雑報

小切手日附の注意
小切手を振出して支拂を爲す時は必ず其當日の日附を記入して授受すべきものなるに世間には徃々今日振出したる小切手に數日後の日附を記入して授受するものあり其意思は振出人が銀行に於ける預け金現在に不足の塲合か又は僅かなる豫金利子を私せんとするの卑劣心より起る事なれども商法五百三十六條には資金なく又は信用を得ずして治切手を振出したる時又は小切手に虚僞の日附を記載したる時は五圓以上千圓以下の科料に處するの明文あるのみならず其状况に依りては刑法上詐僞の所爲に陷ることありて眞に危險千萬なり現に此程乙某が甲某より虚僞の日附を記載したる小切手を承知して受取りたる後乙は早速現金の入用あり該小切手を某銀行に持參して現金と引換を請ひたるに某銀行は振出人の確實なるに信用を置き何心なく其の小切手を約束手形と見做して割引したるに其後小切氣の期日來り振出人に向て取付けたるに豈に圖らんや該小切手は或る事情の爲め不渉りとなりたり然るに銀行は充分不正と知りつゝ所持したるものなれば之れを公然の沙汰に爲す譯に行かず大に狼狽を極めたる事實あり平素小切手を以て取引するものは渡すものも受取るものも之れに鑑みて日附けに疏忽なき積注意すべき事ともなり