詐欺取財ノ件
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大審院刑事判決録（刑録）1輯1巻157頁
明治廿八年第八七九號
明治廿八年八月三十日宣告
◎判决要旨
官署ノ捺印ヲ要スル規定ハ刑事訴訟法ニ依リ作成スヘキ書類ニノミ適用ス
第一審 札幌地方裁判所
第二審 凾館控訴院
被告人 小寺吉太郎
右小寺吉太郎カ詐欺取財被告事件ニ付明治廿八年六月十一日凾館控訴院ニ於テ被告ノ控訴ヲ審理シ札幌地方裁判所カ被告ヲ重禁錮三月罸金五圓監視六月ニ處シタルヲ相當ナリトシ本控訴ヲ棄却スト言渡シタル第二審ノ判决ニ服セス被告人ヨリ上告ヲ爲シタルニ因リ刑事訴訟法第二百八十三條ノ式ヲ履行シ判决ヲ爲スコト左ノ如シ
上告趣意第一原院ハ被告ノ所爲ヲ以テ手宮早達組カ附託ノ荷物ヲ引渡スニ際シ他ノ柳行李ヲ取違ヘ引渡サントシタルヲ奇貨トシ被告ハ自己ノ荷物ナリト欺キ交付セシメ之ヲ騙取セリト認定セラレタルモ本件ハ荷物受授ノ後住吉停車塲ニ於テ柳行李一個ノ遺失シアリシヨリ百方搜索ノ末公訴ノ提起サレタルモノニシテ受授ノ際ニ於テ欺罔騙取ノ行爲アリサリシコトハ原院カ採用シタル各證據書類ニ徴シテ明瞭ナルニ強テ欺罔騙取ノ事實ヲ認メテ詐欺取財ノ刑ヲ適用シタルハ不法ニ事實ヲ認メタル瑕瑾アリト云フニ在ルモ◎裁判官ノ職權ニ屬スル事實ノ認定ヲ非難スルニ過キスシテ適法ノ理由ナシ』第二原院ハ香深分署長心得巡査太田倉次郎ヨリ札幌警察署長ニ宛タル回答書ヲ採用セラレシモ該回答書タル官署ノ印ヲ用ヒサルモノニシテ刑事訴訟法第廿條ニ背戻シタル無効ノ文書ナルニ之ヲ斷罪ノ證據ニ供シタルハ不法ノ判决ナリト云フニ在ルモ◎刑事訴訟法第廿條ハ同法ノ規定ニ從ヒ作成スヘキ文書ニ適用スルモノニシテ巡査ノ警察署長ニ對スル回答書ノ如キハ同條ヲ適用スルノ限ニ非ラサレハ其文書ヲ證據ニ供シタルハ相當ニシテ毫モ違法ノ點ナシ依テ上告論旨ハ總テ相立タス
右ノ理由ナルヲ以テ刑事訴訟法第二百八十五條ニ從ヒ本件上告ハ之ヲ棄却ス
明治廿八年八月三十日大審院休暇部公廷ニ於テ檢事岩田武儀立會宣告ス
