證書騙取ノ件

平易表示にする 原文表示にする

大審院刑事判決録（刑録）1輯2巻108頁

明治廿八年七月二十三日宮城控訴院ニ於テ右長吉ニ對スル證書騙取被告事件ノ控訴ヲ審理シ本件控訴ハ之ヲ棄却スト言渡タル判决ヲ不當トシ被告ハ上告ヲ爲シ原院檢事長犬塚盛巍ハ答辯書ヲ差出シタリ因テ刑事訴訟法第二百八十三條ノ定式ヲ履行シ審理スル處

上告趣意書ノ要旨ハ本案騙取シタリト云フ證書ハ借用證書ニ要用ナル宛名アルコトナケレハ無効ノ證書ニシテ故紙ト同一ノモノナリ然ルニ原院カ之ヲ證書ノ騙取ト判决シタルハ擬律錯誤ナリト云フニ在レトモ◎宛名ノ記載ナシ迚直ニ之ヲ無効ノモノト云フヘカラサルハ勿論ニシテ原院カ認メタル事實ヲ以テ證書騙取ノ罪アルモノト判决シタルハ相當ニシテ擬律錯誤ニアラス』同辯明書第一ハ被告ハ被害者爲吉ヲ誘導シテ遂ニ證書ヲ騙取シタルモノニアラスシテ爲吉ニ遇ヒタルハ同人ヨリ畑地賣渡ノ周施又ハ金員借用ノ周旋ヲ依頼スル爲メ被告ノ方ニ來リタルモノナル旨ヲ述ヘ以テ被告ニ詐欺ノ念ナキコトヲ陳辯スルニ在レトモ◎右ハ事實裁判官ノ職權ニ在ル認定ヲ批難スルニ過キサルヲ以テ上告ノ原由トナラス』同第二ハ趣意書ノ旨趣ヲ敷衍スルニ過キサルヲ以テ◎別ニ説明ヲ要セス因テ刑事訴訟法第二百八十五條ニ從ヒ判决スルコト左ノ如シ

本件上告ハ之ヲ棄却ス

明治廿八年九月廿日大審院第二刑事部公廷ニ於テ檢事岩田武儀立會宣告ス