私書僞造行使詐欺取財私訴ノ件
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大審院刑事判決録（刑録）3輯2巻79頁
明治三十年第一一八號
明治三十年二月二十三日宣告
◎判决要旨
甲者犯罪ニ因テ乙者ノ不動産ヲ自己ノ所有名義ニ變更シ之ヲ丙者ニ賣渡シタリ此塲合ニ於テ乙者ハ犯罪者タル甲者ヲ經由スルコトナク現所有者タル丙者ニ對シ直接ニ所有名義書換ノ請求ヲ爲スコトヲ得
第一審 京都地方裁判所
第二審 大坂控訴院
私訴上告人 森徳次郎
訴訟代理人 若林秀溪
私訴被上告人 高山保綱
訴訟代理人 山崎惠純
森田忠次郎私印私書僞造行使詐欺取財被告事件ノ公訴ニ附帶スル右當事者間ノ私訴ニ付明治三十年一月十三日大阪控訴院ニ於テ言渡シタル判决ニ服セス上告ヲ爲シタルニ依リ刑事訴訟法第二百八十三條ノ定式ヲ履行シ上告人辯護士若林秀溪被上告人辯護士山崎惠純ノ辯論檢事岩野新平ノ意見ヲ聽キ判决スル左ノ如シ
上告ノ趣意ハ原判决ハ法則ヲ不當ニ適用シタル違法ノ裁判ナリト云フノミニテ◎原判决中何レノ點ニ其違法アルヤ之ヲ辯明セサルヲ以テ本論旨ハ適法ノ理由ナシ』辯護士若林秀溪ノ擴張
第一點ハ本件ノ公訴ニ付原判决ニ刑法第三百九十條第二項ヲ適用シナカラ同法第百條ヲ適用處斷シ又判决ニ本件公訴ノ一部タル詐欺取財ノ點ニ對シ何等ノ判决ヲ下サヽリシハ違法ナリト云フニ在レトモ◎右前段ノ論旨ハ固ヨリ私訴ノ判决ニ關係ナシ又本件ノ私訴ハ冐認罪ニ起因スルモノナルヲ以テ公訴ノ一部タル詐欺取財ノ點ニ付判决ヲ爲スト否トハ私訴ニ影響アルコトナシ然レハ右後段ノ論旨モ亦私訴ノ判决ニ關係ナキヲ以テ私訴ノ上告理由ト爲スヲ得ス』
第二點ハ本件ノ不動産ハ曩ニ私訴被上告人ノ所有名義ナリシヲ公訴被告人ノ名義ニ改メ而シテ之ヲ私訴上告人ノ所有名義ニ登記シタルモノナレハ其名義ヲ私訴被上告人ニ回復スルニハ一旦公訴被告人ノ名義ニ改メサルヘカラス然ルニ原判决ニ於テ私訴上告人ヨリ直接ニ私訴被上告人ニ所有名義ヲ移スヘシト爲シタルハ執行スルヲ得サル違法ノ裁判ナリト云フニ在レトモ◎本件ノ不動産ハ公訴被告人カ犯罪ニ依テ自己ノ所有名義ニ改メタルモノナレハ其所有者タル私訴被上告人ヨリ其所有名義ノ回復ヲ求ムルニ方リテハ犯罪タル公訴被告人ヲ經由スルヲ要セス現在所有名義人タル私訴上告人ニ對シ直接ニ所有名義書換ノ請求ヲ爲シ得ヘキモノナルヲ以テ原判决ハ違法ニアラス
右ノ理由ナルヲ以テ刑事訴訟法第二百八十五條ニ依リ本件上告ハ之ヲ棄却ス
上告訴訟費用ハ上告人之ヲ負擔スヘシ
明治三十年二月二十三日大審院第二刑事部公廷ニ於テ檢事岩野新平立會宣告ス
