雑報

官吏公吏の署名と印刷
官吏公吏の作れる書類にして之を取扱へる其者の署名捺印を要すべきものは必ず自置せざるべからざるものにして若し此規定に背きだるときは其書類の效なきことは刑事訴訟法第二十條の規定する所なるが現今行はるゝ所の慣例に依れば其手數を省くため多くは印刷に附したるものを用ゐること一般の例となり居れるが如し而して當局者も亦別段之を怪しむことなかりしに曩日大審院に於て姓名を印刷に付したる書類は無效なりと判决せしより晴天の靂霹とも思はるべく驚きたるは裁判所書記にして彼等はこの判决を以て實際に迂なるものなりと爲し躍起となり之を非難したるも如何せん法律には明かに署名とあれば姓名を印刷に附したる書類の無效たるは止むを得ざる所なりと謂べし長崎控訴院檢事長松室致氏が提出したる公文書僞造行使被告事件の上告趣意書の如きは全然騰寫版に附したるものなりしが被上告辯護人飯田宏作長島鷲太郎の兩氏は前判例に依り之を爭ふたる結果大審院は乃ち上告不成立の理由を以て之を却下したり當局者よろしく注意する所あるべし