竊盜ノ件
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大審院刑事判決録（刑録）2輯6巻73頁
明治二十九年第六二二號
明治二十九年六月二十二日宣告
◎判决要旨
辯論ノ最終ニ被告人ヲシテ供述セシメス直ニ本案ノ裁判ヲ言渡シタル判决ハ不法ナリ
（參照）檢事、被告人及ヒ辯護人ハ迭ヒニ辯論ヲ爲スコトヲ得但辯論ノ最終ニハ被告人又ハ辯護人ヲシテ供述セシムヘシ（刑事訴訟法第二＄百二十條三項）
第一審 長野地方裁判所
第二審 長崎控訴院
右敏郎カ竊盜被告事件ニ付明治廿九年五月二十一日長崎控訴院ニ於テ本控訴ハ之ヲ棄却スト言渡シタル判决ニ對シ被告ヨリ上告ヲ爲シタルニ付刑事訴訟法第二百八十三條ノ式ヲ履行シ判决スルコト左ノ如シ
辯護人岡崎正也上告意趣擴張書第二點ハ原院ニ於テ明治二十九年五月十九日一旦辯論ヲ終結シタレトモ其後同月二十一日ニ至リ再ヒ辯論ヲ續行シ證據調ニ付檢事ノ意見ヲ聽キ之ニ對シ證據决定ヲ爲シタリ依リテ此續行審理ノ期日ニ於テ被告ヲシテ最終ニ供述ヲ爲サシム可キハ當然ナルニ原院カ之ヲ爲サシメスシテ直チニ判决ヲ言渡シタルハ訴訟手續ニ違背セル不法ヲ免レスト云フニ在リ◎依テ原院ノ公判始末書ヲ閲スルニ明治二十九年五月十九日一旦辯論終結ノ言渡ヲ爲シタル後同月二十一日ニ至リ更ニ辯論ヲ開キタルニ拘ハラス被告又ハ辯護人ヲシテ最終ニ發言セシムルコトナク直チニ本案ノ判决ヲ與ヘタルモノナルハ上告論旨ノ如ク而シテ刑事訴訟法第二百二十條第三項ノ末段ニハ辯論ノ最終ニハ被告人又ハ辯護人ヲシテ供述セシム可シトアリテ且其第二百三十六條及第二百五十八條第一項ニ依レハ該規定ノ控訴ノ裁判ニモ適用スヘキモノナルヲ以テ原院ノ手續ハ右ノ法則ニ違反シタル不法ヲ免レス依テ該判决ハ破毀セサルヲ得ス從テ其他ノ上告論旨ニ對シテハ一モ説明ヲ與フルノ要ナシ
右ノ理由ナルヲ以テ刑事訴訟法第二百八十六條ニ依リ原判决ノ全部ヲ破毀シ本件ヲ廣島控訴院ニ移ス
明治二十九年六月二十二日大審院第二刑事部公廷ニ於テ檢事應當融立會宣告ス
