相續囘復分家取消請求ノ件

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大審院民事判決録（民録）2輯3巻108頁

上告論旨は原裁判所は「控訴人は喜多常蔵の最近親属なりとの故を以て常蔵の相続権を主張し本訴を提出せるも常蔵は被後見者なるに因り苟も常蔵の権利にして主張すべきものなれば其利益を保護すべき権利義務を有する後見人より出訴す可き筋合にして後見人に非ざる控訴人より本訴を提起せるは其権利なきものとす。」と判決せられたれども凡そ幼者の後見人は被後見人を代表して権利義務を行ふものなるも幼者の親属も亦[また]幼者が其権利を毀損[きそん]せられ悲境に陥り居る場合に之を救済するの権利義務を有するは我邦古来の慣習にして現今に至るも行はれつつあるものなり。 是れ骨肉相愛の情に基く自然の事柄にして条理上当然のこととす。 而して[しこうして]後見人は幼者を代表して其権利義務を行ふものにて親族は幼者保護の為め親族権を以て之を救済するものなれば其資格を異にし、且、幼者に後見人を置きし迚親族固有の権利義務まで後見人に移転するものに非ざるが故に後見人ある幼者と雖[いえども]も親族権に因り之を救済し得るは言を俟たざる所なれば親族に幼者救済の訴権なしと云ふ[いう]を得可からず。 本按は。 即ち幼者常蔵が其権利を故なく剥奪せられ後見人は元来其剥奪に賛同し今尚被上告人を賛助して該不法の行為を維持せんと勉めつつあるものなるに付、常蔵の最近親たる上告人等は常蔵を保護する為め本訴を提起せしものなり。 然るに原裁判所は恰も[あたかも]常蔵を代表して本訴を提起したるものの如き見解を下し上告人等に本訴提起の訴権なしと裁判したるは当事者の資格を顧みられざる不当の裁判なるのみならず慣習法に違背したる違法の判決なりと云ふ[いう]に在れども後見人なるものは常に被後見者の利益を保護すべき権利義務を有するものなれば若し被後見者にして権利を剥奪せらるる等不利益を蒙る[こうむる]場合あらば後見人より之が訴訟を提起するを当然とす。 若し又後見人にして被後見者の不利益あるをも顧みず其任務を尽さずとせん乎乃ち[すなわち]上告人の所謂親族権に因り後見の解除を求め得べきなり。 上告人の事茲に[ここに]出す近親なるの故を以て後見人を擱き本訴を提起したるは其当を失するものとす。 原裁判の理由も亦[また]之れに外ならずして論告の如き当事者の資格を顧みざる等の不法あることなし要するに上告論旨は一も適法の理由なきものとす。 以上の理由なるを以て民事訴訟法第四百三十九条に従ひ主文の如く本上告を棄却するものなり。