戸籍事務問答録
戸籍 〓門答録
本問答録は谷山鹿島區裁判所監督判事會長の下に管内戸籍吏毎月會合を爲して戸籍上取扱事務の研究を爲せる决議事項なり世の戸籍事務取扱上關係ある人の參考となるへき節多ければ逐次之を掲く
判事 谷山國信報
一二七問 民法實施前戸籍に失踪の記載ある者婚姻等の届出を爲すことは直に受理し差支なきや或は舊例に依り一旦復歸届を爲したる上にあらされは受理すへからさるや
答 復歸届を爲さゝるも婚姻届は受理すへきものとす
一二八問 無籍者の婚姻を爲すに際り其本籍を記入すへき場所即ち其者の肩書には無籍と記入するか又は本籍不詳と爲し置くか事實無籍者に相違なきものを不詳と爲し置くは少しく穩當ならさるものゝ如し如何
答 無籍者は籍の不詳と云ふを得されは見解の通り無籍と記するを相當とす
一二九問 未成年の戸主あり親權を行ふ母は他家より夫を迎ふることを得さるも戸内に在る叔父(母の亡夫の弟)と同居の盡婚姻するは差支なきや
答 戸内に於て婚姻するは妨けなし
一三〇問 婚姻に因り嫡出子たる身分を取得する庶子あるときは婚姻届に之を記載すへきことは戸籍法第百二條六號に規定する所なり右記載すへき庶子は婚家に現在せる庶子に限るや將た父の家に入るを得すして他家にある庶子と雖も記すへきや
答 父か庶子の生母と婚姻するときは該庶子は父の家にあると他家にあるとを問はす總て嫡出子たる身分を取得すへきに付き婚家にあるものと否とを問はす總て記載すへきものとす
一三一問 前問他家にある庶子を記載して婚姻届を差出したるときは該届出に因り庶子は當然父の家に入るや
答 父母の婚姻に因り庶子たる身分か嫡出子に變更したる結果は庶子の戸籍面父母との續柄を何男何女と訂正するに止まり當然父の家に入ることを得す
一三二問 甲村の男乙村の女と婚姻するに際り丙村に於て該婚姻に因り嫡出子たる身分を取得する庶子(養子縁組等に因り丙村にあるもの)あるときは如何して丙村にある庶子の戸籍を訂正すへきや
答 此場合に於ては婚姻届は三通を差出さしめ該一通を丙村戸籍吏に送付すへし丙面戸籍吏は婚姻の部に右婚姻登記を爲し戸籍問庶子の父母との續柄を訂正すへし
一三三問 婚姻の結果乙村より甲村を入來したるもの離婚に際し實家廢絶に付實家を再興する場合には甲村のみは離婚登記を爲し乙村には廢絶案再興の届出に依り就付するを以て離婚の登記は爲さゝるものか將た離婚及伸絶家再興の二件に付き登記すへきか
答 離婚登記は甲村にのみ爲し乙村には廢絶家再興の登記のみを爲すものとす結局前段意見の通り
一三四問 前問の場合に婚家に在る妻の籍は離婚届を受理したると同時に除籍して可なるや
答 戸籍法第百八十八條第百八十九條の規定は如何なる事理に依る入除籍の場合にも適用せさるへからさるか故に離婚届を受理したると同時に除籍することを得す妻か乙村に於て廢絶家を再興したるときは非届書の一本と入籍通知書を甲村に發送し甲村戸籍吏は登記及戸籍の記載を爲し除籍するを穩當とす
一三五問 離婚に際し實家の廢絶に因り復籍する能はさる者親族の内へ入籍希望の者は一旦實家を再興せす直に入籍手續を爲すを得るや
答 離婚に付き復籍すへき家無き者か實家を再興せさる場合には離婚と同時に當然一家を創立するものなれは(民法第七百四十條)一家創立の届出を爲すことを要すへし故に一家創立の手續を爲したる上は格別否らされは直に親族の家に入籍の手續を爲すは正當ならす
一三六問 離婚の身分登記に當事者たる妻の肩書は記載せさる方可然樣曩きに御教示の趣も有之たるも戸籍法取扱手續附録一號の七の登記例に違ふのみならす實際との續合を知るに由なく且當事者の氏を記入せさる以上は既に實家の者として登記せしものには無之樣思考す因て右肩書は登記することに致しては如何
答 離婚の届出を爲すに際しては妻の本籍は尚ほ夫と同一なれは妻に就ては其本籍地の記載を畧するを相當とするに付き肩書を爲すへきものにあらす附録一號の七登記例は誤りなりと知るへし
一三七問 離婚に就ては夫の戸主竝に妻の實家の戸主の同意を得へき規定なるに付同意を要せさるや離縁の場合亦然り
答 離婚離縁の場合に於ては雙方戸主の同意を復せさるものとす
一三八問 他家に婚嫁したるもの離婚に際し實家は單身戸主にして死亡し未た背家の手續未濟中にあれは亡單身戸主の家に當然復籍するを得るや
答 未た絶家とならさるものなるに於ては當然要求すへきものとす
一三九問 未成年戸主の家族に未成年者數人ある場合(親權者なし)には各家族に各別に後見人を付すへきものと思料す此場合には一人をして各自の後見を兼ぬることを得るや各別に後見人を付すとすれは親族會は各別に設けさるへからさるか
答 未成年の家族に對して指定後見人なきときは民法九百三條に依り其戸主後見人となるへきも其戸主か未成年者なれは戸主の後見人は民法九百三十四條の規定に依り其戸主に代って戸主權を行ふものなるに付き未成年の家族に對しては其未成年戸主の後見人か各家族の後見を爲すものと解するを相當とす故に別に後見人を選定するを要せさるへし
一四〇問 後見人死亡し後見監督人も亦死亡したるときは何人より任務終了の届出を爲すへきや
答 後見監督人死亡したるときは親族會に於て更に後見監督人を選定すへきに付き其選定せられたる後見人より任務終了届を爲すものとす
一四一問 被後見人か死亡したるときは自然後見人の任務は消滅するものなれとも任務終了の届出は尚爲すへきものと思考す如何
答 見解の通り
一四二問 父母なき未成年戸主に祖父母ある場合に該祖父母は親權を行ふことを得從って後見人を要せさるや
答 親權を行ふことを得るものは其家に在る父母に乘る從って祖父母は親權を行ふことを得さるに付後見人を置かさるへからす
一四三問 被後見人か戸主にして(父母共に死亡)同居の祖父後見人たり此祖父分家を爲すには民法九百三十四條に依り親族會の同意たに得は戸主に代り自己の同意を要せさるや
答 親族會の同意を得たる上戸主に代りて自己の分家に就ての同意を表せさるへからす