賣藥規則違反ノ件
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大審院刑事判決録（刑録）2輯10巻32頁
明治二十九年第一一〇三號
明治二十九年十一月十三日宣告
◎判决要旨
配伍調製セサル單純ナル藥品ト雖モ其分量ヲ定メ瓶ニ詰メ又ハ包ニ入レ効能書若クハ之ト同視スヘキ方法ヲ以テ治病ノ効能ヲ知ラシメタルトキハ賣藥規則第一條ニ所謂ル賣藥ナリトス
（參照）此規則ニ稱スル所ノ賣藥トハ丸藥、膏藥、煉藥、水藥、浴劑、散藥、煎藥等ヲ調製シ効能書ヲ附シ販賣スルモノヲ云フ（賣藥規則＄第一條）
第一審 名古屋地方裁判所
第二審 名古屋控訴院
被告人 市川庄五郎 内堀儀助 小原金次郎 伊藤徳藏 小川小三郎 杉本兼吉 岡村富次郎 大野駒吉 水谷武兵衛 關戸藤右衛門 二村林治 古澤光次郎
右賣藥規則違反被告事件ニ付明治二十九年十月十九日名古屋控訴院ニ於テ被告共ノ控訴ヲ審理ノ末第一審判决ヲ取消シ被告等ヲ無罪ト爲シタル判决ニ對シ同院檢事長加納謙ヨリ上告ヲ爲シタリ依テ本院ハ刑事訴訟法第二百八十三條ノ式ヲ履行シ審判スルコト左ノ如シ
上告ノ趣旨ハ本院ニ於テ各被告ニ對シ無罪ヲ言渡シタルハ擬律錯誤ノ裁判ナリ如何トナレハ判文ニ掲クル藥局方拔萃ニハ其分量効能等ヲ明示シアルヲ以テ假令單味藥品ト雖トモ之レカ分量ヲ定メ効能書ヲ付シ小瓶等ニ入レ賣藥ニ裝ヒ販賣シタルトキハ賣藥規則第一條及ヒ第二十三條等ニ問擬スヘキモノナルコトハ既ニ大審院ノ判例アリテ明晰ナリ然ルニ原院ハ前陳ノ事實ヲ認メナカラ單味藥品ナリトシテ直チニ無罪ヲ言渡シタルハ擬律錯誤ノ裁判タルヲ免レスト云フニ有リ◎依テ審按スルニ凡ソ配伍調製セサル單純ノ藥品ト雖トモ之カ分量ヲ定メ之ヲ小瓶或ハ小包ニ分チ而シテ効能書若クハ之ニ代フルニ他ノ方法ヲ以テ其治病ノ効能ヲ知ラシムルニ於テハ賣藥規則第一條ニ規定スル賣藥タルコトハ勿論ナリトス今ヤ原判文ノ認メタル事實ニ依レハ被告庄五郎ハ日本藥局方ニ從ヒ貌羅謨加〓謨石鹸流動擦劑等ヲ製造シ之ヲ小瓶小包ニ分チ或ハ貝殼若クハ曲物詰ト爲シ被告金次郎外十名ヘ之ヲ賣渡シ而シテ其各買主ヘハ之レカ効能書ニ換フヘキ日本藥局方ヲ拔萃セル印刷物一冊若クハ二冊ト定價表一枚トヲ賣買前又ハ之ト同時ニ交付シ而シテ右ノ各買主即チ被告等ハ其買受ケタル全部又ハ幾部ヲ他人ヘ販賣シ或ハ販賣セン目的ニテ店頭ニ備ヘ置キタルモノニシテ即チ被告庄五郎ハ無鑑札ニテ賣藥營業ノ所爲アルモノ被告金次郎外十名ハ無鑑札ニテ賣藥受賣ノ所爲アルモノトス故ニ各被告等ノ所爲ニ對シテハ賣藥規則第一條第二十一條第二十三條ヲ適用處斷スヘキモノナルニ原院カ前掲ノ事實ヲ認ムルニモ拘ハラス被告等ヲ無罪トナシタルハ本論旨ノ如ク原判决ハ擬律錯誤ノ裁判タルヲ免カレスシテ破毀スヘキノ原由アルモノトス然レトモ原判决ハ證據ノ擧示ナキニ依リ本院ハ其認メタル事實ニ對シ直チニ判决ヲ與フルニ由ナシ
以上ノ理由ナルニ付刑事訴訟法第二百八十六條ニ從ヒ原判决ノ全部ヲ破毀シ更ニ審判ヲ爲サシムル爲メ本件ヲ大阪控訴院ヘ移スモノナリ
明治二十九年十一月十三日大審院第一刑事部公廷ニ於テ檢事岩田武儀立會宣告ス
