雑報

手附金沒收の商習慣
神戸元居留地九十一番ラスペ商會より同地商業會議所に向へ手附金沒收に關する商習慣に關し調査方を照會せしに對し同所は調査の上左の如く囘答せり
一 内外商人の間に於て商品賣買の契約を爲す
時賣主が手附金を領收して契約を締結し其取引の際に至り買主が商品を受取らざるときは其手附金は違約金として買主之れを沒收するの商習慣あり
 但し賣主に於て契約面の期日を經過するか又は見本品と同一ならざる時或は寸尺の不足なる品ある時其他總て契約に違ふことある時は此の限にあらず
一 手附金を沒收することを契約證に明記したるものと單に手附金として正に領收すとあるものと二者孰れを問ばず違約したるときは之を沒收するの商習慣あり
 但し單に内金として領收すとあるものに至りては商法の規定により賣主は相當の期間を定めて催告を爲したる後其貨物を竸賣に付し之によりて被りたる損害金の一部に充つる爲め其内金を沒收するの商習慣あり尤其損害額内金にて尚不足あるときは更に買主に請求することあり
備考 賣買契約上手附金を領收する如き事あるも其取引の場合に至り相場の變動又は其他の事情によりて買主が契約の執行を爲し能はざるときは其手附金を沒收するに至らずして賣主に於て能く其事情を酌量し且將來の取引をも顧み徳義上讓歩して幾分か價格の輕減を爲し又は契約の期日を延ばして猶豫を與へ或は其數量を半減して無事に取引を結了せしむる等合意上圓滑に落着を告ぐことあり