雑報
◎支店取引問題愈大審院に現る
會社支店の手項裏書讓渡に付き大控訴院が『商事會社の支店は畢竟本店の業務取引を或場所に延長したるものなれば第三者に對する關係に付ては本支店同一體に看做すべきものなり』とて第一審判决を認め控訴人の控訴を棄却したるとは本紙第九號の記載する所なるが之に對し控訴人周慶鐘は該裁判を不當とし辯護士田中皓氏を以て上告したり其理由とする所は『原院に於て「商事會社の支店は云々」と判决したるは上告人か爲したる防禦即ち甲第一號手形第一裏書讓受人は合名會社三井銀行名古屋支店と稱する人格なきものなるか故に其裏書讓受人の記載はあれともなきに同し即ち舊商法第七百二十三條の規定に從ひ甲一、二號第一裏書讓渡は其效なきか故に被上告人か之を以て讓受の效ありとし之を請求する權なしとの主張に對し本店と支店との關係を説明したるに止まり其人格の有無及ひ裏書の效力の有無を判斷したるものと云ふを得るか故に民事訴訟法第二百三十條に違背せる不法あり』と云ふに在り而して被上告人合名會社三井銀行は辯護士林龍太郎氏を訴訟代理人とし之に答辯して曰く『(第一)支店は畢竟本店の延長にして本店と所在を異にしたる一營業所なり故に其内容に至ては本店と何等の差異あると無し又一商人の支店は一商人の一機關なりと云ふを得へし機關の行動は商人の行動なれば支店に於て爲し又は受くる行爲は主腦者たる商人の行爲に外ならす(第二)支店は獨立して一人の人格を有せさるは何人も之を了す而も一般其人格なき支店を表示して手形を取引する所以のものは他なし當事者に於て素より無效の取引を爲さんとの意に非す何々商人若くは會社なる法人其者を裏書人若くは被裏書人と爲したるものにして只其「支店」を示したるは取引の場所を示さんと欲したるに過きさるなり(第三)手形は素と形式を重し又比較的嚴格なる解釋を要す而も常識を離れ漫りに當事者の意思以外に無效を判定するは解釋法の精神にあらす故に支店なる文字は便宜上唯一の營業所を指示せる迄にして舊商法に所謂手形上重要ならさる附記と解すへきのみ盖し重要ならさる附記は法律上の要件に適する手形の文言の效力を妨くること無く只其附記のみ無效たるに止まり手形行爲の全部をして無效ならしむるの理由なきや明かなり(第四)况んや支店は固より人格なきも取引を爲す外に於ては又特種の關係を有し現に民事訴訟法第十六條に「製造商業其他の營業に付き直接取引を爲す店舖を有するものに對しては其店舖所在地の裁判所に營業上に關する訴を起すことを得」と規定し商法第十條は「本店所在地に於て登記すへき事項は本法に別段の定めなきときは支店所在地に於ても之を登記するとを要す兆と規定するか如き何れも支店に對し財産上の獨立を認めたること明かなれば其權利を有し義務を負ふに至りては當然本人たる商人若くは會社其者なるへきも其之か支店を表示したる手形は爲めに全然無效なりと云ふを得さるなり』と云ふに在り此問題にして大審院の判旨一度定まれば從來粉々たる議論爰に决するに至るべき吾人は聳目をして其判决の出つるを待つ