公文書僞造行使ノ件
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大審院刑事判決録（刑録）4輯10巻11頁
明治三十一年第七八二號
明治三十一年十一月一日宣告
◎判决要旨
他人ノ前科ヲ隱蔽スル爲メ送籍状附屬調書ニ前科ナキ旨ヲ記入シテ他ノ市役所ヘ送付シタル所爲ハ公文書僞造行使罪ヲ構成ス
第一審 名古屋地方裁判所
第二審 名古屋控訴院
被告人 村上義坤
右公文書僞造行使被告事件ニ付明治三十一年六月二十二日名古屋控訴院ニ於テ言渡タル判决ニ對シ被告ヨリ上告ヲ爲シタリ依テ刑事訴訟法第二百八十三條ノ式ヲ履行シ審判スルコト左ノ如シ
上告趣旨ノ第一ハ原院ニ於テ有罪ト認定セラレタル第一乃至第十二ノ戸籍事務ハ町長ノ命令ニ依リ被告カ役塲ノ書記トシテ當然ノ職務ヲ盡シタルニ過キサルナリ然ルニ原院カ之ヲ犯罪行爲ナリト認メラレタルハ事實ヲ不當ニ確認セシ不法アルノミナラス一件記録中毫モ其徴憑タニナキニ相被告タリシ安達久平ヨリ幾分ノ利益ヲ受クルコトヲ約シタリト認メラレタルハ全ク虚無ノ事柄ヲ不法ニ認定サレタルモノナリト云フニ在リテ◎原院ノ職權ニ存スル事實ノ認定ヲ批難スルニ過キサルモノナレハ適法上告ノ理由トナルヘキモノニ非ス』其第二ハ原判决
第十一及ヒ第十二ノ所爲ニ於ケル附屬調書ナルモノハ豫テ印刷ニ付シ同役塲ニ備附アル用紙ナレハ之ヲ送籍状ニ添附セシトテ以テ公文書僞造ノ律ニ擬セラルヘキ理由ナシト云フニ在レトモ◎原院ノ認メタル事實ニ依レハ被告ハ林スヱ林キヌノ前科ヲ隱蔽シ備用ノ用紙ニ前科ナキ旨ヲ記入シ之ニ役塲印ヲ盜捺シ送籍状附屬調書ナルモノヲ僞造シ之レヲ他ノ市役所ヘ送付シタルモノナレハ公文書僞造行使罪ヲ構成スヘキハ言ヲ俟タサルナリ故ニ原判决ハ擬律ノ錯誤ナシ』其第三ハ原判文ニ依レハ第九第十ノ原簿ノ變造及ヒ送籍状ノ僞造（之ヲ合セテ一罪トナス）ト法律ノ理由ヲ付セラレタルモ凡ソ文書ノ變造ト僞造トハ全ク別個ノ所爲ニシテ其罪責モ異ナル所ノモノナルニ原院カ漫然之ヲ一罪トスト判示セラレタルハ不法ナリト云フニ在リテ◎要ハ二罪タルヘキモノヲ一罪ト判示シタルハ不法ナリト云フニ歸ス然レトモ本論旨ハ被告ノ利益ニ反スルモノナレハ適法上告ノ理由トナルヘキモノニアラス』其第四ハ被告ハ一宮町ノ書記タリシト雖モ單ニ町長ヨリ任用セラレタルモノナレハ適法ナル町ノ附屬ニ非スシテ公吏タラサルコト明カナルニ被告ニ對シ刑法第二百五條ヲ適用セラレタルハ不法ノ判决ナリト云フニ在レトモ◎原院ニ於テ被告ハ一宮町役塲ニ書記ヲ奉職シ云々トノ事實ヲ認メ而シテ町村ノ書記ハ町村長ノ推薦ニ依リ町村會之レヲ選任スヘキコトハ町村制第六十三條第二項ニ規定スル處ナレハ被告ハ此規定ニ違ヒ町長ヨリ任用セラレタルモノナリト云フヲ以テ公吏ニ非スト論爭スルヲ得ス』其第五ハ被告ハ單ニ町長ノ命令ニ依リ筆記ノ任ノミニ當リシノミナラス戸籍事務ノ如キハ助役ニ分任スルヲ得ヘキ外决シテ他ノ附屬員ニ分任スルヲ得ヘカラサルコトハ町村制ノ規定ニ依リ明カナルカ故ニ假リニ被告ハ一宮町ノ附屬員ナリトスルモ戸籍事務ヲ擔任シ從テ戸籍簿ヲ管掌スル能ハサルモノナリ又事實上之レヲ管掌シ居ラサリシモノナルニモ拘ハラス原院カ被告ニ對シ刑法第二百五條ヲ適用セラレタルハ全ク違法ノ判决ナリト云フニ在レトモ◎被告カ事實上戸籍簿ヲ管掌シ居ラサリシトノ點ハ全ク事實問題ニシテ上告審ニ於テ爭フヘキコトニアラス而シテ被告カ適法ニ撰任セラレタル一宮町役塲ノ書記タリシコトハ前項説示スル如シ而シテ被告ハ原院ノ認ムル如ク戸籍事務ノ擔任中本件ノ犯罪行爲アリタルモノナレハ明治二十三年法律第百號刑法第二百五條ノ制裁ヲ免ルヽヲ得サルモノトス何トナレハ書記カ分掌スル處ノ事務ニ屬スル簿冊ニ付管掌ノ責アルコト言ヲ俟タサレハナリ
右ノ理由ニ付刑事訴訟法第二百八十五條ニ從ヒ本件上告ハ之ヲ棄却ス
明治三十一年十一月一日大審院第一刑事部公廷ニ於テ檢事藤堂融立會宣告ス
