私印盜用私書僞造行使詐欺取財ノ件
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大審院刑事判決録（刑録）2輯4巻17頁
明治二十九年第三一八號
明治二十九年四月九日宣告
◎判决要旨
公權剥奪者ヲ證人トシテ訊問シタル豫審調書ヲ斷罪ノ資料ニ供シタル判决ハ不法ナリ
（參照）左ニ記載シタル者ハ證人ト爲ルコトヲ許サス但宣誓ヲ爲サシメスシテ事實參考ノ爲メ其供述ヲ聽クコトヲ得（刑事訴訟法第百＄二十四條一項）
公權ヲ剥奪セラレ又ハ公權ヲ停止セラレタル者（四條＄四號）
第一審 長野地方裁判所
第二審 東京控訴院
右喜藏カ私印盜用私書僞造行使詐欺取財被告事件ニ付明治二十九年三月十日東京控訴院ニ於テ原公訴判决ヲ取消シ更ニ被告ヲ重禁錮一年罰金十圓監視六月ニ處シ私訴ニ付テハ被告ハ原告ニ對シ金三十五圓ヲ賠償ス可ク原告カ被告ニ對スル地所賣買登記取消ノ請求ハ之ヲ棄却スト言渡シタル判决ニ對シ被告并ニ民事原告人ヨリ上告ヲ爲シ被告ノ私訴上告ニ對シ民事原告人ヨリ答辯書ヲ差出シタルニ依リ刑事訴訟法第二百八十三條ノ定式ヲ履行シ檢事岩田武儀辯護士田澤鎭太郎小島相陽坂本省三ノ辯明ヲ聽キ判决スルコト左ノ如シ
田澤辯護士ノ擴張要旨第二ハ原院カ明治二十年六月二十日輕懲役七年ニ處セラレ被剥奪公權者タル關口金右衛門ヲ證人トシテ訊問セシ豫審調書ヲ斷罪ノ證據ニ採用セシハ不法ナリト云フニ在リ◎依テ本件記録ヲ査閲スルニ長野重罪裁判所既决犯罪表ノ謄本ニ依レハ關口金右衛門ハ輕懲役七年ニ處セラレタル者ニシテ其附加刑トシテ裁判所ニ於テ證人ト爲ルノ權ヲ剥奪セラレタルモノナルコト勿論ナリ然ルニ豫審ニ於テ同人ヲ證人トシテ訊問シ原院ニ於テモ其調書ヲ證人ノ豫審調書トシテ本件斷罪ノ證トシタルハ失當ニシテ上告ハ其理由アリトス既ニ此點ヲ以テ破毀ノ原由アリトスル上ハ他ノ論旨ニ對シテ説明スルノ必要ナシ
私訴原判决ハ賠償ノ點ハ勿論登記取消ノ點モ公訴判决ノ事實ニ基キ與ヘタルモノナレハ公訴判决ノ全部破毀セラルヽ上ハ私訴判决モ亦タ破毀ヲ免カレサルモノトス依テ被告及民事原告人ノ上告ハ結局理由アルモノニ歸ス
右ノ理由ナルヲ以テ刑事訴訟法第二百八十六條ニ依リ原判决ヲ破毀シ事件ヲ宮城控訴院ニ移シ審判セシム
明治二十九年四月九日大審院第二刑事部公廷ニ於テ檢事岩田武儀立會宣告ス
