誣告及僞證教唆ノ件
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大審院刑事判決録（刑録）5輯2巻77頁
明治三十二年第六〇號
明治三十二年二月十四日宣告
◎判决要旨
告訴状ト題スル書面ヲ以テ告發スルモ其書面ハ無效ニ非ス
第一審 大阪地方裁判所
第二審 大阪控訴院
被告人 田原勇太郎
右勇太郎カ誣告及ヒ僞證教唆被告事件ニ付明治三十一年十二月二十六日大阪控訴院ニ於テ言渡タル判决ニ對シ被告ヨリ上告ヲ爲シタリ因テ刑事訴訟法第二百八十三條ノ式ヲ履行シ判决スル左ノ如シ
被告ノ上告趣意第一點ハ原判决事實摘示ノ部ニ（前畧）被告ハ同月十四日午後二時頃野田紡績會社ニ至リ和吉ニ面會ノ上歸社ノコトヲ勸告シタルニ云々トアルモ被告ハ曾テ中村長八ト同行シ右會社ニ行キタル事ナク又自分一人ニテモ右記載事實ノ如キ趣旨ヲ以テ同會社ニ到リタル事實ナシ從テ證人ノ證言其他此事實ヲ確定ス可キ記載ハ一件記録中之レアルナシ然ルニ原院ニ於テ前記ノ如ク事實ヲ確定シタルハ不法タルヲ免カレスト云フニ在レトモ◎右ハ原院ノ職權ニ屬スル事實ノ認定證據ノ採擇ヲ非難スルニ過キサルヲ以テ上告ノ理由トナラス
其第二點ハ原判决事實摘示中（前畧）右和吉ハ云々眞鍋熊吉ヨリ唐縮緬八尺六寸ヲ拙者（被告ヲ指ス）ノ名義ヲ以テ騙取シタルモノナリトノ不實ノ事柄ヲ記載シタル云々告訴状ヲ大阪府北傳法警察署野中分署ニ提出シ以テ和吉ヲ誣告シタルモノトストアリ右和吉カ被告ノ名義ヲ以テ熊吉ヨリ騙取シタル事實之アリト假定スルモ其騙取セラレタルハ熊吉ニシテ被告ニ非ス故ニ被告ハ此事實ニ對シ告發ヲ爲シ得ヘキモ告訴ヲ爲シ得ヘキニアラス從テ該告訴状ハ法律上無效ノモノナリ然ルニ原院カ之ヲ有效視シタルハ違法ナリト云フニ在レトモ◎告發ヲ爲ス可キ塲合ニ告訴状トシテ提出スルモ爲メニ其書面ノ無效トナル可キモノニアラス而シテ告訴ト告發トニ論ナク不實ノ事ヲ以テ人ヲ誣告スルトキハ誣告罪ヲ構成スルヲ以テ本論旨ハ其理由ナシ
其第三點ハ前項ニ掲ケタル原判文摘示ノ如ク被告ハ告訴状ヲ北傳法警察署野中分署ニ提出シタリトノミアリテ果シテ告訴ヲ受理シ得ヘキ司法警察官ニ對シ之ヲ爲シタルモノナリヤ否ヤヲ明示セス故ニ原判决ハ不法ナリト云フニ在レトモ◎警察署ハ行政司法警察事務ヲ司トル官署ナルヲ以テ固ヨリ告訴告發ヲ受理スヘキ所ナリ故ニ原判决ニ特ニ司法警察官ト云ハサルモ不法ニアラス
右ノ理由ナルヲ以テ刑事訴訟法第二百八十五條ニ從ヒ本件上告ハ之ヲ棄却ス
明治三十二年二月十四日大審院第二刑事部公廷ニ於テ檢事小宮三保松立會宣告ス
