社説

手形の滿期と日休日との關係
手形の滿期日が日曜、大祭其他の休適日に當れるときは手形の支拂は果して何れの日に存する乎、是れ一の問題たるを失はざる也。
抑も手形の滿期日なるものは、手形支拂の期日にして、或は確定せる日なるを要し、或は日附後確定せる期間を經過したる日なるを要し、或は一覽の日、若くは一覽後確定せる期間を經過したる日なるを要す(第四百四十五條及第四百五十條)是を以て手形の支拂は滿期日に至らざれば之を求むることを得ざると同時に、滿期日には必ず之を求めざるべからず、拒絶證書其他償還請求を行ふに付ての要件を充たるの期間は當に滿期日より起算するものたり。然らば則ち滿期日が一般休日に相當せるときは、果して如何一般法律行爲の休止せらるゝに拘はらす、當事者の特約に重を置くの精神に基き、依然其の休假の當日を以て、滿期日と爲すべきや、將た或は主として休日の精神より慊ひ、其の翌日を以て滿期日と决すべきや、何れにしても其の决定に依り當事者の權利に尠からざる影響を及ぼし、手形取引に重大なる關係を及ぼすものと謂はざるべからず。曩に東京地方裁判所は、本問題に關して第一の見解を下して曰く
 本件手形一定の滿期日は明治三十四年一月三十日にして支拂拒絶證書は同年二月二日に作製したることは爭なし然らば手形の滿期日は期間にあらずるを以て其の日が大祭日に該當し且株式會社第三銀行が其日に取引を爲さざる慣習ありとするも該滿期日は當然其の日にして翌日に非ず故に本件支拂拒絶證書は滿期日後二日内に作成せられざるを以て原告は其前者たる裏書人に對して手形上の權利を失ひたるものとす云々
思ふに本問の場合に關しては、新商法には一言の規定なし。故に何れに决するも尚ほ自由の餘池あるを失はず。然れども少しく祝祭、其他の休日の性質を考ふるときは、右の判例は多少機械的の慊ひなきを得ざるが如し。何となれば此等休日に銀行會社が諸般の取引を爲さゞるは、從來一般の慣例なり。換言すれば、祝祭日は、營業部類の法律行爲を行はざるを本旨とす。然るに此等の關係如何を顧みず、斷然手形面の期日を以て、滿期日とするは、手形文言の效力を杓子定規的に敷演するものと謂はざるべからず。
商法に規定なきものに付ては、商慣習法を適用し之れなきときは、民法を適用すべきは、商事に關する法律適用の本則なり。飜て民法の條項を通閲するに、第百四十二條に依れば、期間の關日が若し休日に當る時休日に取引を爲さざる慣習ある場合には、其の翌日の以て期間の了終すべき旨を規定せり。是れ實に余輩の心を得たるものなり。余輩は一定の期間を經過したる日を滿期日とする場合には、當然本條を適用するを得べきも、其の他の場合に於ても、其の精神を擴張し、所謂類推解釋により、同樣の堤定を爲さむと欲するなり。
以上の見解は、必ずしも余輩の捏造には非ず。現に外國の成典にも、明かに其旨趣を認むるものあり。獨乙手形法即ち是れなり。今其第九十二條を見るに、曰く、手形の滿期日が、日曜日大祭日に當る時は、次の營業日を以て支拂日とすと、但し佛國商法は其第百三十四條に反對を掲げて曰く、爲替手形の滿期日が、法嚴の祝祭日に當るときは支拂は其期日の前日に於て爲すことを要す(英法第十四條同斷)と。而かも何れも、祝祭其他の休日を無視せざるに至りては其の揆を一にするものと謂ふべきなり。
之を要するに、東京地方裁判所の判例は、今日數多の銀行に於て、滿期日が休日に當るとこは、其翌日を以て滿期日と見做し、又滿期日が休日に當るとき、手形が不渡となれば、翌日より二日内に、支拂拒絶證書を作成すれば足れりとせるの慣習に、理由なき一大打撃を加ふるものと謂ふべきなり。