誣告ノ件
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大審院刑事判決録（刑録）3輯2巻1頁
明治三十年第四三號
明治三十年二月四日宣告
◎判决要旨
誣告罪ハ不實ヲ以テ人ヲ誣告スルニ於テ直ニ成立スヘキモノニシテ其被告人ノ推問ヲ受ケタリヤ否ハ犯罪ノ成立ニ影響ナシ
（參照）不實ノ事ヲ以テ人ヲ誣告シタル者ハ第二百二十二條ニ記載シタル僞證ノ例ニ照シ處斷ス（刑法第三百＄五十五條）
僞證ノ爲メ被告人死刑ニ處セラレタルトキハ反坐ノ刑一等ヲ減ス其未タ刑ヲ執行セサル前ニ於テ發覺シタルトキハ二等ヲ減ス」若シ被告人ヲ死ニ陷ルヽノ目的ヲ以テ僞證ヲ爲シタルトキハ死刑ニ反坐ス其未タ刑ヲ執行セサル前ニ於テ發覺シタルトキハ一等ヲ減ス（刑法第二百＄二十二條）
第一審 長野地方裁判所上田支部
第二審 東京控訴院
被告人 保科周次郎
辯護人 沼田宇源太 鳩山和夫 上田昇一郎
右周次郎ニ對スル誣告被告事件ニ付明治二十九年十二月二十五日東京控訴院ニ於テ長野地方裁判所上田支部ノ判决ニ對スル被告ノ控訴ヲ受理シ審理ノ末言渡シタル判决ニ服セス被告ヨリ上告ヲ爲シタルニ依リ刑事訴訟法第二百八十三條ノ定式ヲ履行シ審理スル左ノ如シ
上告趣意ハ原院ハ被告カ誣告ヲ爲サヽル事實ニ對シ刑ノ言渡アリタルハ違法ノ判决ナリト云フニ在レトモ◎原判决ヲ見ルニ被告カ誣告ヲ爲シタル事ヲ認メアルテ以テ其事實ニ對シ刑ノ言渡ヲ爲シタルハ相當ナリ要スルニ本論旨ハ原院カ被告ニ於テ誣告ノ所爲アリト認メタルニ對シ漫然不服ヲ唱フルニ過キス故ニ上告ノ理由トナラス
辯護人沼田宇源太上告趣意擴張ノ趣旨ハ要スルニ誣告罪ノ成立ニハ其誣告ニヨリ被告人ノ推問ヲ初メタルヤ否ヤハ最モ必要ノ條件ナリトス本件ニ於テ被告訴人村田沖三郎及ヒ其妻カンハ未タ一回ノ推問タニアラサルニ上告人ハ明カニ自白ヲナシタルモノナリ左レハ本件被告ハ當然刑法第三百五十六條ニ依リテ免訴セラルヘキモノナルニ原院カ之ヲ有罪ニシタルハ不法ナリト云フニ在レトモ◎誣告罪ハ刑法第三百五十五條ノ明文ノ如ク不實ノ事ヲ以テ人ヲ誣告シタル時既ニ成立スルモノニシテ被告人ノ推問ヲ初メタルト否トヲ問ハス故ニ既ニ其罪成立シタル以上ハ假令自首シタリトスルモ其効ナキコト明カナリ况ヤ其自首ナリト主張スル事實ハ豫審ノ訊問中其推問ニ依リ事實ヲ陳述シタルモノニ於テオヤ
本件ニ於テ辯護士鳩山和夫上田昇一郎兩名ヨリ上告ノ申立ヲ爲シタルモ既ニ其以前ニ於テ被告人ヨリ上告ヲ爲シタルヲ以テ辯護士ノ上告ハ無効ナリ隨テ其申立ニ付テノ趣意書ハ其理否ヲ判定スル限リニアラス
右ノ理由ナルニ依リ刑事訴訟法第二百八十五條ノ規定ニ從ヒ判决スルコト左ノ如シ
本件上告ハ之ヲ棄却ス
明治三十年二月四日大審院第一刑事部公廷ニ於テ檢事岩田武儀立會宣告ス
