強盜傷人ノ件
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大審院刑事判決録（刑録）5輯2巻113頁
明治三十二年第一三八號
明治三十二年二月二十七日宣告
◎判决要旨
強盜ニシテ人ヲ傷ケタル以上ハ財物ヲ得ルト否トニ拘ハラス強盜傷人罪（刑法第三百八十條）ヲ構成ス
（參照）強盜人ヲ傷シタル者ハ無期徒刑ニ處シ死ニ致シタル者ハ死刑ニ處ス（刑法第三＄百八十條）
第一審 浦和地方裁判所
第二審 東京控訴院
被告人 船川雛五郎
辯護人 石川芳太郎
右強盜傷人被告事件ニ付明治三十二年一月三十一日東京控訴院ニ於テ言渡シタル判决ヲ不當トシ被告ハ上告ヲ爲シタリ大審院ニ於テ刑事訴訟法第二百八十三條ノ定式ヲ履行シ判决スル左ノ如シ
上告趣旨ハ本件被害者江黒幸五郎宅ト被告ノ宅トハ僅ニ十二三間ヲ距ツルノミニシテ極近接ニシテ且ツ平常知己ナレハ如何ニ被告カ強慾ナレハトテ強盜ニ押入ルヘキ理由ナシ又被告カ被害ノ當夜午後九時半頃歸宅シ直ニ寢ニ就キタルコトハ兄嫁イネモ承知セリ又被害者江黒幸五郎ハ深谷警察署ニ於テ犯人ハ誰タルヲ認識セサノミナラス常ニ言語ヲ往來シ居ル被告ノ聲トハ違ヒ居リタリト申述ヘ居リ然ルニ第一審第二審共採ルニ足ラサル薄弱ノ證據物件ト前科アルノ故ヲ以テ有罪ノ判斷ヲ爲シタルハ不當ナリト云フニアレトモ◎是唯原承審官ノ職權ニ屬スル事實ノ認定證據ノ取捨ヲ批難スルニ過キサルヲ以テ上告適法ノ理由トナラス
辯護人石川芳太郎擴張書第一點ノ趣旨ハ被害者江黒幸五郎ハ盲目ニシテ五體不具ノモノナルコトハ檢證調書ニ依リ明カナリ然ルニ原判文ニ此事實ヲ掲ケサルハ刑事訴訟法第二百三條ニ違背シタルモノナリト云フニアレトモ◎被害者ノ盲目ナルト否トハ更ニ本件被告ノ犯罪構成ニ影響ナキヲ以テ之ヲ明記スルノ要ナキモノトス
同第二點ハ本犯ハ強盜未遂ナルコトハ原判决ノ認ムル所ナリ然ルニ原院カ刑法第三百八十條ヲ適用シタルハ擬律ノ錯誤ナリト云フニアレトモ◎強盜人ヲ傷シタル者ハ財ヲ得ルト否トニ關セス刑法第三百八十條ヲ適用スヘキハ當然ナルヲ以テ本論旨ハ上告ノ理由トナラス
右ノ理由ナルニヨリ刑事訴訟法第二百八十五條ニ從ヒ本件上告ハ之ヲ棄却ス
明治三十二年二月二十七日大審院第一刑事部公廷ニ於テ檢事小宮三保松立會宣告ス
