故殺未遂ノ件
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大審院刑事判決録（刑録）3輯5巻19頁
明治三十年第三八四號
明治三十年五月十三日宣告
◎判决要旨
判决書ニ「兩腕ノ幾部及ヒ手指ハ其機能ヲ失フニ至リタルモノナリ」トアルハ兩腕及ヒ手指ヲ廢疾ニ致シタル事實ヲ明示シタルモノトス
（參照）其一目ヲ瞎シ一耳ヲ聾シ又ハ一肢ヲ折リ其他身體ヲ殘虧シ廢疾ニ致シタル者ハ二年以上五年以下ノ重禁錮ニ處ス（刑法第三百＄條第一項）
第一審 宇都宮地方裁判所
第二審 東京控訴院
被告人 湯澤藤次郎
辯護人 佐久間長四郎
右故殺未遂被告事件ニ付明治三十年四月十七日東京控訴院ニ於テ言渡シタル判决ニ對シ被告ハ上告ヲ爲シタリ
大審院ニ於テ刑事訴訟法第二百八十三條ノ定式ヲ履行シ審判スルコト左ノ如シ
上告趣旨ハ被告ハ當時酒ヲ飮ミ知覺精神ヲ喪失シ居タルニ付石川由松ニ負傷シタリトノコトハ之ヲ知ラサルナリ然ルニ原院ニ於テ有罪ノ判决ヲ爲シタルハ不法ナリト云フニ在テ◎原承審官ノ職權ニ存スル事實ノ認定ヲ非難スルニ過キサレハ上告ノ理由トナル可キモノニアラス
辯護人佐久間長四郎ノ擴張論旨ハ原判文ニ「兩腕ノ幾部及ヒ手指ハ其機能ヲ失フニ至リタルモノナリ」トアレトモ兩腕ノ幾部トハ何レノ塲合ヲ指シタルモノナルヤ又手指トハ左右兩指何レノ指カ其機能ヲ失フニ至リタルモノナルヤ其事實理由ヲ明示セサルハ不法ナリト云フニ在レトモ◎要スルニ原判文ニ「兩腕ノ幾部及ヒ手指ハ其機能ヲ失フニ至リタルモノナリ」トアルハ即チ兩腕及ヒ手指ヲ廢疾ニ致シタリトノ事實ヲ明示シタルモノニ外ナラス已ニ其廢疾ニ致シタリトノ事實ヲ明示シアル上ハ之カ局部等ニ關シ逐一其事實ヲ明示スルコトヲ要セス故ニ原判决ハ事實理由ノ明示ヲ欠キタルモノト認ムルコトヲ得サルナリ
右ノ理由ナルヲ以テ刑事訴訟法第二百八十五條ニ依リ本案上告ハ之ヲ棄却ス
明治三十年五月十三日大審院第一刑事部公廷ニ於テ檢事岩田武儀立會宣告ス
