醫師法違犯ノ件
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大審院刑事判決録（刑録）20輯50頁
大正二年（れ）第二三二六號
大正三年一月二十二日宣告
◎判決要旨
- 一 接骨行爲ハ人體ノ創傷ヲ治療スヘキ手術ノ一種ナレハ常業トシテ之ヲ爲スコトハ醫業ノ範圍ナリトス（判旨第一點）
- 一 明治十八年三月内務省甲第七號達ニ依レハ右達實施前ヨリ既ニ接骨業ヲ爲ス者ハ格別其他ノ者ハ總テ醫師ノ免許ヲ受クルニ非サレハ該業ヲ爲スコトヲ得サルモノトス（同上）
（參照）入齒齒拔口中療治接骨等營業之者ハ明治十六年十月第三十四號布達ニ據リ醫術開業試驗ヲ經ルニ非サレハ新規開業不相成候條從來之營業者ハ此際各地方廳ニ於テ鑑札ヲ付與シ相當ノ取締法相立可申此旨相達候事」但既ニ取締法相設居候向ハ更ニ本文之手續ヲ爲スニ及ハス（明治十八年内務＄省甲第七號達） - 一 東京府令第五十八號入齒齒拔口中治療接骨營業取締規則ハ從來ノ營業者ヲ取締ル爲メノ規定ナレハ新ニ行ハレタル接骨業者ノ行爲ニ對シテハ之カ適用ナキモノトス（同上）
第一審 東京區裁判所
第二審 東京地方裁判所
被告人 八木寅次郎
辯護人 長谷川吉次
右醫師法違犯被告事件ニ付大正二年十月二十五日東京地方裁判所ニ於テ言渡シタル判決ニ對シ被告ハ上告ヲ爲シタリ因テ判決スル左ノ如シ
理由
本件上告ハ之ヲ棄却ス
辯護人長谷川吉次上告趣意書第一點被告人ハ柔道家ニシテ柔道師範ヲ以テ營業ト爲シ其傍ラ柔術ノ極意タル殺活整骨術ヲ依頼者ニ施シ居タリ之ニ對シ原院ニ於テハ醫師ノ免許ヲ有セスシテ醫業ヲ爲シタル者ト判定處罰セラレタレトモ柔道家カ施ストコロノ手術ハ醫業ト稱スヘキモノニアラス柔道家ノ手術ニ對シテハ別ニ接骨營業者取締規則ナル警察令アリ之カ免許ヲ有セスシテ手術ヲ爲シタル者ニ對シテハ輕微ナル警察令ヲ以テ處罰スヘキヲ相當トス警察令ニ罰則ノ規定無キノ故ヲ以テ醫師法所犯トシテ罰スルハ所謂比附援引ヲ爲スモノニシテ刑罰法ノ許ササルトコロナリト云フニ在レトモ◎接骨行爲ハ人體ノ創傷ヲ治療スヘキ手術ノ一種ナレハ常業トシテ之ヲ爲スコトカ醫業ノ範圍ニ屬スルハ勿論明治十八年三月内務省甲第七號達「入齒齒拔口中治療接骨等營業ノ者ハ明治十六年（十月）第三十四號布達ニ據リ醫術開業試驗ヲ經ルニ非サレハ新規開業不相成候條從來ノ營業者ハ此際各地方廳ニ於テ鑑札ヲ付與シ相當ノ取締法相立可申此旨相達候事但既ニ取締法相設居候向ハ本文ノ手續ヲ爲スニ及ハス」トアリテ右達實施前ヨリ既ニ接骨業ヲ爲ス者ハ格別其他ノ者ハ總テ醫師ノ免許ヲ受クルニ非サレハ該業ヲ爲スヲ得サルモノトス而シテ東京府ニ於テハ明治二十四年七月東京府令第五十八號ヲ以テ入齒齒拔口中治療接骨營業者取締規則ナルモノヲ設ケタレトモ右取締規則ハ從來ノ營業者ヲ取締ル爲メノ規定ナルコト其條文上洵ニ明白ナレハ明治四十三年頃ヨリ大正二年七月一日迄ノ間新ニ行ハレタル本件被告ノ行爲ニ對シ原裁判所カ右取締規則ヲ適用セス醫師法第十一條ヲ適用處罰シタルハ正當ニシテ不法ニ非ス故ニ本論旨ハ上告ノ理由ナシ（判旨第一點）
第二點原判決理由ヲ見ルニ三上進ノ左足脛部ニ於ケル負築石井竹次郎ノ右腕關節傷多田敏治ノ左手部ニ於ケル負築石渡チヨノ右射脱臼ヲ治療シ各其治療代ヲ受取リタル外七百四十名ノ負傷者ヲ治療シ云云トノミ記載シ如何ナル方法ヲ以テ治療セシヤノ理由ヲ示ササルハ所謂事實理由不備ノ裁判ナリト云フニ在レトモ◎原判決ニ被告カ醫者ノ免許ヲ有セサルニ拘ハラス三上進等ノ負傷ヲ治療シ醫業ヲ爲シタル事實ヲ判示セル以上ハ如何ニシテ負傷ヲ治療セシヤ其方法ノ如キハ之ヲ詳示セサルモ醫師法第十一條ノ犯罪ヲ構成スヘキ事實理由ノ明示ニ缺クル所ナキヲ以テ本論旨ハ上告ノ理由ナシ
右ノ理由ナルヲ以テ刑事訴訟法第二百八十五條ニ依リ主文ノ如ク判決ス
檢事矢迫秀作干與大正三年一月二十二日大審院第二刑事部