雑報

外字署名の宣誓書と法律上の效力
某被告人は兵庫縣神戸市多聞通四丁目四番に寄留し同市江戸町一番館輸出入商米國ミモレウエバース商會の番頭となり居る内作三十三年六月十九日同市榮町小野田セメント製造會社神戸出張所へ舘主エバースより支拂ふべき金八百七十五圓を受領したる上其全部を費消したるを以てエバースより神戸地方裁判所に告訴に及びたるも證據不充分にて一且無罪となりて立會檢事の控訴する處となり大阪控訴院にて原裁判を取消し重禁錮四ヶ月の言渡をなしたるが被告は之に服せず高木益太郎氏を以て上告に及び過日大審院刑事第二部に於て公判開延ありたり當日上告訴訟代理人の論ずる所は「從來民刑事の訴訟に證人として外國人が宣誓する査に自國の文字を以て署名することを許し居れるも其誓果して有效なるや無效なるやは問題なり今本件の證人エフ、ソユー、デッケンの豫審調書に屬する宣誓書を視るに同人の署名捺印を缺き居れり尤も同人は自國の文字を以て之に署名し居れども我帝國裁判所の訴訟記録は必ず日本語を以て之を編成すべきことは裁別所構成法の規定する所たる故に記録の一部たる宣誓書に外國語を以て署名するが如きは固より法律の認容せざる所に屬す果して之を許すとせば右證人〓宣誓書は刑事訴訟法第二十一條「官吏公吏に非ざる者の署名捺印すべき場合に於て捺りすること能〓ざるときは署名のみを記し署名すること能はざるときは立會人をして代署せしめ捺印のみを爲し若し署名捺印すること能はざるときは立會人をして代署せしむ可し云々」たる規定に違反するを以て到底無效の宣誓たるを免れず既に宣誓書にし〓無效なる以上は其證人訊問調書も違法に歸するを以て之を適法の調書と認め證據に採用したる原裁判は破毀すべきものたり云々」と述ぶるや檢事小宮三保松氏は其論旨に同意を表して曰く「日本の裁判所に於て訴訟記録の一部を外國語に由つて書するは實に國家の獨立、文學の獨立、裁判の威嚴の上よりするも决して之を許すべきものにあらず若し裁判官中に英米の國語に通ずるものあるを以て英米人なれば可なりとする時は土其他の如き其國語に通ずる裁判官なきときに於ては果して之を如何すべき乎又其國語を識るものなきときは其文字の果たして眞正に宣誓の意を認め居るか將た却つて嘲弄の語を書し居るやも亦甄別すべからず外國人にして若し日本語に通ぜざれば裁判所構成法中明に代言を許すの規定あれば代人をして署名せしめて可なり歐米諸邦に於ても外國語を以て訴訟記録に署名せしむるの例なし本件はこの點に於て違法あれば上告は理由あるものとす云々」との論告ありたり若し此問題にして確實せる曉には獨り宣誓書に限らず其他裁判上一切の記録も亦外國の文字を以て記載したるものは法律上更らに效力を有せざるに至るべし今や内地雜居の制を開かれ外人との交通舊態を改め爾後屡々外人を以て證人等に採用する事なきにあらざれば本件は内外人の共に記臆すべき事@011903;ならんと信ず