貸金請求ノ件

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大審院民事判決録（民録）1輯5巻8頁

上告第一点原裁判に於ては後見人は幼者を保護するの任務ある者にして幼者の利益とならざる行為は後見人の職務権限内と謂ふを得ずとの理由に依り本訴の請求を斥けられたり。 然れども[しかれども]本件後見人の行為は上告人より金員を借入れたる事実に外ならず。 而して[しこうして]金円の借入は幼者を害するの所為にあらざるや勿論なりとす。 故に若し本件の金円貸借は幼者を害する者なりとせば何が故に然るや其事実理由を明示せられざるべからざるは当然の儀なりとす。 然るに原裁判に於ては何が故に不利益なるや毫も[ごうも]其事実理由を判示することなく金円借入は当然幼者を害するの所為なるかの如く判示し以て上告人の貸金返還の請求を排斥せられたるは理由不備の不法を免がれずと云ふ[いう]に在り。 依て案するに後見人は所謂法律上代理人たり。 而して[しこうして]其権限に付、未だ法律の規定なき限りは後見人は幼者の為めに貸借をも為すの権あるものと見さる可からず。 然らば、即ち其貸借の果して幼者の為に必要なりしや否やの事実は幼者と後見人との関係に於ては或は其責任如何[いかん]を判定するの憑拠たる可しと雖[いえども]も第三者即ち其貸借の要否を問ふの責なき債主に対しては未だ後見人の権限に関する制限的法律の定めなき今日に在ては実際幼者に必要なしとするも幼者は其債務を免るることを得ず。 然るに原裁判は之に反し幼者の利益とならざる後見人の金銭借入は後見職務の権限外なるが如く説明し随で債主より幼者が之に付て利益を得たることの証拠を挙くるにあらざれば幼者に弁済の責務を負はしむることを得ずと判断したるものなるが故に上告論旨の如く不法にして破毀を免れざるものなりとす。 （判旨第一点）

但し本文弁明の如く原判決の要部に不法ありて其全部を破毀する以上は他の上告論旨に対し弁明を与ふる必要なきを以て此に贅せず

以上弁明する如くなるを以て本件上告は民事訴訟法第四百四十七条第一項に依り原判決を破毀し尚ほ同法第四百四十八条第一項の規定に従ひ更に弁論及び裁判を為さしむる為め本件を原裁判所に差戻す所以なり。