文苑
●悼清人蘇山人子
蝿に物與へてなりと慰まん 竹冷
それよりそ花も葉かちと成にける 寛水
悲しさを老鴬も鳴くなめり 枯蝉
梨の花さらさらさらと散に鳬 葵山
風寒う朧に鴈の聲悲し 靄人
落花枝に歸らさる蝶の恨かな 紫艸
曉をいにし人あり百合の花 呵軒
花に座して蝶の屍をいとおしむ 南嶽
雨の日の草に隱れし胡蝶かな 西男
花に來て倭の土となられしよ 我堂
其中の珍らしき花萎みけり しつく
人の世の唐撫子は咲きにけり 松宇
うら悲し百合はうつむく物なから 久寳
葉櫻の木陰に君を偲ふらん 巴山
短夜や君か句集も讀み終へで 湖山
花散りて寂しき夜なり春の雨 翠波
梨花散るや曉寒き燈影 洒石
君祀る短き夜半を小雨かは 抱琴
新らしき卒塔婆を覆ふ若菜かな 塵山
梅の主鶴を搜しに出掛けたり 唖々
折しもの庭の紫蘭や手向草 樵水
花の咲く春に遇ひたる樒かな 大羽
髣髴と其俤や白牡丹 野梅
桃三千君にさひしき此春か 活東
花は人は昨日の夢の茂りかな 柴兮
鉢にして菫の花を手向かな 麥人
●初夏
更けて行く海しつかなり時鳥
鴨の子の居さうのとこや杜若
御田植や松の梢は神の風
五月雨や角兵衛獅子の笠もたず 鴬橋
●春五句
月竝の宗匠か爐を塞き鳬
歸省して兄と打ちたる畑かな
枳穀に密柑もつかる世なり鳬
無爲に飽きて八年の柿をつかんとすあらけなく泣子をしかる繪踏哉 康人