ハ助役ノ議長タル塲合ト年長議員ノ議長タル塲合トハ全ク其資格ヲ異ニスルモノニシテ前者ハ公吏タルカユヘ議長席ニ就キタル爲メニ忽チ公吏タルノ資格ヲ失フモノニアラス而シテ後者ハ村會議員ニシテ議長ノ職務ヲ履行スルニ過キサレハ其資格依然議員タルコト勿論ナリ故ニ此兩者ヲ區別セス漫然村會議長ハ公吏ニアラスト斷言スルハ法律ノ誤解ニ外ナラスト云フニ在リ◎依テ審按スルニ町村制第三十九條ニ「町村會ハ町村長ヲ以テ其議長トス若シ町村長故障アルトキハ其代理タル町村助役ヲ以テ之ニ充ツ」トノ規定アリテ町村長若クハ町村助役ノ議長トナルハ其職務當行ノコトナレハ本件議長ハ公吏タルコト勿論ナ握而シテ本件町村助役タル野田甚三郎カ村會議長ノ職務執行中被告カ同人ヲ侮辱シタルハ即チ公吏侮辱罪ヲ構成スヘキコトハ辯ヲ俟タサルナリ然ルニ原院ニ於テ被告ノ所爲ヲ罪トナラサルモノトシ無罪ノ言渡シヲ爲シタルハ上告論旨ノ如ク擬律錯誤ノ裁判タルヲ免カレス
右ノ理由ニ付刑事訴訟法第二百八十七條ニ從ヒ原判决擬律ノ部分ヲ破毀シ本院ニ於テ直ニ判决スルコト左ノ如シ
南部茂助
原院ノ認メタル事實ニ依リ之レヲ法律ニ照スニ被告ノ所爲ハ明治二十三年法律第百號刑法第百四十一條ニ依リ處斷スヘク押收ノ召集状ハ刑事訴訟法第二百二條ニ從ヒ被告ニ還付スヘキモノトス依テ被告ヲ重禁錮一月罰金五圓ニ處シ押收ノ召集状ハ被告ヘ還付ス
明治三十二年三月二十日大審院第一刑事部公廷ニ於テ檢事小宮三保松立會宣告ス
