法令

◎文部省訓令第一號
北海道廳 府縣
曩に實業教育費國庫補助法及實業學校令の施行せられしより以來各種實業學校漸く起り就中實業補習學校の設置せらるゝもの多きを加ふるの状あるは洵に喜ふへきの現象とす然れとも實業補習學校の性質未た十分に理會せられさるか爲之か施設の順序方法等に關し或は適切を缺くものなしとせす今日實業補習學校と稱するものにして往々高等小學校の教科に幾分の變更を施したるに過きさるか如きものあるは頗る違憾とする所なり今囘文部省令第一號を以て實業補習語電規程を發布し舊規程を改正したるは其の本質を明にし以て時勢の進歩と土地の情況とに應し適當の施設を爲さしめぬことを期したるに外ならす
實業補習學校は各種の實業に從事し又は從事せんとする者に簡易なる方法に依り其の職業に要する智識技能を授くると同時に普通教育の補習を爲すを以て目的とす即ち實業の教科を主題とし併せて普通教育の補習を爲し兩者共に其の目的を達するを以て實業補習學校の本旨となすへきこと專ら普通教育又は實業教異を施すか爲に設けらるゝものと遥に其の趣旨を異にする所なり
教授時間及季節の選定は實業補習學校に於て深く意を用ふへき所にして或は夜間或は日曜日或は職工上の休業日或は冬期農隙等土地の情況、生徒職業の種類、繁閑等に依り其の修學に最も便宜なる時期を撰ひ簡易切實に教授せしめむことを要す
實業補習學校に於ては其の性質上多數の時間を一定して教授を爲さむこと〓より望むへきものにあらす常るに徒に教授時數の多きを貪るは今日の通曉にして彼の從來小學校に附設するものゝ如きは概ね同時に教授するを以て設備及教授共に不完全に陷り兩者執れも其の本旨を〓するを得ざるは宜しく戒むへきことなりとす特に今囘附設の範圍を擴張して〓に小學校のみならす實業學校及中學校等にも及ほしたるを以て此等の學校に附設する場合にありては當該學校教授時間の前後又は休業日等に於て其の教授を爲すことゝせは互に相妨くる所なきのみならす教員設備の如きも相殺ぬるの便宜を得て各々其の效果を完うことを得へし
此の如く實業補習學校に於ける教授の時間及季節は多數多樣に且長短不同に選定し得るを常とするか故に必しも修業年數を定むるの必要なく寧ろ各教科目に就き之か修業期間を定むるの〓當なるへきを認め今囘之に關する規定を改めたり而して修業期間は土地の状況と教科目の種類とに依り或は之を數週數月の短期とし或は之を數年に互るの長期とすること〓より其の任意たり又同一學校に於て修業期間の相異なる教科目を置き生徒の志望に應して之を選擇せしめ或は其期間に於て其科目若は其事項を修め他の期間に於て他の科目若は他の事項を修め短期間にして始めて全教科目若は其科目の全部を修了することを得しむるか如き最も實業補習學校の妙用の存する所なるを見るへし
普通の教科目中讀書、習字、算術は從來之を必須科目と爲したりと雖も補習教育はもと〓用を主とすへきものなれは必しも是等を獨立の教科目として設くるを須ひす實業に關する科目に依りても亦能く普通教科目補習の目的を達することを得へきか故に今囘國語及算術は之を缺くことを得しめたり故に普通の教科目は總て之を設くるも悉く之を缺くことを得しめたり故に普通の教科目は總て之の便宜たるへしと雖年少の生徒にして普通教育の素養十分ならさるものには成るへく之を課し以て補習の目的を完うせしむるを可とす又土地の情況に依りては日本歴史、理科、唱歌等の如き數科目を加へて補習を爲さしむるの必要なしとせす故に改正の規定に於ては此等の教科目を斟酌し適宜之を加ふるの自由を與へたり然れとも之か爲に限りある教授時間に於て徒に教科目を〓多なちしむろは宜しく遐くへきことなりとす而して以上の諸教科目は之を設けたる場合に於ても亦皆之を隨意科目と爲すことを得しめたるは生徒各自の志望と學力とに應し適切の教育を受けしむるの要あるに依る
〓育は教育の基礎にして特に實業に從事する子弟に對しては專ら私利に應するの弊を避け信用を重んし公益を尚ふの〓風を養成するの要最も切なり宜しく生徒各自の性情に應し總ての教科目に通して適性を〓養し實業躬行を勤〓せむことを期せしむへし特に修身に隨意科目と爲したる場合に於ては最も茲に留意して教育指導に途を誤らさらしめむことを要す
實業に關する科目は土地の情況に際し選擇最も其の宜しきを得さるへからす省令に掲くる所のものは僅に其の〓箇を例示したるに過きす故に〓畫、圖案の如き物理、化學の如き之を合して各々一科目と爲し又博物を動物、植物、鑛物に養〓を養〓法、〓病、採種等に商事要項を銀行、保險、倉庫等に分科するか如く便宜分合取捨することを得へきは勿論たりとす此の他特種の職業の爲には又其の教科目を定むることを得しめたるか故に必要に應して機織、刺繍、染色、髮漆、蒔繪、指物、水型、鍛冶、鍍金、陶畫、製版、印刷、製本、釀造、製紙、〓革、製糖、〓〓、養禽、養蜂、庭園、製緑、罐詰、〓節、海苔、養蛎等の事項に就き選定する等土地の情況に應し其の農業に適切ならしむことを要す而して學校に於ては其の教授する所の實業の教科目に依りて生徒をして家庭、工場若は商店に於ては〓習し能はさる智識技能を修得せしめ以て生徒か學校外に在りて實地に操作する所の事物と密接の關係あらしめ内外相應して實業の發達に資せしめむることを期すへ
入學の資格に關しては年齡十年以上學力尋常小學校卒業以上に於て之を定むることを得しめたるか故に〓方の情況と學校の種類とに〓し適宜之を定め必しも一律に拘泥せしめさらむことを要す主として市町村の如き〓〓に於て施設するを適當と爲すと雖も道應府縣立實業學校に附設する場合にありては道、府縣に於て之を設置することを得へきは實業學校令第三條に規定せらるゝ所なり熱るに是等附設學校の設置せらるゝもの殆んと之れなきの現状に就ては違憾なき能はす自今各地方に於て事情の許す限り其の道廳〓縣立實業學校に實業補習學校を附設し以て其の地方に於ける模範學校と爲し他の學校をして此に剛らしむるあらは庶〓は實業補習學校の〓約を誤らさることを得ん
實業學校にして國庫の補助を申請するもの比年通茂するに拘らす補助の金額は自ら限りあるを以て洽く其の申請を納るゝことを得す地方長官は宜しく豐方經濟の情況を計り實業補習學校の如き必しも多額の費用を要せさるものに對しては地方〓を以て適宜補助するの方法を構し以て國庫補助の及はさる所を杯ひ且從來補助を受くる所の學校に對しては漸次國庫の補助に依頼せす獨立維持の〓を立てしめむことを努むへし
今や實業補習學校課程を改正したるに依り地方長官は克く上述の主旨を體し彼の名は實業補習學校と稱すと雖も其の實小學校の變形に過きさるが如きもに對しては努めて之を實業補習學校の本旨に適せしめてて名實〓副はしむるに途を稱し又將來設置せらるゝ所の學校に對しては能く之か本旨を讀ることなく地方の情況に適應するの施設を爲し以て十分の效果を收めしむるへし
明治三十五年一月十五日 文部大臣 理學博士 菊池大麓