詐欺取財ノ件
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大審院刑事判決録（刑録）4輯4巻24頁
明治三十一年第三一九號
明治三十一年四月七日宣告
◎判决要旨
紙幣類似ノ玩弄印刷物ハ禁制品ナリ
第一審 甲府地方裁判所谷村支部
第二審 東京控訴院
被告人 高山照吉
右詐欺取財委託金費消被告事件ニ付明治三十一年三月十六日東京控訴院ニ於テ第一審判决ヲ取消シ更ニ被告ヲ重禁錮一年罰金十圓監視六月ニ處シタル判决ニ對シ被告ヨリ上告ヲ爲シタルニ依リ刑事訴訟法第二百八十三條ノ定式ヲ履行シ判决スルコト左ノ如シ
上告ノ趣意ヲ要スルニ第一ハ本件ノ五圓紙幣ハ中野兵四郎カ取落シタルニ依リ取掲ケ預リシモノニシテ自分所持ノ紙幣ト思ヒ誤リ之ヲ秋刀魚代ニ仕拂ヒタルモノナリト云ヒ」第二ハ前日仕拂ヒタル紙幣ノ不正ナルコトヲ聞キ驚キテ吉田サク方ニ行キ示談ヲ爲シ警察ニモ届ケサルコトニ約束シタリト云ヒ」第三ハ右ノ事實ヲ證明スル爲メ原院ニ於テ吉田サク中野兵四郎外數名ヲ證人トシテ召喚アランコトヲ請求シタルニ之ヲ許可セスシテ遂ニ詐欺取財ノ罪アリトセシハ不法ナリト云フニ在レトモ◎證人喚問ノ請求ヲ許否スルハ原院ノ職權ニ在ルヲ以テ其請求ヲ聽許セサリシヲ違法ナリトスルヲ得ス其他ノ論旨ハ總テ原院ノ職權ニ屬スル事實ノ認定ヲ論難スルモノニシテ上告適法ノ理由ナシ』第四前段ハ被告ヨリ押收シタルコトナキ玩弄印刷物ヲ禁制物トシテ沒收シタルハ不法ナリト云フニ在レトモ◎玩弄ノ紙幣類似印刷物ハ禁制物ナルヲ以テ何人ノ所持ニ係ルモ之ヲ沒收スヘキモノナルヲ以テ原判决ニ之ヲ沒收シタルハ違法ニ非ス』其後段ハ原院ニ於テ被告ニ示サレタル端書ハ齋藤ナル者カ被告ヲ罪ニ陷レンカ爲メ無名ニテ差出シタルモノナルニ之ヲ心證ノ資料ニ供シタルハ不法ナリト云フニ在リテ◎要スルニ原院ノ職權ニ屬スル採證ノ當否ヲ論難スルモノニ外ナラスシテ上告ノ理由トナラス』追加書ノ第一第二第四ハ上告趣意ヲ敷衍辯明スルモノナルヲ以テ重子テ説明スルノ要ナシ』第三ハ被告カ廣三郎方ニ至リ驚テ玩弄紙幣ト眞正ノ紙幣ト引換ヲ爲シタルコトハ原院公廷ノ申立及兼吉サク萬吉等ノ豫審調書ニ依リ明カナルニ釣錢ヲ騙取シタルモノト判定シタルハ不法ナリト云ヒ」第五ハ吉田廣三郎兄弟并ニサクト被告ハ懇意ノ間柄ニシテ金錢ヲ所持セス物品ヲ借用スルコトヲ得ルヲ以テ玩弄紙幣ヲ以テ欺罔スルノ理由ナク又タ惡意ヲ以テ仕拂ヲ爲シタルモノトスレハ自ラ進ンテ引換ヲ爲ス道理ナシ依テ兵四郎萬吉サク兼吉等ヲ召喚シ審理アランコトヲ請求スト云フニ在レトモ◎以上二點ハ要スルニ事實ノ認定採證ノ當否ヲ論難スルモノニシテ上告ノ理由ナク又上告裁判所ハ事實ノ審理ヲ爲スヘキ法衙ニ非サルヲ以テ證人喚問ノ請求ヲ聽許スルニ由ナク上告ハ一モ其理由ナキモノトス
右ノ理由ナルヲ以テ刑事訴訟法第二百八十五條ニ依リ本按上告ハ之ヲ棄却ス
明治三十一年四月七日大審院第二刑事部公廷ニ於テ檢事岩野新平立會宣告ス
