大審院判决摘要録

◎恐喝取財の成立に關する件
(明治三十四年(れ)第五二七號同四月二十一日第二刑事部判决)
恐喝取財罪の既遂となるには必す被恐喝者か畏怖の念を生したることを要すと雖も未遂犯は常に必しも事實上畏怖の念を生したることを必要とするものにあらす唯恐喝の手段か人をして畏怖を生せしむる性質の所爲あれは足る
(判决理由)恐喝取財罪を斷するに當り恐喝取財既遂ありとするには財物を騙取するの目的を以て人を恐喝したる事實と被恐喝者か畏怖の念を生し財物を交付したる事實あることを必要とするも恐喝取財未遂の場合に於ては被恐喝者か畏怖したるや否やは常に必らすしも犯罪の成立に影響を及ほすものにあらす若し夫れ恐喝取財を爲さんとする者の用ゐたる恐喝手段か絶對的に人をして畏怖の念を生せしむること能はさるものなりとせんか是れ所謂る不能犯の場合にして恐喝取財罪の全然成立せさるは論を俟たさる所なりと雖も其恐喝手段か苟くも人をして畏怖の念を生せしむへき性質のものなるに於ては適ま被恐喝者に對しては效力なかりし場合と雖も恐喝取財の未遂罪は完全に成立し得へく被恐喝者か畏怖の念を生せさりし一事を以て之れを不能犯なりとし恐喝取財罪なしと論斷すること能はさるものとす