雑報
◎公吏及び官吏の性質
(一木法學博士の談)
破産管財人が公吏なるや否やは一の疑問にして辯護士中にも疑を插む者少からず今此の問題に付き一木法學博士の意見なるものを聞くに『公吏とは一般の公共團體の吏員を指したるものにして獨逸のミッテルバーレスターツベアムテに相當するは明治二十三年單行法制定當時の精神に徴するも疑なき所なりされば執達吏の如きも之を公吏と認めたる判决例ありたる如くに思へども余を以てすれば寧ろ執達吏は廣き意味に於ける官吏と解する方適當ならんと信ず現に獨逸の巴威里に於ては執達吏を官吏の一種と認めたることはザイデルの著書にも明なり右の如く解釋するときは管財人の如きは公吏と見做すべきものにあらずして若し吏と稱すべきものとすれば寧ろ官吏と見做さゞる可らず然れども官吏といひ公吏といふも單に公務を行ふの人といふの義に非ずして特別の身分を有し特別なる權力關係の下に立つものならざるべからず故に單に臣民の義務として官吏の命を受けたる公務を行ふ者は官吏にも非ず公吏にも非ざるなり破産管財人の如きも此種類に屬するはその罰則(鑑定人と同一に罰せらる)によりても推知し得べし果して然らば管財人の如きは始めより吏と稱すべきものにあらず故にその公吏なるや又官吏なるや之を論ずるの必要なし要するに管財人は公吏に非ずと斷ずることを得べし云々然り一木博士の説は前述の如くなるも更らに某法學士の談話を起さんに曰く公務を執行する者に三あり一は官吏二は公吏三は官廳若くは公署の命を受て公務を執る者是なり、而して此等の者は明かに區別あり即ち官吏は官廳を組織する一員にして公吏は公署を組織する一員たるなり而して官廳は主權者が統治權を行ふ直接機關にして公署は統治權の委任を受たる團體の機關なり故に市役所、町村役場、水利組合役場等の如き公署に屬する者は公吏にして公署以外の官廳に關する公吏なるものは决して存するの理なし彼の執達吏の如きは裁判所組織する一員にしテ換言すれば官廳の一員たるが故に官吏と見做べく公證人は假令其任命は司法大臣に依りて行はるゝと雖も官吏にも非ず公吏にも非ず是公證人は官廳の一員にも非ず又公署の一員にも非ざればなり破産管財人の如きも公署若しくは官署を組織する一員に非ず故に假令司法大臣之を任命し又公務を行ふ機關たりと雖も之を官吏又は公吏といふ事を得ざるべしと